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ふぁんたじぃらいとにゃべる→1/4章『少年と海と猫』  作者: 大盛ふるーつ[無農薬]☆送料無料
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2話『おかしな子供』

 


 誰かに頭を撫でられる感触で目を覚ました。


 たぶん、子供の手だと思う。自分の体がかなり小さくなっているので自信はないが。

 大人しい子供のようで瞼を引っ張るといったイタズラをすることもなくただ頭を撫で続けている。ちょっと顔を見てやろうと目を開けた。


 やはり子供だ。小学校の中学年ぐらいだろうか。


 子供はびっくりしたのか頭を撫でるのをやめた。どうするのかと思い見ているとまた頭を撫でようとしてくる。

 さすがにやめさせようと口を軽く開けて噛むフリをすると、肩がビクッと跳ねて手を引っ込めた。


 ……手を引っ込めはしたが立ち去るつもりはないようだ。まぁ野良でこれだけ逃げない猫は珍しいかもしれない。

 だが大人しいとはいえ小学生の男の子なんて何をしてくるか分からない。とっとと何処かへ行ってほしい。


「(おい。さっさとどっか行けよ。俺はここをどくつもりはないぞ。寝起きでダルいんだ)」


 そんなことを思いながら「シャー!」と鳴いてみる。猫の威嚇などもちろん初めてやったのだが、意外とできるものだ。


「え?いま君が喋ったの?」


 は?俺の喋ってることが分かるのか?


「(……お前何歳だ?)」


「8才」


「(二年生ぐらいか?)」


「うん。…あ。違う。三年生だ」


 どうやら本当に通じているらしい。そうなると寝起きでダルいからお前がどっか行けとか言ったのが恥ずかしくなってくる。実に大人げなかった。

 だがひとつ言い訳させてもらえるなら、言葉が通じていないと思ったから図々しいことでも平気で口にできたのだ。通じてると分かっていたら言ってなかった。


「(まだ二年生が抜けないんだな。そうか。始業式ってこのくらいの時期だったか)」


「僕の学校ね、今日が始業式だったんだよ。…なんで始業式知ってるの?猫にも学校があるの?」


「(いやいや。俺は元人間だ。昨日猫になったばっかりだよ)」


「…大人になったらそういうこともあるんだ」


 そういうことはなかなかないと思うが、実際俺は猫になっているので何とも言えない。


 …あれ?この子……


「(お前、なんでランドセル持ってるんだ?家に置いてくれば良いのに。重たいだろう)」


 小学校の頃、登下校班から途中離脱して友達と遊ぶ奴は見たことがあるが。


 ……見たところ友達がそばにいる様子はない。一人で班から抜け出したんだろうか?


「折り畳み傘が入ってるから…」


 折り畳み傘が入ってるから?


「……」


 何か言えよ。


「……僕ね!いっつもランドセル持ったまんま遊ぶんだよ!」


「(一人で?)」


「うん!」


 そう言うと子供はおもむろにランドセルを開けて中身を広げ始めた。


「タスキでしょ。カッパでしょ。懐中電灯でしょ」


 タスキは綺麗な方だがカッパは信じられないくらいどろどろだ。洗濯しないんだろうか。


 だが一番気になるのは懐中電灯かもしれない。どう見ても庭に突き刺すやつだ。100均で売っているような。


「これだけあったら家に帰らなくても遊べるんだよ。僕ね、毎日ここを探検してるんだ」


「(楽しそうだな)」


「うん」


 ……ははあ。折り畳み傘が入っているから、遊んでいる時に雨が降っても遊び続けられるというわけだ。タスキや懐中電灯も持っているから、暗くなっても家に帰るつもりはないらしい。

 恐らく毎日そうやってギリギリまで遊んでいるのだろう。気合いが入っている。


 そしてその大事な道具達が入っているからランドセルを家に置いていく訳にはいかないんだ、と言いたかったんだろうか?

 一応質問に答えるつもりはあったのかな。結局どうしてランドセルにそんなものを入れているかは分からないが。


 そういえば、登校班の友達はどうしたのか聞きそびれてしまった。……まぁいいか。一人でいる理由なんて聞かれなくないだろう。


「(この道具たちがあれば雨が降っても暗くなっても遊べるってわけだな)」


「そうなんだ!僕雨とか全然気になんないし、暗いのなんて全然怖くないんだよ」


 心なしか自慢げだ。今思えばさっきの紹介コーナーも自慢のつもりだったのだろうか。

 遊び方の時点であれ、とは思ったがやはりおかしな子供だ。


「(あーあー。せめて土を払ってから入れろよ)」


 気づけば子供はランドセルに荷物をつめ始めていた。子供のスピード感にはついていけない。


「(カッパ、親に頼んで洗ってもらった方が良いんじゃないのか。どろどろだぞ)」


「……」


 子供は「へへっ」か「ふふっ」か分からないが、息を漏らすようにして笑った。


 ひきつったような表情で笑っていたのが何故か気にかかった。



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