08 襲撃
前回のあらすじ
魔王軍が侵攻してきた
俺達は魔王軍がいるとされる場所の近くまで向かうために、汽車に乗って移動していた。
最初は俺一人で向かうつもりだったが、ステラがどうしても付いていきたいと頑なに主張し、俺は根負けして彼女の同行を許可した。
俺達はボックス席に向かい合って座り、俺は窓枠に頬杖を付けながら外の様子をぼんやりと眺めていた。
するとステラが、もじもじしながら聞いてくる。
「それにしても驚きました。ジークさんが、その……ゆ、勇者様だったなんて……」
「言ってないからな」
「どうして何ですか?」
「言う必要がなかったから」
「それは……私が信用されてないということですか?」
「いや。ステラが勇者に憧れてるようだったから、わざわざ夢を壊すようなことはしない方がいいと思ってな」
「そ、そうですか……」
ステラが恥ずかしげに俯くが、気を取り直してまた聞いてくる。
「それじゃあ……ジークさんが使っている白い剣は、もしかして聖剣ですか?」
「ああ、そうだ」
俺は頷き肯定する。
聖剣はその昔、『原初の魔王』を討ち取ったとして、勇者の象徴になった。
そしてその聖剣は、勇者の血を引く者にしか扱えないという条件もあった。
俺はその聖剣を、先代勇者であった俺の母親から受け継いだ。
「勇者の血を引くとなると……ジークさんのご両親のどちらかが、勇者の家系なのですか?」
「ああ、俺の母方がそうらしい。それに、俺の母親も勇者だったからな」
「ジークさんのお母様となると……先代勇者様のアリス様ですか?」
「ああ、そうだ」
「そうなんですか! ……あれ? でも、アリス様って確か―――」
ステラが何か言いかけたその時、汽車を激しい衝撃が襲う。
その衝撃によって汽車が線路から脱線し、車両が横転する。
俺は咄嗟にステラを抱き締め、彼女が怪我を負わないようにその身を庇う。
衝撃が止み、俺は腕の中のステラに安否を確認する。
「大丈夫か、ステラ?」
「!? は、はははははい! だっ、大丈夫です!」
ステラは顔を真っ赤にして答える。どうやら、とても気が動転しているようだった。
俺は彼女から身体を離し、九十度横転したことによって真上にきた窓によじ登って周囲を確認する。
遠方に、魔王軍らしき魔族の集団がいた。奴らが汽車を襲った連中と見て間違いないだろう。
俺は真下にいるステラに告げる。
「俺はこれから魔王軍らしき連中と戦ってくる。ステラはここにいろ、分かったな?」
「えっ、ちょっとジークさん!?」
「ちゃんとここにいろよ」
俺はステラに待機するよう命令してから、車両から身を投げ出して魔王軍の集団に向かっていった―――。
◇◇◇◇◇
俺は集団の前に己の身をさらけ出し、白いヘアピンを剣の姿に戻して構える。
その集団は、高い身体能力を誇り、動物の特徴を備えた種族の獣人族で構成されていた。
先頭にいた虎っぽい獣人族が俺に話しかけてくる。
「誰だ、お前は?」
「俺か? 俺は……勇者だ」
俺がそう宣言すると、魔族達はいきり立つ。
「勇者だ! 勇者を殺せ!!」
「その首を討ち取り、四天王のレオ様に献上せねば!」
「いや、魔王様に献上しないと!」
「なんでもいい! とにかく勇者を殺せ!!」
奴らは各々武器を手に取り、俺に立ち向かってくる。
奴らを一刻も早く無力化させるために、今は俺しか使い手がいない雷属性超級魔法を発動する。
「《ボルテクスバースト》!」
空間を引き裂くような轟音が響き渡り、その雷撃をもろに喰らった魔族達は次々と地面に倒れ伏す。
それでも半数近くは雷撃の範囲外だったが、その一撃を見て腰が引けていた。
それを見て、俺から攻撃を仕掛ける。
聖剣で次々と斬り伏せていくが、殺しはしなかった。
先程の雷撃も、死なない程度に威力を抑えていた。
俺は聖剣で斬り、時折魔法も交えながら魔族の集団の数を徐々に減らしていった―――。
◇◇◇◇◇
集団が二割ほどまで減った時、変化が起きた。
汽車で待機しているはずのステラが戦場にやってきたのだ。
「ジークさん、援護に来ました!」
「バッ、ステラッ!!」
俺は思わず大声を上げた。
はっきり言って今の彼女は足手纏いだから汽車に置いてきたのに。
それを見て、魔族の一人が言った。
「あの女を人質にするぞ!」
「チッ!!」
残った魔族の一割がステラの方に向かうのを見て、俺は舌打ちする。
俺はステラの元に向かおうとするが、魔族達に阻まれて進めない。
ステラも魔法を放って応戦するが、相手の方がいくつも上手で彼女は捕まってしまった。
「この女を返して欲しくば、我が陣地まで来い勇者よ!」
ステラを捕まえた魔族はそう言うと、北の方角に向けて走り去っていった。
俺は残った魔族を全員無力化させると、遅れて連れ去った魔族の跡を追った―――。
ジークは無事ステラを助け出せるでしょうか?
評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。