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05 結成 その2

前回のあらすじ

偽勇者が現れた

 

「テメエ、オレ様が誰だか分かって言ってんのか? オレ様は勇者だぞ?」

「お前みたいなチンピラは全く知らないな」


 俺が偽勇者に向かってそう言うと、偽勇者が青筋を立てて怒りを露にする。

 意外というか、予想通りというか……見た目通り沸点は低いようだ。


「そうかよ……。なら、その生意気な口を利けなくしてやるよ。今すぐにな!!」

「どうやって?」

「こうするんだよ!!」


 偽勇者が殴りかかってくるが、俺はそれを片手で受け止める。

 それを見て、偽勇者の取り巻きが騒ぎ立てる。


「ア、アニキ! アニキの拳を受け止めるなんて、コイツ……只者じゃねぇ!!」

「うるせぇ!! なら、オレ様の必殺技を見せてやるよ!!」


 ……いい年こいて必殺技とか、言ってて恥ずかしくないのだろうか?


 俺がそんな事を思っていると、偽勇者は拳を引き俺から距離を取る。


「見て驚くなよ? これがオレ様が勇者と言われる所以だ!!」


 偽勇者は八属性全ての初級魔法を展開して、自慢気に語る。


「どうだ、ビビったか!!」

「…………」


 俺は偽勇者が展開した魔法があまりにもお粗末なので、逆に言葉を失った。


 攻性魔法は属性の他に級でも区分されていて、下から初級、中級、上級、超級に分けられている。

 初級魔法は例外的に、全ての人が全属性扱える仕様になっている。

 中級以上になると、扱えない属性が必ず出てくる。

 それがないのが、オールラウンダーと呼ばれる人達なのだ。


 俺が黙っていると、偽勇者が勝ち誇ったような顔をする。


「どうした? ビビって声も出せないのか? 当然だよな、なんたってオレ様は勇者だからな!!」

「……なら、中級以上でやってみろよ。本当に勇者なら出来るハズだろう? なんたって勇者は、オールラウンダーだからな」


 俺はいつもより低い声音でそう言った。

 自分でも気付かない程、勇者を騙られた事に怒りを感じていたらしい。


「……いいだろう。……おい、お前ら」


 偽勇者が小声で取り巻き達に合図を送る。

 そして偽勇者は中級魔法を展開する。


「どうだ! これでオレ様が勇者だと分かったか!?」


 俺がまた何か言おうとする前に、後ろに庇っていたステラが裾を引っ張る。


「ジークさん、彼は勇者様なんですよ。彼に楯突くような真似はやめてください。私の事は大丈夫ですから」

「……いや、アイツは勇者じゃない」

「え?」


 ステラが聞き返してくるが、それより先に俺は身体強化魔法で脚力を強化し、偽勇者の取り巻きに接近する。


 取り巻きは一瞬で目の前に現れた俺に虚を突かれ、隙が出来る。

 俺は取り巻き達に向かって《メガサンダー》を放ち無力化する。その際、相手が死なないように威力は抑えた。


 一瞬で取り巻きを倒された偽勇者が、驚きの表情を浮かべる。


「なっ……!? い、一瞬で!?」

「驚くような事か? それにしてもいいのか、中級魔法が一つも展開されてないようだが?」


 俺の指摘を受け、偽勇者は狼狽する。


 ヤツが中級魔法を全属性展開出来たのは、ヤツの取り巻きがあたかもヤツが発動したように見せかけてた、というカラクリがあったからだ。


 俺は偽勇者が取り巻きに合図を送った段階で、そういうことだろうなとアタリをつけたが、どうやら正確だったようだ。


「どうした? また展開しないのか? それとも、ここで伸びている取り巻きが発動してたから、出来ないのか?」

「ぐっ!? ……くっ、クソッ!!」


 偽勇者は八つ当たり気味に、ステラに向かって拳を振り上げる。

 彼女は身がすくんで、その場から動けなかった。


 俺は彼女に拳が届く前に偽勇者に接近して、その巨体を蹴り飛ばして地面に転ばせる。

 偽勇者が立ち上がらないよう胴体を足で押さえつけ、白いヘアピンを長剣に戻して首もとに当てる。ついでに威嚇用に全属性の上級魔法を展開する。


 俺の様子に、周りにいた冒険者がざわめき始める。


「おい。アレって、『双翼』の片割れじゃないのか?」

「双翼って……あの双翼!? SSランク冒険者の!?」

「ああ、間違いないハズだ。双翼の片割れは確かオールラウンダーだったからな。それに、白い剣も持ってたからな」

「いや〜、こんな所でお目にかかれるとは、ラッキーだなぁ」


 周りの声が聞こえていたのか、偽勇者がガクガクと震えていた。

 俺は偽勇者に向かって釘を指す。


「これに懲りたらもう二度と勇者を騙るな」

「は……ふ、ふざけるな!? お、オレ様は勇者なんだぞ! それを……」

「俺は勇者と知り合いでな。お前が偽者だと初めから分かってた」


 俺の言葉に、偽勇者は二の句が告げなかった。


 その後、アンナが他のギルド職員を引き連れて不良冒険者達を拘束していった。

 アンナが俺に向かって頭を下げた。


「感謝するわ、ジーク。あなたのおかげで偽勇者を捕まえる事が出来た」

「お礼はいい。俺に出来る事をやっただけだ」

「そう。それにしても……いつの間にステラちゃんとパーティーを組んでたの?」

「いや、それは……」


 俺があの場でついた嘘だと言うより早く、ステラが答えた。


「ジークさんに助けられた時に、私がパーティーを組んで欲しいとお願いしたら、快諾してくれました」

「へぇ〜、そうなの……」

「…………まぁ、そういうことで」


 アンナがジト目で俺を見つめる。

 俺は嘘だと言う機会を逃し、そういうことにしておいた。


 こうして俺は、ステラとパーティーを組むことになった、なってしまった。




 ……まさかこの時の嘘が後の人生にまで影響を与えるとは、この時の俺は微塵も想像していなかった―――。






嘘から出たまことですね。




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