24 報告
前回のあらすじ
戻ろう
行きと同じ道程でアトラス魔法王国の王都へと戻り、その足で王城に登城する。
そして王の間でハデスと謁見し、中央大陸で得た情報を伝えた。
ちなみに母さんとディーネさんとは、南大陸に着いてからその場で別れた。
「そうか……央都は基地としての使用に耐え得るか」
「ああ。一部の建物なんかは修繕が必要だが、基地として使う分には問題ないな」
「ご苦労だったな、ジーク。それから……魔王に仕える用心棒とやらからもたらされた情報じゃが……その者の情報は正しい」
「何……? 本当か?」
俺がそう聞き返すと、玉座の上のハデスは頷く。
「ああ。アーシャル王国から正式に勇者の支援要請を受けてな。中央大陸の調査任務から戻り次第、現地に向かわせると伝えておいた」
「そうか。それで……俺が向かうべき場所は何処だ?」
「アーシャル王国北西部の港町、ロータスの街じゃ」
「あそこか……」
俺は頭の中に地図を思い浮かべる。
ここからだと、大陸間鉄道を乗り継いで向かった方が早い。
……もっと早い手段は、俺が魔獣化して現地に文字通り飛んでいくことだが……余計な混乱しか招かない。
「……分かった。準備を整えたら早速現地に向かう。十日もあればたどり着けると先方に伝えておいてくれ」
「よかろう。伝えておこう」
「それじゃあ俺は戻るぞ」
そう言って俺はハデスに背を向けるが、あることを思い出して奴の方を振り返る。
「……ああ、そうだ。ハデスに一つ聞きたいことがあったんだ」
「なんじゃ? 改まって?」
「魔王の用心棒、アルって名前らしいんだが……奴の素性を知ってるか?」
「アル……アルか…………もしや、『トリックスター』ではないか?」
「『トリックスター』?」
駄目元で聞いたが、ハデスはアルの素性を知っていたらしい。
「うむ。彼の者は最近Sランクに昇格したばかりの冒険者でな。ジョブは魔法剣士なんじゃが、オールラウンダーとしての魔法の才と、旧魔族の力をその場に合わせて戦うことで一躍有名になった者じゃな。その変幻自在な戦闘スタイルから、冒険者ギルドから『トリックスター』という二つ名が与えられたらしい」
旧魔族というのは、第一次人魔大戦が起こる前から存在していた妖族、吸血族、竜人族、獣人族の四つの種族の総称だ。
それに対して、第一次人魔大戦以降に誕生した魔人族、ダークエルフ族、ネガドワーフ族の三つの種族は、新魔族と区別されていた。
そんなことより……あの用心棒がSランクに上がりたて? 何の冗談だ?
「……もう一つ聞く。《ボルテクスバースト》の使い手は俺唯一人、それは間違いないな?」
「そうじゃが……それがどうした?」
「そのアルって輩も使っていた。それと、『悠久の魔法使い』を名乗るゲーティアっていう奴もだ」
「何? それは真か?」
「こんなことで嘘なんか吐かないぞ」
肩を竦めながらそう答えると、ハデスは何かを考え込むかのように顎に手を当てる。
「ううむ……超級魔法が使えることを公表する義務はないとはいえ、ジークの他にも《ボルテクスバースト》の使い手がいたのか……。しかし、アルとやらの場合は使えても今更驚きはしないが……『悠久の魔法使い』っていうのは、なんじゃ?」
「は……? 知らないのか?」
「うむ。『悠久の魔法使い』という二つ名も、ゲーティアという名前も、どちらも知らん」
ハデスの答えに、俺は愕然とする。
ハデスは裏の世界にも広い情報網を築いていて、奴に知り得ない情報なんてモノはないと言っても過言ではなかった。
そのハデスが知らないとなると……ゲーティアという輩には気を付ける必要が出てくる。
「必要とあらば、其奴の情報も集めるが?」
「いや、いい。敵対する意思はないように見えたからな。……それじゃあ俺はこれで失礼させてもらう」
そう言って、俺はハデスの前から立ち去った―――。
◇◇◇◇◇
それから二日後。
俺とステラは、駅のホームにいた。
俺達が乗る予定の列車は、すでにホームに入っている。
「また列車での移動ですか?」
「そうだが?」
「……こう言っては何ですけど、飛んで行った方が早いんじゃないんですか?」
「俺はもう片方の血のことは公にはしてないんだよ。だからおいそれと明かすわけにはいかない」
「そ……そうですか…………でもジークさんは私に明かしてくれて……ふふっ」
ステラはブツブツと何かを呟き、気持ち悪い笑みを浮かべている。
「ほら。さっさと乗るぞ」
「あ……待ってください、ジークさん!」
そんなステラを促し、俺は列車に乗り込んだ―――。
次回から新たな舞台での物語が始まります!
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