04 結成 その1
前回のあらすじ
ジークがステラにダメ出しした
俺はカフェを出た後、クエストクリアの報告をしに冒険者ギルドに来ていた。
ギルドの建物は王城を除くと、この国で一番大きい。
なぜなら、この国のギルドは世界各地のギルドを統括する、いわばギルド本部だからだ。
大昔は中央大陸にあったらしいが、第一次人魔大戦の折に南大陸に移転したらしい。
建物の中に入り、俺はそのまま受付カウンターまで向かう。
そして、俺が冒険者になったのと同時期にギルドに配属された顔馴染みの受付嬢で、人間族とエルフ族のハーフのアンナに話しかける。
「アンナ、クエストクリアの報告に来たんだが」
「ああ、はいはい。またいつものレッサーワイバーン狩り?」
「そうだ。それと、素材買取もして欲しいんだが」
「はいはい。それじゃあ袋を渡してくれない?」
俺が魔法袋をカウンターの上に置くと彼女はそれを受け取り、後ろにいた後輩らしきギルド職員に袋を手渡し、色々指示を出していた。
アンナが俺の方に向き直る。
「それにしても聞いたわよ? アンタがステラちゃんとカフェでデートしてたって。アンタもスミに置けないわね、十六才の娘に手を出すなんて」
……ステラは俺の四つ下だったのか。
俺はニヤニヤしているアンナに弁明する。
「……誰から聞いた? それとデートじゃないし、手も出してない」
「ウチの同僚からだけど……え? デートじゃないの? それじゃあなんで?」
「ステラが魔物に襲われてるのを助けた礼を受けてただけだ」
俺はそう答えるが、さっきからアンナは、ステラの事を知っているような口振りだった。
「ところでアンナ。お前はステラのことを知ってるのか?」
俺がそう聞くと、アンナは得意げな顔をする。
「当然! ステラちゃんは今、ウチのギルドの期待の新星なのよ?」
「そうは見えなかったが……」
「チッチッチ……。彼女がすごいのは冒険者としての強さじゃなくって、その能力なのよ」
「能力? どんな?」
「彼女は、『オールラウンダー』なのよ!」
アンナが、さも自分の事のようにドヤ顔でそう言った。
オールラウンダーとは、攻性魔法を全属性扱える者を指す言葉だ。
魔法は攻性魔法、防性魔法、補助魔法の三つに分けられる。
防性魔法と補助魔法は誰でも使えるが、攻性魔法は少し違う。
攻性魔法は火、風、土、水、氷、雷、光、闇の八属性に分かれており、誰しもどれか一つの属性は扱えないようになっている。
だが、オールラウンダーはその制約がないので、あらゆる戦場、戦況に対応出来る。
しかも、オールラウンダーは世界に十人もいないと言われているので、ギルドがステラに期待するのも無理はない気がする。
かくいう俺もオールラウンダーで、それが理由で勇者に抜擢されたとなっている。……表向きは。
「確かにオールラウンダーなら、ギルドが期待するのも頷けるな」
俺が納得していると、アンナが「でしょ〜?」といった風に胸を張る―――。
◇◇◇◇◇
買取に時間がかかっているようで、俺はカウンターにもたれかかりながら、何となくギルドの入口の方に目をやる。
すると、ステラが暗い顔をしてギルドに入ってきた。
俺の姿を確認して駆け寄って来ようとする前に、彼女の目の前に立ち塞がる人影があった。
「またアイツらか……」
「アンナ、知ってるのか?」
俺は顔だけアンナの方に向けると、彼女は渋い顔をしていた。
「ええ。アイツらは若い女冒険者を食い物にする不良冒険者よ」
「なんでギルドは取り締まらないんだ?」
「……まぁ、聞いてれば分かるわよ」
アンナがそう言うので、俺は耳にだけ身体強化魔法をかけて聴力を強化し、奴らの会話を盗み聞きする。
「やあお嬢ちゃん、何か困り事か? 何なら、この勇者様に相談してくれてもいいんだぜ?」
不良冒険者の一人がステラに向かってそう言った。
その取り巻きがステラを見て、下卑た笑みを浮かべる。
……なるほど、だいたい分かった。
つまり、勇者を騙る偽者がいるけど、それが本当に偽者かどうか分からないから下手に取り締まれないということだろう。
勇者の正確な情報は極限られた人物しか知らず、一般市民は勇者が二十代の青年でオールラウンダーということしか知らない。
ここにいるアンナには俺が直接勇者だと伝えたので、奴らが偽者だと分かっている。
だけど、一職員の彼女では奴らを取り締まることが出来なかったのだろう。
「分かった? だからギルドも下手に動けないのよ。いくらジークがゆうs……有名人だとしても、ね?」
ここには他の人もいるので、彼女は言葉を濁した。
だけど俺は、勇者以外にもう一つ肩書きを持っており、そっちの方がギルド内では有名だった。
その証拠に、アンナの隣に座っていた受付嬢が「ジーク? ……ジークって、まさか」といった顔をしていた。
再びステラの方に目を向けると、偽勇者がステラに迫っていた。
ステラが周囲に助けを求める視線を向けるが、周りの冒険者は巻き込まれたくないのか、見て見ぬフリをする。
俺はアンナに確認を取る。
「アンナ、奴らとケンカしても……」
「後処理は任せておいて」
アンナの許可も得たので、俺は耳から足に身体強化魔法をかけ直し、一気にステラ達に接近する。
そしてステラを庇うようにして立ち、偽勇者と対峙する。
突然現れた俺に不良冒険者達はたじろぐが、すぐに立ち直りガンを飛ばしてくる。
偽勇者がドスの効いた声で聞いてくる。
「誰だぁ、テメエ?」
「俺か? 俺は……」
俺は一瞬だけステラの方に目をやる。
そしてこの場を凌ぐために嘘をつく。
「俺は彼女とパーティーを組んでいる者だ。俺の大切なパーティーメンバーに手を出さないでもらおうか」
見て見ぬフリが出来ない性分のジークです。
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