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冷やし中華始めました

作者: 狸寝入り

 俺は決まってお昼にラーメンを食べてから、会社に戻る。


 営業マンをしている俺のそれが、ルーティーンだ。


 会社から五分ほどの寂れた店が並ぶロードサイドで、ひっそりと行きつけの店は佇んでいた。


 横開きのドアを開け、中に入りカウンター席の一番奥に座る。


 相変わらず、夏の今の季節には俺以外の客がいない。


 冷房がないのが原因だろう。


「いらっしゃいませ、今日は一段と暑いですね」


 厨房の方から、小学生くらい店主の娘さんが出てきて笑いかけてきた。


「そうだね。今日の外回りはこたえたよ」


 俺はその子の方を向き笑いかけ、横眼に見える店主が動かないことに違和感を覚える。


「今日は、新メニューがあるんです」


 その言葉に俺の疑問はすぐに解決を迎えた。


 この店は醬油ラーメン以外にメニューはなく、座ると同時に店主がラーメンを茹で始めるのだ。


「へぇ、何ができたのかな?」


「冷やし中華です。お父さんがかたくなに作ろうとしないから、私が始めさせてもらいました」


「店に貢献したいんだね? せっかくだ、今日は冷やし中華にしようかな」


 俺は彼女の提案にのることにした。


 たまには冒険もいいだろう。


「はい、冷やし中華ですね! ありがとうございます」


 彼女はいっそ笑顔を浮かべて、厨房の方のかけていった。


 店主は何故か頭を押さえて、娘に場所を譲る。


 慣れた手つきで麺を茹で湯切りし、皿に盛り付け冷蔵庫から取り出した黒い液体をかけていく。


 醬油ベースなのかと期待があがる。その様子に俺のお腹がぐるりと鳴き催促をしてきた。


 彼女はさらに冷蔵庫から取り出した白いクリーム状のものをかけていく。


 ラードだとしたら健康に悪そうだ。


 そして、次の工程で俺はあまりの驚きに席を立ってしまう。


 みかんだと? サクランボならまだわかるが、ミカンは見たことがない。


「どうしました?」


 俺の様子に彼女は不思議そうに聞いてきた。


「い、いや、何でもないよ」


 俺は何とか心を落ち着かせ席に座り直す。


「? もうすぐできますよ」


 彼女はにへらと笑い、頂点にあたる場所にサクランボをのせ完成を迎える。


「……ありがとう、いただきます」


 俺はお礼を言って、目の前の置かれた異色な冷やし中華に箸を入れ麺を掴む。


 中太のちぢれ麵にドロッとしたたれが絡みつく。


 俺は本能に任せて、麺をすする。


「……う!?」


 口に広がる予想外の味に、むせてしまいそうになった。


「大丈夫ですか?」


 その様子に彼女は新しく入れたお冷を手に、厨房から出てきて差し出してくれる。


「ぷ、ふぅー。ありがとう。この冷やし中華にかかっているのって、黒蜜?」


 そう、最初にかけていたのは醤油ダレではなく黒蜜だったのだ。


「はい、甘くておいしいですよね」


 彼女は元気に聞いてきた。


 俺はもう一口食べてみる。


 口の中が甘い。ラードに見えていたのは生クリームで、これはデザートと言っていいだろう。


 だがそうと分かればこれは__


「意外とうまいな」


「良かった。これでお客さん呼べますよね?」


 デザートとすればうまいのだ。彼女は俺の言葉に嬉しそうにはしゃいでいる。


「そうだね、若い子はすごく好きそうだね」


「お父さーん、美味しいって」


 彼女は住居部分につながっているであろう、場所に向かって言う。


 俺は麺をすべて食べきって__


「醤油ラーメンを一つ」


 ラーメンを注文した。


 そう、これはデザート。主役はやはりラーメンだ。


「え? あ、はい。お父さん、ラーメン一つ」


 彼女の声にどこか嬉しそうに店主が姿を見せてくれる。


 何も言わずただラーメンを茹で、器用に盛り付け俺の前にドンっと勢いよく置いた。


 醤油と魚介の匂いに食欲がわく。


 具材は海苔とチャーシュー後はナルト。


 俺は麺を掴み一気にすする。


 ストレート麺ののど越しがいい。


 額を伝う汗も気にならない。


「ごちそうさまでした」


 すべての具材と麺を食べきり、俺は胃が満足しているのを感じ笑顔を浮かべそう口にする。


 夏限定のルーティーンが、俺の中で爆誕した日だった。


(完)


















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