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ぼくの美味しいペペロンチーノ

 ぼくのペペロンチーノは醤油味だけど、虎丸くんのはアーリオオーリオ味なのだという。その違いは何だろう?

 お勉強会のお昼にぼくのお手製ペペロンチーノをご馳走してあげるといったら、かれはよろこんだけれど、サラダ油にチューブのニンニクを入れたのを見た虎丸くんは、とことここっちにやってきて、

「おれのと、食べ比べしようか」

 とニヤニヤした。ぼくは面白いと思って受けて立った。

 フライパンも鍋もそれぞれ一つしかなくて、コンロが二口だから、まず作りかけをちゃんと仕上げてこれを食べてから虎丸くんが作る順序である。

 ぼくはもうゆであがったスパゲッティの1.7㎜をザルに取っておいたから、いい感じに焼けてきたサラダ油の中のニンニクを箸でぐちゃぐちゃしてから、スパをフライパンにじゅーした。ぼくはちょっとこげて硬くなったくらいが好きで、ちょうど中華のあんかけみたいな麺の感じをイメージして、またご飯のおこげも好きな僕はそれも思い描きながら、いい感じの色になったスパに醤油をちょろりするのだった。いい匂いがした。ぼくはふたつのお皿にひとり分を二つに分ける。アツアツのうちに召し上がれとぼくは陽気に言った。

 が、虎丸くんはキザにも掌をペペロンチーノのうえにかざして、匂いが自分にかかるようにひらひらさせた。そして言うのだった。

「ニンニクがもう焦げの匂いしかないね。それに醤油が強すぎてぜんぜんニンニクの良さが感じられないよ。この感じじゃあスパゲティーの小麦の風味はまったく味わえないだろうね。そもそもキミねえ……」

 ここでかれは外国人のような手つきで両の手のひらを天井に向けて、やれやれをしてから――それはとびっきりもったいぶったやれやれだった――鼻で笑い、また続ける。

「……そもそもキミねえ、ペペロンチーノとはどういう意味か知っているかい? おれの知識が正しければ、イタリア語における唐辛子を意味するのだが、キミのその、スパゲティー炒めには、ちょっと見当たらないねえ……赤いろがどこにもないじゃないか。キミ、これはペペロンチーノへの冒涜ではないか? そんなことよりも、キミ、あまりにも酷い作り方だよ。これは焼きそばのやり方だ。焼きそばなら一級品なのかもしれないが、あいにくおれはイタリアンが性に合うのでね、ちょっとキミ、これは笑えてしまうよ。じゃあおれが手本を見せてやろう。ところでキミのうちにはオリーブオイルはあるのかね?」

 ぼくがそんな油ないよというと、虎丸くんはじゃあ買ってくる、せっかくだからおれが愛用しているスパゲティも買って、ニンニクと、それからキミが入れなかった鷹の爪を買ってきて、ほんとうのペペロンチーノすなわちAglio olio e peperoncinoを食べさせてあげよう、と一人で喋り尽くしてから、ぼくの焼きスパゲッティーに箸もつけないで出て行ってしまったのである。

 彼が出ていった後、ぼくは玄関に鍵をかけてから、ほんとうのペペロンチーノを思い描きながら、半人前のぼくのペペロンチーノを食べた。ぱりぽりした歯ごたえがとってもうまかったから、虎丸くんのためによそったもう一つの皿にも手を付けて、全部食べると、歯を磨いて、まだ外が明るいうちからお布団に入った。お昼寝したくなったのだった。掛布団のなかで丸まっていると、ぼくの口からはちゃんとニンニクの匂いがして、やっぱりぼくのはペペロンチーノに違いないと思い直すのだった。おわり

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