第8話 赤き烈風、蘇る
傷付いたアントラー号を抱え、ジャイガリンGの本体が待つ火山頂上を目指すゴッドグレイツ。しかし、その道は決して容易いものではなかった。
「こいつら……遠慮もなしにどんどん湧いて来るッ!」
「マコト、次のお客さんだッ!」
「分かってるッ!」
敵の弱点を突くのは戦いの定石。その基本を忠実に守り、エース・ドール達は片腕が塞がっているゴッドグレイツに狙いを集中させてきたのだ。
全方位から飛ぶ熱線を最低限の動作でかわし、接近して来る個体を「カーボナイズ・フレア」で消し飛ばす。アントラー号に被弾させないように立ち回りながら前進するゴッドグレイツの挙動は、真薙真とガイのコンビネーションあってこそのものであった。
「1機仕留めるためだけに、随分と大盤振る舞いじゃねぇか……どんどん数が増えてやがるぜ!」
「何体来たって、やることは変わらないでしょ!」
それでも、多勢に無勢であることに変わりはない。攻撃のみに全力を割けない分、エース・ドールの「供給」が撃破数を上回ってしまうのだ。
すでに真紅のスーパーロボットは、何十という機械人形達に包囲されてしまっている。
「……ッ!?」
だが。その包囲網も、長くは続かなかった。突如飛んで来た高エネルギー弾の閃光が、ゴッドグレイツの行手を阻んでいた群勢を纏めて消し飛ばしてしまったのである。
機械人形もろとも、彼らが立っていた地面まで焼き払うほどの破壊力。その凄まじい射撃を実行に移した白い巨人は、遥か遠方からロングライフルを構えていた。
「こいつらはオレ達が抑える! 先に進んでくれッ!」
「……誰だか知らねぇが、助かったぜ。マコト!」
「うん!」
ガイファルド・セイバーと一体になり、共に引き金を引いていた天瀬空翔は、その銃口から放つ光弾を以て道を切り開く。
彼らの支援を受けて、再び前進するゴッドグレイツ。その紅いスーパーロボットに運ばれ、火口を目指すアントラー号の中で――竜史郎は確かに、目撃していた。
「ここから先は……一歩も通さないッ!」
狙撃の隙を突き、後方から迫り来るエース・ドール。その奇襲を見抜き、1丁のロングライフルを2丁のバリアブルガンに変形させ、二つの銃口で近距離の敵を一掃する。
「……凄い……!」
そんなガイファルド・セイバーの勇猛にして、流麗な戦い振りを。
「また新手ッ……!?」
しかし、そのガイファルド・セイバーといえども、全ての敵を残らず撃ち抜けるわけではない。2丁のバリアブルガンで殲滅するには、この数はあまりにも多過ぎる。
ゴッドグレイツとアントラー号の進行を阻止せんと、再びエース・ドールの群勢が飛び出て来たのだが――その「量産」の速度は、次弾装填が追い付かないほどのペースに至っていたのだ。
「通さないって……言っただろッ!」
自分を狙う個体を矢継ぎ早に撃ち抜きながら、その場で素早くバリアブルガンを再びロングライフルへと連結させ、狙撃体勢に移行する。
「……!? あれは……!」
だが。空翔が覗き込んでいるスコープに映されたのは――エース・ドールの新手、ではなく。
「ナイトッ!」
「御意ッ!」
その先頭を走っていた個体を背負い投げで破壊し、新手の出鼻を挫いていた――ナイトキャリバーンであった。相棒のナイトと共にこの巨人を操るプリンセス・フレアは、自信満々な笑みを浮かべ、機械人形達を相手に大立ち回りを披露している。
荘厳たる出で立ちの竜騎士は、その力強い外観に相応しい豪快な手刀で、竜史郎達を襲おうとしていた群勢を次々と叩き伏せていく。粘土細工のようにひしゃげていくエース・ドールの惨状が、その威力を如実に物語っていた。
「姫ッ、卑劣な者共が真紅の同胞に!」
「分かってるわよッ! ミエミエなんだからぁッ!」
だが、全ての尖兵がナイトキャリバーンにのみ群がっているわけではない。真っ向からでは撃破できないと「学習」した別働隊は、彼女達を避けて迂回するように竜史郎達を狙おうとしていた。
もちろん、それを黙って見過ごすフレアではない。彼女とナイトの思考がリンクした瞬間、ナイトキャリバーンは地を蹴り別働隊の眼前に躍り出る。
「ご覧なさいッ! これがF.P・ヘッドシザーズ・ホイップよッ!」
両脚による挟撃で1機の頭部を挟み込みながら、スラスターの逆噴射で宙返りを敢行する竜の騎士。その推力に巻き込まれた1機が、弧を描きながら地面へと脳天から突き刺さったのは、それから間もなくのことであった。
「ふふん、どう? これで少しは――」
逆立ちの姿勢から鮮やかに着地するナイトキャリバーンの傍らで、地表を裂きながら崩れ落ちていくエース・ドール。
そんな光景を見せ付けられたとあっては、恐怖に慄き逃げ出すところなのだが。
「……理性も本能もない、ただ主人の命令に従うだけの人形には無意味……か。つくづく救えないわね」
「ならば、我々が救うまで。……参りましょう、姫」
「言われるまでもないわ。行くわよ、ナイトッ!」
司令塔である「Z」に命じられるまま戦う。ほれ以外の選択肢が存在していないエース・ドールには、恐怖という感情など存在しないのだ。
彼らは同胞が何体倒されようと、どんな技で倒されようと、恐れることも躊躇うこともなく群がって来る。死すらも厭わぬ、命なき兵隊でしかない。
「いざ……抜剣ッ!」
そんな機械人形達に、ある種の哀れみすら覚えながらも。フレア達はこの戦いに終止符を打つ、大きな一歩として――鞘と化した竜の尾から、白銀の剣を引き抜くのだった。
空となった鞘はスタビライザーを担う尾へと戻り、ナイトキャリバーンは手にした「伝説の剣」を中段に構える。
「ブレイブ・チャージ――!」
「――グロー・アップ!」
「「エクスキャリバー!」」
2人の叫びがスイッチとなり、その鍔が翼の如く展開。中央の宝石から溢れる輝きが剣身を包み、その全てに光を纏った。
やがて八相に構え直したナイトキャリバーンの身体は、竜翼を広げ展開されたスラスターの推力によって、空高く舞い上がり――「碧光剣エクスキャリバー」による斬撃を見舞う。
「くらえ必殺! 極限剣ッ!」
「ブレイブリー――スラッシュッ!」
例えるならば、碧の閃光。その刃はエース・ドールを脳天から真っ二つに裂いていた。
さらに。あまりに強過ぎる威力の余波が地表をも斬り開き、そこから溢れ出すマグマの爆炎が他の個体まで次々と巻き込んでいく。
「……成敗」
その一言を、2人が呟く時。眩い剣閃と余波によるマグマの熱で、彼らの周囲は文字通りの更地と化していた。
剣を鞘に収めた彼らの近辺にはもう、エース・ドールは1機も残っていない。が、別の場所では他のスーパーロボット達が戦闘を続けている。
「……と、言いたいところだけど。まだまだ戦いは終わってないんだし、アタシ達も休んでなんかいられないわね! ナイト、もう疲れたなんて言わせないわよ!?」
「無論ッ! このナイト、例え火の中マグマの中! どこまでも姫に付いて参りますぞッ!」
「火とマグマって若干被ってない……? まぁいいわ! さぁアンタ達、このプリンセス・フレアが道を切り開いてあげたわよ! 有り難く先に進みなさ――!?」
当然、彼らには「消耗」を理由に引き下がる選択肢などない。
勇ましい表情を浮かべるナイトと共に、他の戦地に合流しようとしていたフレアは、竜史郎達がいた方向へと満面の笑みで振り向く――の、だが。
その頃にはすでに、彼らは遥か先の頂上付近まで駆け登っていたのだった。鮮やかな必殺剣で機械人形達を撃滅した、ナイトキャリバーンの活躍を――視認する暇もなく。
「――ちょっとぉおお!? 今アタシすっごい活躍してたんだけど!? ちょっ、待って、待ちなさいったらぁあ! せめてなんかコメントしていきなさいよぉおぉ!」
「姫、お鎮まりくだされ! 今はまだ戦闘中でありますゆえ!」
「うるさぁぁあいッ!」
せっかくいいところを魅せたはずなのに、認識すらされないまま走り去られてしまったのである。
その悔しさに地面が揺らぐほど地団駄を踏み、ナイトの諫言にも耳を貸さず。涙目になっていたフレアの慟哭が、この戦場の天に轟いていた。
「おらぁあぁあッ!」
そんな彼女の嘆きをよそに、アントラー号を抱えるゴッドグレイツを守るべく。エース・ドールの大群を打ち払うべく、ステゴロオーもその巨大な鉄拳を振るい続けていた。
50m以上ものステゴロオーと、20m程度のエース・ドールとでは、勝負になるはずもなく。圧倒的な物量差すら跳ね除けんとする勢いで、鬼の巨人は機械人形達を圧倒していた。
しかし。いくら殴り飛ばそうと、蹴飛ばそうと、踏み潰そうと。恐怖を知らない彼らは一瞬の躊躇いもなく、ステゴロオー目掛けて襲い掛かって来る。
その不気味さに機体を操縦している道明寺落雁も、武装を管理している鹿子も、眉を顰めていた。
「あぁクソッ、フレア達に先越されちまってんじゃねえかッ! 鹿子、オレ達も負けてらんねぇぞッ!」
「分かっておるわ! 光子障壁、隼人楯ッ!」
「ぶっちぎるぜ……ステゴロオーッ!」
だが、心無き兵器を相手に引き下がるような彼らではない。落雁の背後で武装を操作している鹿子が、表示されたホログラフィーに触れる瞬間――ステゴロオーの両腕に、碧い光の膜が発現する。
隼人楯と呼ばれる、防御を目的としたその障壁を攻撃に転用し。落雁は膜を帯びた鉄拳で、向かってくる雑魚を薙ぎ払っていく。
そのうちの1体が拳打の隙間を縫うように、コクピットがある頭部に飛び掛かって来たが。すでにその動きを看破していた2人は、迎撃の準備を整えていた。
「雷角・作動ッ!」
「おらよォッ!」
額から伸びる角。その先端に雷光を纏わせ、ステゴロオーは勢い良く頭を振るう。
頭突きの要領で放たれた一撃は、弱点であるコクピットを狙おうとしていたエース・ドールを、一瞬のうちに串刺しにしてしまうのだった。
このステゴロオーに弱点など存在しない。角から迸る雷撃を以て、そう知らしめるかの如く。
だが、なおも機械人形達は落雁と鹿子を取り囲み、戦い続けようとしていた。その光景に痺れを切らしたのか、落雁はこめかみに青筋を浮かせている。
「コイツら、数に物言わせてゾロゾロと……! ラチがあかねぇッ!」
「ラク、物量なら妾達にこそ分があるというものじゃ! アレをやるぞッ!」
「わかってらァッ! さっさとやりやがれッ!」
「そう急かすでないっ! 照準解除、全方位発射っ!」
そんな相棒の憤怒を汲み、鹿子はホログラフィーに触れる指先を振るい、さらなる武装を展開させる。
亀のように身を屈めたステゴロオーの全身から、砲口が出現したのはその直後であった。そこから飛び出す光線が、全方位に飛びエース・ドール達を次々と撃ち抜いていく。
「うわわわっ! ちょっ……! あっぶないわね、あいつらっ!」
「相変わらず獰猛な御仁だ……!」
その影響は近くで戦っていたナイトキャリバーンにも及んでおり、フレアとナイトは顔馴染みの相変わらずな暴れっぷりに呆れ返っていた。
それでも彼女達は巻き込まれることなく、自分達にも飛んで来た光線を全て回避している。付き合いの長さがあってこそ、成し得る芸当なのだろう。
「へっ、しっかり離れとかねえと怪我しちまうぜフレア! ――鹿子! 一気に蹴散らすぞッ!」
「うむッ! 昇華神器、天叢雲剣! 最終拘束機関、解錠! 右腕部へ顕現ッ!」
その一斉射撃を以て、エース・ドールの数も大幅に減らすことができた。が、まだまだ戦いが終わる気配は見えない。
かといって、先程のように味方を巻き込みかねない攻撃を多用するわけにもいかない。エース・ドールのみを徹底的に叩くべく――落雁と鹿子はステゴロオーの機体に秘められた、最大火力の必殺技を解放する。
「……おおおぉッ!」
全身を包み込んだ輝きは、やがて右拳へと集約され。落雁の雄叫びに同調するかの如く、ステゴロオーの「口」が開く。
地面を踏み砕きながら爆走する50m級の巨体は、エース・ドールが密集している地点を目指し。太陽の如き輝きを放つ拳を、雄々しく振り上げていた。
「最終昇華承認、アメノムラクモノツルギッ!」
「纏めて吹き飛び……やがれぇぇえッ!!」
機械人形達の両眼から放射される、赤い熱線。その集中砲火を浴びながらも、怯むことなく。
光の鉄拳が届く間合いまで、ついに辿り着いたステゴロオーは。神の裁きの如く、その右拳を振り下ろし。
天を衝く爆炎と轟音を齎して――エース・ドール達を、一撃のもとに撃滅するのだった。
その凄まじい火力に、近くで戦っていた「豪炎の同盟」の巨人達までもが、思わず目を奪われる中。山頂から戦況を静かに見据えていた「Z」は、さらなる増援部隊をステゴロオーに差し向けていく。
倒しても倒しても減る気配が見えない機械人形の大群を前にして、落雁は苛立ちを募らせるように、特徴的なリーゼントヘアを掻きむしる。
「……くそったれが! まだ全然減ってねえじゃねえか! あのちっこいドリル戦車、アテになるんだろうな!? 漢気は認めるけどよォ……!」
「今は信じるしかなかろう! それに……例えどれほど不利であろうと、この期に及んで引き下がる其方ではあるまい?」
「ハッ……言うじゃねえかババア、大正解だぜ。アイツに道が必要だってんなら、切り開いてやろうじゃねえか! オレ達の手でよォッ!」
だが、鹿子の言葉に背を押された彼に、諦めるという選択肢は存在しなかった。
両拳を突き合わせ、改めて機械人形達に向き合った鬼の巨人は――さらなる「地獄」を思い知らせるべく。絶え間なく熱線を撃ち込んでくるエース・ドール達に、容赦なく殴り掛かっていくのだった。
「くッ……! 攻撃がどんどん激しくなってるッ!」
一方、アントラー号を抱えるゴッドグレイツは、頂上まであと僅かというところまで辿り着いていた――の、だが。
それはつまり、エース・ドールを次々と排出している「Z」との距離も縮まっているということであり、こちらを迎え撃つ敵の攻勢が激しくなるということも意味している。今まで辛うじて熱線をかわし続けてきた真紅の機体にも、「かすり傷」が増え始めていた。
「マズい、熱線が――ッ!?」
「危ないッ!」
このままでは直撃のリスクも高まっていく。竜史郎達の思考がそこに至る瞬間、物量にモノを言わせた熱線の豪雨が襲い掛かって来た。
回避など、出来るわけがない。瞬く間にそう判断したゴッドグレイツは、咄嗟にアントラー号を庇うように防御体勢を取る。
「えっ……!」
「やってくれるなぁ……MEもどきがッ!」
しかし、その豪雨がゴッドグレイツに降り掛かることはなく――真紅のスーパーロボットは、50mの巨躯が生み出す影によって覆い尽くされていた。
嵐を凌ぐ盾となり、ゴッドグレイツに代わって全ての熱線を受け切ったロボットマンが、竜史郎達を守り抜いたのである。反撃とばかりに、胸部のビーム砲でエース・ドール達を焼き払い――赤の巨人は雄々しく拳を構えていた。
「そのドリル戦車を運びたいんだろ!? だったら早くッ!」
「……うん、ありがとねッ!」
「助かった!」
巨人のパイロットである真進ユウトもまた、アントラー号を担ぐゴッドグレイツの姿から状況を察した1人であり。ロボットマンの両眼から放つ光線で牽制しつつ、彼は竜史郎達に前進を促していく。
真と竜史郎が手短に礼を言った瞬間、素早く機械人形達の方へと向き直ったロボットマンは、彼らの姿を自らの巨体で隠すように立ちはだかった。エース・ドールの群れも、先にこの巨人から倒さねばならないと判断したのか、狙いを切り替えている。
「……残念ながらその計算は大ハズレだ。お祖父ちゃんが作ったこのロボットマンはあいにく、そんな武器じゃあ傷ひとつ付かないんだよッ!」
だが、その判断は集中砲火でロボットマンを倒せるという前提に基づいている。それ自体がまず不可能なのだ、と言わんばかりに――バリアを纏った巨大な鉄拳が、先頭の1機を吹き飛ばしてしまった。
その巻き添えを喰らう形で、2機、3機と打ち砕かれて行く。やがてたった1発のパンチで、何十機ものエース・ドールが破壊されてしまうのだった。
「お前らみたいなのがのさばってるからッ! いつまで経っても誰がどれだけ戦ってもッ! 平和が戻って来ないんだァッ!」
このロボットマンを唯一操縦出来る者として、幾度となく酷使されて来たユウトにとって――今回の戦闘は、いわば寄り道。ここを乗り切った後も彼は、MEと呼ばれる機械生命体の脅威と戦わねばならない宿命にある。
その過酷な環境により蓄積されて来た鬱憤もあってか、ロボットマンの攻撃は苛烈を極めていた。倍以上の体格差にモノを言わせた回し蹴りが、無数のエース・ドールを紙切れのように跳ね飛ばして行く。
「……だからさ。これだけでも、早く終わらせてくれ。そして僕にも見せてくれよ、平和ってヤツを!」
そして、この地球を救うために。何より、心から守りたいと思える、数少ない誰かのために。
先に進む竜史郎達の盾となり、今なお増え続けるエース・ドール達を相手取るロボットマンは、胸部のビーム砲を絶え間なく撃ち続けるのだった。
「同じ50m級として、俺も彼には負けてられないな……! 君達も先を急いでくれ! ここは俺が食い止めるッ!」
「あぁ、頼んだ!」
「ありがとねっ!」
ロボットマンと離れてからも、敵勢の攻撃はますます激しくなっていく。そんな中、熱線の豪雨からアントラー号とゴッドグレイツを護っていたのは――巨大な盾を傘にして、彼らと並走するグランパラディンだった。
50mもの体躯を誇る白銀の聖騎士は、遠くで戦っているロボットマンを一瞥しつつ、接近してくるエース・ドール達をグランハルバードで斬り払っていく。聖騎士の巨体に見合うリーチの長さ故、斧槍の切っ先は広範囲の機械人形を一振りで仕留めていた。
そんな彼を仰ぐ竜史郎と真の言葉に頷き、グランパラディンを操る破天荒士は、前方から雪崩れ込んでくるエース・ドールの大群に目を向ける。
「……それに彼にはどこか、他人とは思えないようなところがあるし。彼の分まで、しっかり護ってやらないとな。そうだろう、祖父ちゃん!」
戦いを長引かせないためにも、彼らが迂回する必要のないルートを作らねば。
そう判断した荒士は、同じ考えを持っていた聖騎士――祖父の荒太郎と共に、グランハルバードを振り上げた。
「必殺――グランチョップッ!」
機内から響く祖父の声と同調する、荒士の雄叫びがスイッチとなり。青い光を宿した斧槍と、その刃に集中する「力」の矛先が、機械人形達へと向けられる。
やがて振り下ろされた、蒼光の一閃。その「力」の発露は大地もろともエース・ドール達を吹き飛ばし――背を向け残心を取るグランパラディンの後方が、噴火の如き爆炎に彩られていた。
「す、すごっ……とにかく道が開けたっ! あの子の言う通り、先を急ごう!」
「あ、あぁ!」
その凄まじい破壊力に、驚嘆しつつ。聖騎士の一閃によって切り開かれた道を進むべく、アントラー号を抱えたゴッドグレイツは焦げた地表とエース・ドールの残骸を踏み越え、山頂を目指してひた走る。
「あぁ、分かってるよ祖父ちゃん。……俺達はまだ、戦いをやめるわけには行かない。勝ち続けるしか、道はないんだ」
そんな彼らを見送りながらも。気を抜くことなく斧槍を握り締めたグランパラディンは、自身を取り巻く機械人形達の包囲網を睨み据えていた。
先ほど多くの同胞を吹き飛ばしたばかりだというのに、もう次の「新手」が量産されたらしい。だが、その対応の速さは敵方の「焦り」を感じさせるものでもあった。
「――来い」
そんな連中を相手に手こずってはいられない、とばかりに。勇ましくグランハルバードの切っ先を振り上げた聖騎士は、全方位から迫る機械人形を恐れることなく迎え撃つ。
彼らにとっては、この死闘すらも前哨戦に過ぎないのだ。祖父の魂を宿したグランパラディンの旅路は、まだ途中なのだから。
◇
――無尽蔵に湧き出る「天雷の軍勢」を、次々と蹴散らしていく「豪炎の同盟」の巨人達。彼らの奮戦を見守っていた竜史郎達は、ついに火口の目前へと辿り着いていた。
「待たせたな! お望み通り、てっぺんまで来たぜ!」
「ここでいいの!?」
「あぁ、大丈夫! この先で――!?」
だが。機械人形を蹴飛ばし、アントラー号を担いで走るゴッドグレイツに向かって、竜史郎が叫ぶ瞬間。
『――見付けましたよ、フブキ・リュウシロー』
彼らを発見した「Z」がその赤い両眼から、エース・ドールのものとは比にならない火力の熱線を放って来る。
「……ッ!」
『超光波――ビーム』
その直撃を浴びたゴッドグレイツは、ボディを構成する緑色の胴体から焼かれ――崩れ落ちていった。紅い巨神の手を離れたアントラー号も、宙へと放り出されてしまう。
「うぁああッ! み、皆ァッ……!?」
もはや万事休す。かに、見えたが。
赤と青の双眸を持つ頭部だけは、無事だったのである。破壊された胴体から脱出していたガイは、地に転がっていたエース・ドールに飛び移っている。
「……やはりな! こいつら無人機ではあるが、基に使われた有人機の機構をそのまま転用してやがる! しかも規格は、SVに近い!」
「だったら……使えるッ!」
彼は「空洞」になっていたエース・ドールのコクピットに飛び込むと、素早く「有人機」として再起動させた。立ち上がったその機体に、真を乗せた頭部が覆い被さるように合体する。
破壊された胴体に代わり、エース・ドールのボディが――ゴッドグレイツの「身体」を担ったのだ。この形態に敢えて名を付けるならば、ジーオッドA。
――「神なる偉大」と称される、このマシンに秘められた最大の武器。
それは頭部さえ無事なら、合体相手を一切問わない究極の汎用性にあるのだ。さらにジーオッドの「力」を以てすれば、元のスペックすら遥かに凌駕してしまうのである。
先刻まで本機のボディを担っていた緑色の人型兵器――「ビシュー」も、その恩恵で本来の性能では成し得ない攻撃を繰り出していたのだ。
「……ッ!? あの無人ロボットをボディにしたのか!?」
「あいにく、このゴッドグレイツは合体相手を選ばないのがウリでな!」
「これくらいで倒れたりなんか、しないってこと!」
新たにダークブルーのボディを得たゴッドグレイツは、放り出されていたアントラー号をキャッチすると。そのまま何事もなかったかのように、前進を再開していた。
ただのエース・ドールでは、到底真似できないほどの疾さで。
『小賢しいッ!』
身体を取り替えようと、結果は変わらない。そう言わんばかりに、「Z」はビシューを破壊した熱線を再び撃ち放つが――ゴッドグレイツは、その全てをかわし続けている。
この身体はもはや、お前が生み出した機械人形とは違うのだと。その挙動を以て、証明するかの如く。
「くッ……行き先はこの火口だ! このまま投げてくれ、思いっきり!」
「投げるって……この火山のど真ん中に!?」
「そうだ! ここまで送ってくれてありがとう、あとはオレがなんとかするからッ!」
「ありがとうったって……!」
「マコト、ここは信じるしかねぇ!」
「あぁもうッ、どうなっても知らないからッ!」
やがて、熱線の嵐を巧みに掻い潜り――ゴッドグレイツはついに火山の頂上に到達する。
だが、「Z」の熱線は苛烈さを増していく一方であり。竜史郎の突飛な要請に、躊躇する暇もない。
「「行ッ、けぇえぇえぇッ!」」
「おおおぉおぉおおぉおッ!」
やがて彼らは、意を決してアントラー号を火口目掛けて投げ飛ばし――竜史郎の雄叫びが、赤く沸き立つマグマの奥深くへと轟いて行く。
「ジャイガリィィイィイン――ゴオォオォォッ!」
その絶叫が、「そこ」に届いた時。ついに、土塊色の鉄人が目覚め――その真の力を、開放する。
それはさながら、モーセの奇跡のように。
赤いマグマの海が2つに裂け、その中央から飛び上がって来たジャイガリンGのボディが、高速落下するアントラー号を出迎えたのである。
――我が帝国を倒した貴様が、ロガ星人に敗れるなど余が許さん。これ以上、この地球を奴らの好きになどさせるな。
そんなゾギアン大帝の怨嗟が、土塊色の機体を衝き上げているかのようだった。
「アンットラァアッ――セエェット!」
真っ向から激突するかのような、頭脳部へのドッキング。アントラー号の先端部が「鼻先」になった瞬間、それは「完了」した。
「あの人の目的って……これッ!?」
「随分と派手なご登場じゃねぇか……!」
その衝撃を経てなおも、ジャイガリンGは勢いを失うことなく空へと舞い上がり――やがて轟音と共に、火山の頂上へと着地する。
ゴッドグレイツのおよそ2倍に迫る全長30mの鉄人が、今ここに完全なる復活を遂げた。
そして、次の瞬間。着地による衝撃が烈風となって戦場に吹き抜け、火山雷が轟く時。
肩越しにジャイガリンGを見遣る「Z」は、倒すべき「好敵手」の方へと向き直り。決戦の、幕を上げる。
『……帰って来ましたか。それでこそ、あなたですよ……フブキ・リュウシロー』
「……決着を付けるぞ、ペルセッ!」
その勇姿は地球の盾か、あるいは剣か。
ゾギアン大帝の無念を背負い、赤熱するジャイガリンGは、両腕を振り上げ――咆哮する。