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第7話 鋼鉄の守護神達


 エース・ドールの大群と、それを迎え撃つスーパーロボット達の激戦。その真っ只中に飛び込み、山頂を目指してひた走るアントラー号の頭上では、爆音と轟音が響き続けていた。

 当然、全ての敵を殲滅せよと命じられた機械人形達が、竜史郎を見逃すはずもなく。無防備なアントラー号に、何機ものエース・ドールが飛び掛かって来る。


 だが、その刺客達が紅いドリル戦車を踏み潰す前に。ゴッドジャスティスが振るう剣――「ジャスティスソード」の白刃が、邪魔者を瞬く間に斬り捨ててしまった。


「そこのドリル戦車! 危険です、下がってください! こんなところ走っちゃダメだッ!」

「済まない、行かせてくれ! あの巨人を止める方法があるかも知れないんだ!」

「あれを……!?」

『勇希……この青年、嘘はついていないようだ。賭ける価値はある、と見るが』


 ゴッドジャスティスに搭乗している勇希という少年は、竜史郎の身を案じて退避を促すが――竜史郎としても、引くわけにはいかないのだ。ゴッドジャスティス自身の人格であるAIも、彼の意図を汲み取っている。

 何より、ここまで来てしまっては退避すらも困難なのだ。すでに後方からも、ゴッドジャスティスとアントラー号を狙う機械人形達が迫って来ているのだから。


「……分かりました。僕達もお手伝いします! ただし、何がなんでも生きてあそこまで辿り着いてくださいね!」

「あぁ、約束する! ありがとう!」

「よし……守るよ、ゴッドジャスティス! ここに腰抜けは居ないってことを、僕達で証明してみせるッ!」

『無論だ!』


 引くも地獄とあらば、もはや是非もなし。頂上を目指して猛進するアントラー号を背に、ジャスティスソードを握り直したゴッドジャスティスは、エース・ドールの大群に真っ向から挑んでいく。


 鉄人達の両眼から放射される熱線を掻い潜り、間合いに入った「正義」の使者。その手に握られた剣が閃き、何体もの機械人形が瞬く間に崩壊して行った。

 だが、エース・ドール達はその方向からしか来ないわけではない。すでに出撃していた新手が、アントラー号の行手を阻もうとしていた。


『勇希ッ!』

「うん! ――決めるよ、ゴッドジャスティスッ!」


 正義の名を冠するスーパーロボットが、守ると宣言した以上。その誓いを違えるわけにはいかない。

 手にした剣を投げ付け、先頭の1機が沈む瞬間――ゴッドジャスティスは勢いよく地を蹴り、アントラー号を頭上を飛び越していく。


「ゴッドジャスティスッ――キィィィックッ!」


 そして、神々しく太陽を背にしたゴッドジャスティスの飛び蹴りが。アントラー号を襲っていたエース・ドールの大群を、瞬く間に吹き飛ばしてしまうのだった。

 周囲に機械人形達の残骸が四散し、再び道が開ていく。だが、エース・ドール達はまだまだ沸き続けていた。


「ドリル戦車さん、今のうちに! ここは僕達に任せてッ!」

『正義は神とともにあり! 恐れず進め、地球の戦士よ!』

「ありがとう!」


 ガラクタと化したエース・ドールの1機からジャスティスソードを引き抜き、ゴッドジャスティスと勇希は再び敵群に飛び込んでいく。その勇ましい背中を見送り、竜史郎は再びアントラー号を走らせていくのだった。


 それから間も無く、ゴッドジャスティスとは別の攻撃によって――エース・ドールが何機も吹っ飛ばされて来た。アントラー号の眼前を横切る鉄塊はどれも、首だけを綺麗に斬り落とされている。


 その斬撃が清姫(プルガレギナ)弐号機の仕業であると判明したのは、機械人形だった残骸が飛んで来た方へと、竜史郎が振り向いた時だった。

 完全幽体化(フル・エセリアライズ)によって、姿を消していた深紅の鎧武者は――やがて紫色の炎を纏い、竜史郎の前に現れたのである。全長7mしかない()の剣士は、20mもの鉄人達を最低限の斬撃で屠り続けていたのだ。


「……話は聞こえていましたよ。まさにヒーロー、って感じですね」

「ヒーロー……か。オレはそんな器じゃないよ。こんなことに巻き込んで済まない、君も無理はしないで危なくなったらすぐに――!?」


 しかしいくら優れた性能を持っているとはいえ、体格差は大きく劣っているし、何より多勢に無勢過ぎる。底が知れない識別不明機(アンノウン)が相手であることもあって、竜史郎は安易に護衛を頼めずにいた。


 ――だが。そんな彼の迷いもろとも、全てを焼き払うが如く。


 清姫弐号機に握られた炎の大剣は、背後から覆い被さらんとしていたエース・ドール達を――見向きすらしないまま、一瞬のうちに殲滅してしまうのだった。


「……ッ!」

「すぐに……なんですか。まさか、この期に及んで逃げろとでも? すでにもう、こんなことになってるのに?」


 まさしく、鎧袖一触。

 その威力に竜史郎が息を飲む中、鎧武者を操る将吾郎は――低い声で、問い掛けてくる。今更何を、と言わんばかりに。


「……ヒーローは、負けちゃいけないんですよ。必ず勝って、皆を救って、ハッピーエンドにしなくちゃいけない」

「……」

「あなたがあそこに行けば、この形勢をひっくり返せる……かも知れないんでしょう」

「……あぁ」

「だったら、逃げるわけにはいきません。ヒーロー足り得る者をヒーローにする、そのために僕はここに来たんですから」


 ヒーローになりたいわけじゃない。最初にそう言っていたように、彼は自ら英雄になることを望んではいない。

 無謀にして無鉄砲。しかしそれでいて、愚直なまでに真摯でもある。そんな竜史郎にかつて憧れ、そして袂を分かった「親友」の姿を重ねたからこそ。ヒーローが、ヒーローらしく在ることを望む将吾郎という少年は、ここに現れたのだ。


「……頼むッ!」


 そうとは知らずとも、将吾郎の声色から譲れない「信念」にも似た想いを感じ取った竜史郎は――無理難題を承知の上で、護衛を依頼する。

 主語は、明確にはしない。それも今更、確認を要するようなものではないのだから。


「全てを救う。全てを守る。そういうものだろう? ――なぁ、裕飛(ゆうひ)


 竜史郎が発したその一言に頷き、奔るアントラー号を背にした清姫弐号機は。再び湧き出て来たエース・ドールの大群を前に、炎を帯びる大剣を翳す。

 「親友」の名を呟き、冷徹な表情の下で笑みを溢す少年。その脳裏には――純然たる「ヒーロー」だった彼の姿が、過っていた。


「イイね君、まさに物語の主役って感じ。主人公たるもの、そういう無鉄砲さがないとね」

「主役……か。そんな大それた役割が務まるような器じゃないが……そうであっても確かに今は、オレがやらざるを得ないのかも知れない」


 一方。竜史郎を乗せるアントラー号は、エース・ドール達と交戦しているVリーナと合流していた。ドリル戦車と併走しながら、機械人形の群れを切り払う鎧騎士の手には――鏃のように鋭い結晶質の剣が握られている。


「主役っていうのは、得てして自覚を持てないものさ。なろうとしてなるものじゃない。その人自身の内側から湧き出る資質こそが、主人公を主人公たらしめるんだよ」

「なら……無茶を承知で頼みたい。オレが主役だというこの物語を、ハッピーエンドにさせてくれ!」

「もちろん。僕はそのために来たのさッ!」


 これまであらゆる「世界」を流離ってきたVリーナとツァレヴィチにとって、ここは今までのように旅してきた「物語」の一つでもある。そして、この世界における彼女(・・)の目的は――「ハッピーエンド」の完遂にあった。

 そして、この「物語」の「主人公」たる竜史郎がそれを望んだ以上、応えない道理はない。数多の異世界を駆け抜けてきた魔法のスーパーロボットは、威勢に溢れたツァレヴィチの声色に同調するかの如く――竜史郎のそばを離れ、跳躍する。


「【雷の矢(ペルーン)】よ!」


 左腕に装備された、盾状の手甲。その部位に備わっている弓から、雷の矢が放たれた。軌道を問わずVリーナの周囲を駆け抜け、エース・ドール達を次々と射抜いていく雷光の煌めきが、この戦場を照らす。


「【火の鳥(ジャール・プチーツァ)】よ! 【鉛の鎚矛(フセスラヴィエヴィチ)】よッ!」


 さらに着地した瞬間、激しい火炎によって周囲の機械人形を溶解させながら――範囲外に居た個体に飛び掛かり、頭部を掴む。掌から射出されたパイルバンカーが顔面を粉砕したのは、その直後であった。


 だが、無残に頭部を潰された同胞の姿を前にしても機械人形達に怯む気配はなく、次々と邪魔なVリーナを排除しようと群がって来る。

 

「この物語は、とっくに変わってる。僕達が来た以上、バッドエンドにはならない……奇跡は起きうる!」


 それほどの物量差を前にしても、なお。ツァレヴィチは一歩も引くことなくハッピーエンドを確信し、Vリーナも彼女の意を汲むように剣を構えた。


「いや、今ここで起こすのさ! ――【幸いを呼べ、終演の剣クォデネンツ・シスリーヴカニェッツ】ッ!」


 そして、一閃。「物語」に幸福な結末を呼ぶ、その眩い輝きがこの一帯を包み――周囲の機械人形達を、纏めて切り裂いていく。

 次々とエース・ドールを飲み込む爆炎は、大団円の到来を祝う花火のようであった。


 しかし、まだエンドロールには早い。Vリーナの剣閃によって周囲のエース・ドールは一掃されたが、「Z」が健在である限り戦いは終わらないのだ。


「――さぁ行って、ジャイガリンG。心ひとつで、神様みたいに世界だって救える。それが『巨大ロボット』なんだから」


 再び湧き出て来る機械人形達を前に、改めて剣を構え直すVリーナ。その機内でツァレヴィチはそう呟き、頂上に向かって走り続けるアントラー号を見送るのだった。


 彼女の援護射撃もあり、順調に山頂へと駆け登る竜史郎。しかし頂上に近付けば近付くほど、彼を迎え撃つエース・ドールの攻撃も激しさを増していく。

 そんな彼を護るべく、土埃を上げて疾走するアントラー号と並走していたのは――逞しい健脚で地を蹴り山肌を駆け抜ける八郎丸と、その肩に乗り彼を指揮している泰良だった。


「八郎丸ッ!」

(ラジャ)親方(マム)


 この乱戦の中でもはっきりと聞こえるほどに透き通った、彼女の叫びに応じて。大鬼はアントラー号を襲う熱線を金棒で打ち返し、逆にその一閃を放った個体を撃破してしまう。

 小鬼と大鬼の一糸乱れぬ連携に基づく、安定した戦闘能力。その一端を垣間見た竜史郎は、互いに全幅の信頼がなければ成し得ない「以心伝心」の戦い振りに、驚嘆の表情を浮かべていた。


「……凄い……!」

「ふふ、褒めても今は何も出んぞ。……しかし、これほどしつこい手合いなど地獄の底にもなかなかおらんな。倒しても倒しても、湯水のように湧いて来おるわ!」

「なんとか、あの頂上の『Z』さえ倒せれば……!」

「ほほう、その小さな乗り物でか? 興味深い話であるが……まず此奴らを倒さねば、先に進めそうにないな!」


 しかし彼らの力を以てしても、この場を無傷で制圧とは行かず。絶え間ないエース・ドールの来襲とその迎撃の中で、八郎丸のボディにはすでに幾つもの傷が残っていた。

 今こうしている瞬間も、竜史郎を襲う熱線から庇うように、八郎丸が身を挺している。このままでは危ない。


『損傷、許容範囲内』

「もういい、下がってくれ! これ以上は……!?」

「案ずるな、人の子よ。荒事というものは力勝負が全てではない!」


 だが、それでも泰良は全く怯む気配すらなく、口角を上げていた。ようやく活路が見えて来た、と言わんばかりに。

 彼女は自分を乗せる八郎丸と共に、アントラー号の前方に躍り出ると――周辺にいる全てのエース・ドールの狙いを、自分達に集中させる。アントラー号と八郎丸を囲んでいる機械人形達が、その両眼に高熱を帯びたのはその直後だった。


 そんなに死にたければ、先にお前から始末してやる。そう宣言するかの如く。


「今だ、八郎丸ッ!」

(ラジャ)


 それこそが、泰良の目的。八郎丸に照準を合わせた熱線が飛ぶ瞬間、彼女の命を受けた大鬼は咄嗟に姿勢を低くする。

 後ろから走って来るアントラー号と衝突しないよう、スライディングの要領で低く地を滑る八郎丸の頭上を、無数の熱線が通過した。


 大鬼を仕留めんと全方位から撃ち込まれた熱線は、本来の獲物を仕留められなかったばかりか――同胞同士を撃ち抜く結果に終わったのである。


「人の子よッ!」

「……ッ! ロケットアントラァーッ!」


 そして、泰良の叫びに応じて竜史郎も操縦桿のスイッチを押し込み、アントラー号の先端に備わるドリルを発射した。

 スライディングしている八郎丸の頭上を通過し、空を裂いて飛ぶ螺旋の槍が。「同士討ち」によって機能を停止していた前方のエース・ドール――だった鉄塊のボディを抉り、跳ね飛ばしてしまう。


 かくして彼らは、この包囲網を突破することに成功したのだが。それすらも束の間に過ぎず、再び機械人形達が竜史郎達を追い始めていた。

 目を細めてその追手を見据える泰良は、やがて八郎丸と共にアントラー号の後方へと回り込み――足を止める。


絡繰(からくり)の亡者共め、まだ湧いて来おるわ。……人の子よ、おれに構わず先を急げ。さすがにこの数は少々、八郎丸とて骨が折れる」

「しかし……!」

「ははっ、この状況で自分より『鬼』の心配とは大物だな。案ずることはないぞ、勝てんと言った覚えはないからな――八郎丸ッ!」

(ラジャ)親方(マム)


 これ以上の問答など無用。そう言わんばかりに、一瞬だけ竜史郎と視線を交わした泰良は、相棒たる大鬼と共に敵勢へと飛び込んでしまった。

 本来なら引き返して救援に向かうべきだが――アントラー号では、却って足手纏いになりかねない。竜史郎は僅かな逡巡の末、ジャイガリンGを取り戻して戦力を整えることを優先するべく、迷いを振り切り山頂へ向かう。


「やはり引かぬか、異形の絡繰共よ。ならば仕方ない、折檻(しおき)の時間はこれからだッ!」


 そんな彼の決断を肩越しに見遣り、笑みを浮かべながら。先頭のエース・ドールを殴り倒した八郎丸と共に、「絡繰」の群れと相対する泰良は、改めて宣戦を布告する。

 彼女に代わり金棒を振るう大鬼が、地を揺るがすほどの踏み込みで突撃を敢行したのは、その直後であった。


「よし、頂上まであと半分もない……!」


 八郎丸の足止めもあって、山頂までの道はすでに中盤へと差し掛かっていた。このまま突き進めば、火口で待っているジャイガリンGと再合体出来る。

 絶望的かに思えた戦局にも、ようやく「兆し」が見えてきた。その「流れ」を肌で感じつつあった竜史郎の口元が、僅かに緩む。


「――ッ!?」


 だが、その油断を狙い澄ましたかの如く。アントラー号の真横から、1機のエース・ドールが急接近してきた。

 目障りなドリル戦車を一瞬のうちに踏み潰そうと、片足を振り上げる非情の鉄人。その攻撃を察知した竜史郎が、咄嗟に操縦桿を切り回避に徹しようとした瞬間。


「どぉぉりゃああっ!」


 豪快な叫びと共に突っ込んできた長方形の「車両」が、刹那の如く竜史郎の目前を横切り。エース・ドールを、容赦なく跳ね飛ばしてしまった。

 衝撃の余り、瞬く間に鉄塊と化して地に転がる尖兵。衝突の威力を物語るその光景に、息を飲む竜史郎の横を――気仙沼線BRTを模したメカ、ミヤギトランジットが疾走している。


「……バス?」

「確かにバスだが、ただのバスじゃねぇ。悪い鬼達を退治するために造られた、ミヤギトランジットだ!」

「き、君も協力してくれるのか。しかし、その機体の装備では……」

「武装なんて問題じゃねぇ。見とれっ!」


 一言で言えば、高速バス。だが、その形状に反して加速は凄まじく、ミヤギトランジットは並走するアントラー号を容易く抜き去ってしまった。

 長方形の車体はドリル戦車の前方に移ると、正面から迫るエース・ドール達に真っ向から突撃していく。だが、敵方も両眼に妖しい輝きを宿し、熱線を放とうとしていた。


 ぶつかるだけでエース・ドールを破壊出来るほどの頑丈さとはいえ、このままでは先程のように体当たりする前に、撃ち落とされてしまう。その展開を危惧した竜史郎が、回避するよう呼び掛ける――前に。


「融合合身ッ……ミヤギレイバーッ!」


 ミヤギトランジットを駆る、早坂祈音の叫びに応じて。1台のバスでしかなかったその形状は、瞬く間に「人型」へと変形してしまったのである。

 かつて車体後部だった両脚で地を蹴り、放たれた熱線をかわしながら宙に跳び上がり。真っ二つに割れた車体前部から出現する人の顔が、エース・ドール達を視認する。


「レイバァアァッ――キィィック!」


 そして前部が展開することによって形成された、両腕を振るいながら飛び蹴りの体勢へと移行した巨人は――その鋼鉄の脚から放つ一撃を以て、行く手を阻む鉄人達を一掃してしまった。

 鉄と鉄の激突が生む衝撃音が天を衝き、アントラー号の道を切り開く。そして変形を完了したミヤギレイバーは、遠方から迫る次の新手に狙いを移した。


「ひ、人型に変形した……!? しかもその姿、さっきの中にいた……そうか、君だったのか!」

「ここはオラが引き受けた! おめさん、(はえ)ぐ山頂さ目指してけろ!」

「わかった……ありがとう!」


 祈音に促された竜史郎は、深く頷きアントラー号を走らせていく。もう、迷ってはいられない。


「さぁ……ミヤギレイバーの力、おめぇさんたづにも見せてやっべ!」


 そんな彼の背を見送った祈音も、負けられないと言わんばかりに――エース・ドールの群れへと、殴り込んでいくのだった。


「おおっとッ! ――やれやれ、いくら主役だからって無謀にも程があるだろうが!」

「君は……!」


 それから間もなく、ミヤギレイバーの「役割」を引き継ぐように。上空からの援護射撃でアントラー号の周辺を牽制していたウォリアーが、スラスターの推力を落として滑り降りて来る。

 主人公のサポート役を演じている――という「自覚」を持った彼は、熱線の隙間を縫うような竜史郎の操縦に辟易しつつ、苦笑していた。


「皆に守られながら敵の本拠地にまっしぐら、ね……ド直球過ぎて安心するほどの主人公ムーブだが、勝算はあるのか?」

「手を貸してくれてる君達には悪いけど、ある……とは言い切れないよ。そこ(・・)に賭けるしかない、後には引けない……それだけさ!」

「……そうかい。全く、躊躇がなさ過ぎる主人公ってのも考えものだな!」


 迷い、悩みながらも少しずつ成長し、前に進んでいく。それが「お約束」としての、主人公のかくあるべき姿であると知るクリストファーは――良くも悪くもハッキリ物を言い過ぎな上に迷わなさ過ぎな竜史郎の振る舞いに、思わず頭を抱えてしまう。

 運が尽きれば一瞬で即死するというのに、前進することへの躊躇があまりにもない。それこそが「死」へと繋がり得るから……とはいえ、自分が主人公だという「自覚」すらないにも拘らず、恐れないにも程があるのだ。


「ま、それくらいシンプルな奴ならこっちも話を進めやすい(・・・・・・・)ってもんだ。……ここは抑えてやるから、さっさと行け! これだけの戦力が集まってんだ、無駄に展開を引き延ばしたりするんじゃあないぞッ!」

「ありがとう! 任せてくれ、意地でもすぐに終わらせてみせるッ!」


 だが、それでもクリストファーの役割は「主人公のサポート」なのである。ならばその役割を果たすため、いいところの一つや二つは見つけてやらねばならない。

 葛藤をテーマにした話を合間に盛ることなく、本筋を進行させやすい――というメタな(・・・)美点を竜史郎に見出したクリストファーは、お約束的(・・・・)には危険な展開と知りながらも、敢えて「足止め」を引き受けリニアガンを撃ち放つ。


「悪いが、こっちも忙しくてな……面倒を見なきゃならない『主人公』が他にいる以上、長居はできない。せいぜい早めに話を畳んでくれよ、こっちの(・・・・)ヒーローさん」


 こちらに熱線を集中させてくる、エース・ドール達の対空砲火をかわし。至近距離まで接近して来る個体には、クロー状のシールドを突き刺し。

 スラスターの推力で縦横無尽に舞い飛ぶ青の機兵は、盾の先端と頭上からの射撃で、彼らの行く手を阻み続けていた。


 主力兵装が量産機の携行火器である以上、瞬く間に機械人形達を撃滅するほどの決定打には至らない。だが、それで構わないのだ。

 物語をハッピーエンドに導く、サポート役。それこそがクリストファー・レイノルズという男が背負ってきた、最大の「役割」なのだから。


 ◇


「くっ……!」


 ゴッドジャスティス、清姫(プルガレギナ)弐号機、Vリーナ、八郎丸、ミヤギレイバー、ウォリアー。彼らの凄まじい攻撃の余波に、幾度となく横転しかけながらも。竜史郎を乗せるアントラー号は危険を顧みず、火口を目指して走り続けていた。

 次の瞬間には、激戦に巻き込まれ即死しているかも知れない。その可能性が生む恐怖すら、振り切るかのように。


「うわぁぁッ!」

『坊主ッ!』


 だが、これは運だけで成功するほど甘い賭けではないのだ。とうとうエース・ドールの熱線という流れ弾を喰らい、アントラー号は紙切れのように吹っ飛ばされてしまう。

 火山の斜面を転げ落ちながら、辛うじて再び体勢を立て直した竜史郎だったが――その時にはもう、操縦桿を倒しても前に進めなくなっていた。


「キャタピラが……!」


 先ほどの熱線で、アントラー号のキャタピラが破壊されていたのだ。足がなければ歩けないように、キャタピラが無ければどんな戦車も進むことはできない。

 それは、スーパーロボットの頭脳たるアントラー号においても、例外ではないのだ。ここまで来ていながら、最後の最後で希望を閉ざされ、竜史郎は唇を血が滲むほど噛み締める。


「どけぇえぇッ!」

「……ッ!?」


 だが、それで終わりではなかった。アントラー号を踏み潰さんと迫るエース・ドールのうちの1機が、破壊の手掌――「デトネイトフィンガー」によって吹き飛ばされたのである。

 ハッと顔を上げた竜史郎の視界に、「赤」と「青」の巨大な双眸が映し出された。


「ちょっと、大丈夫!? まだ生きてる!?」

「全く、この乱戦の中を突っ切ろうなんて命知らずってレベルじゃないぜ!」

「君達は、あの時の……!?」


 その手の主こそ、救世主。

 アントラー号の被弾を目撃していたゴッドグレイツが、動けなくなった竜史郎のそばに駆け付けて来たのだ。真紅のスーパーロボットは、灼熱を帯びた鉄拳――「カーボナイズ・フレア」の一撃を以て、背後から迫るエース・ドール達を消炭に変えていく。


「状況はだいたい分かってる。他の連中があんたを守ってるのが見えてたからな。……こんな無茶をしてまで、頂上に行くだけの理由があるんだろ?」

「詳しく聞いてる暇はないから、とにかくあそこまで連れて行く! それでいい!?」

「ありがとう……! 恩に着るよ!」


 「Z」の打倒。その目的の元に集った戦士であるならば、断る理由もない。アントラー号を担ぎ上げるゴッドグレイツは、頂上を目指して山肌を駆け上がって行くのだった――。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いやぁ~各ロボット達がちゃんと見せ場があって、カッコいいですな~(* ̄∇ ̄*) やっぱり巨大ロボットはロマンですな~(* ̄∇ ̄*) なんか一部メタいキャラがいるけど、それもそれでナイスで…
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