03 お礼
前回のあらすじ
ステラを助けた
ステラ、と名乗った少女を改めて観察する。
髪は金色のセミロングで、両目は青空をそのまま落とし込んだかのような、澄んだ青色をしている。
手足はスラリと伸びており、均整の取れた顔立ちには、大人の女性の妖艶さと少女の可憐さが同居する、十代後半にしか出せない色香を醸し出していた。
ステラは立ち上がろうとするが、やはり足を怪我しているのか上手く立ち上がれない。
「どこか怪我をしてるのか?」
「ええっと……はい。ワイルドウルフ達が現れた時に、誤って左足首を捻ってしまいました」
「回復魔法は?」
「わたしの回復魔法では効果が低くて……」
「それじゃあ、俺が代わりにかけるよ。いいかい?」
「お願いします」
彼女の許可も得たので、俺は回復魔法を患部にかける。
数秒後、回復魔法の光が消え彼女は恐る恐る立ち上がる。
痛みは完全に無くなったようで、きちんと立つことが出来た。
ステラが俺に頭を下げる。
「治していただき、ありがとうございます!」
「いや、どうってことない。それじゃあ俺はこれで」
俺はステラに背を向けその場から立ち去ろうとすると、ステラが俺の服の裾を掴み引き留めた。
振り返ると、彼女は俺の顔を見上げていた。
「ジークさん、お礼をさせてください」
「いや、お礼なんて……」
「させてください。私の気が済まないんです」
「いやいや、本当にいいから」
「させてください! 一生のお願いです! なんでもしますから!」
ステラは諦めてくれそうにないので、俺は仕方なく折れた。
「ハァ……。そこまで言うんなら、お礼してもらおうか。特に希望はないから、君の裁量に任せる」
「!? ……は、はい! お任せください!」
俺の言葉に、ステラは満面の笑みを浮かべる。
そして俺は彼女に手を引かれ、王都に戻っていった。
……ワイルドウルフの死骸回収してないけど、まぁいいか。
◇◇◇◇◇
ステラに連れられて、俺は王都にあるオシャレなカフェに来ていた。この店は、彼女のお気に入りらしい。
ステラはお礼としてなんでも奢ると言ったが、それを理由にたかる気は更々ないので、俺はコーヒーだけ頼んだ。
彼女はやや不満げな様子だったが、彼女は紅茶といちごタルトを頼んでいた。
注文した物が運ばれてきて、ステラはいちごタルトを一口食べると幸せそうな表情を浮かべる。
……彼女の所作には育ちの良さが窺えるが、どこかの貴族か何かなのだろうか?
まさか、王族……いや、それはないな。そんな身分の人が冒険者になるハズないし。
俺は自分の考えを自分で否定しながら、コーヒーにミルクをほんの少しだけ淹れる。砂糖は入れない。
それを一口飲んでから彼女に尋ねる。
「ステラ。君は平原で何をしてたんだ?」
「んっ……。私はあそこでクエストをこなしていました。その帰りに魔物に襲われて、ジークさんに助けていただきました」
「君は冒険者、だよな?」
「……ええ、そうですよ」
「武器からして魔法使いらしいけど、なんで魔法で魔物を撃退しなかった?」
「えっと、突然のことでパニックになってしまって……」
ステラは恥ずかしそうに俯く。
「ちなみに、ステラの冒険者ランクはいくつだ?」
「Eランクです」
駆け出しじゃないか……。
俺は先輩冒険者としてステラに忠告する。
「まぁ、それならパニックに陥っても仕方ないけど、それだとこの先冒険者としてやっていけないぞ」
「そうですか……」
ステラは肩を落とす。
俺はカップに残っていたコーヒーを飲み干し、席を立つ。
「コーヒー、ご馳走になった。それじゃあ俺はこれで」
「……あ、あの!」
ステラが立ち上がり、店を後にしようとした俺を引き留める。
ステラの声が大きかったので、店内にいた人達が何事かとこちらを見てくる。
彼女はそんな様子に気付かずに続ける。
「ジークさん、私とパーティーを組んでいただけませんか?」
「……俺が君と組むメリットがないけど?」
「そ、それは……」
「ハァ……。俺の事情は置いとくとして、ステラはどうして俺と組みたいんだ?」
「ジークさんについて行けば、一人前の魔法使いに……いえ冒険者になれると思ったからです!」
ステラはそう言うが、彼女は一つ思い違いをしている。
「俺は魔法使いじゃない、剣士だ」
「で、でも……あれほどの魔法の腕前は」
「冒険者なら普通だ」
「そうなんですか……」
ステラはへなへなと席に座り直す。
俺は今度こそ店を後にした―――。
◇◇◇◇◇
私は力なく席に座り、ジークさんが去っていった方向を見つめる。
そんな事をしても彼が戻ってくるわけないけど、しばらくそうしていた。
そして私は食べかけのいちごタルトを口に入れる。
このお店のいちごタルトは絶品だけど、今は何の味もしなかった。
自分でも思った以上に、彼に言われたことにショックを受けていたらしい。
ジークさんとパーティーを組めれば、私の冒険者としての腕前も上がると思ったけど、現実はそんなに甘くなかった。
私はすっかりぬるくなった紅茶を口に含んでいる時に、ふと彼の言葉を思い出した。
……ジークさんは自分を剣士だと言っていたけど、剣なんて持ってなかったような?
疑問に思ったけど、それに答えてくれる人物はもういない。
私は紅茶を飲み干し、レジで会計を済ませてお店を後にした―――。
ステラが不憫な気が‥‥‥
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