22 人魔同盟
前回のあらすじ
先々代魔王と先代勇者はアルの主の協力者
フリッドさんとアリスさんが僕の主―ワカバちゃんに協力している理由はただ一つ。
メラスレ王家で担げるのが、彼女しかいなかったからだった。
この時代のメラスレ王家は珍しく、御三家全てに紫色の瞳を持つ魔王の正統後継者が産まれていた。
王家に古くから伝わる習わしで、魔王は御三家の中で、初代魔王と同じ紫色の瞳を持つ者から任命しているらしい。
そして世代ごとに必ず一人は御三家のどこかから産まれるけど、今の世代―ワカバちゃん、ヴァン、ジークの三人は全員紫色の瞳を有していた。
つまり……三人全員に魔王を継承する資格があった。
そして僕達の目的は、今起こっている人魔大戦の早期終結だった。
ヴァンは今魔王の座についているし、ジークは勇者を名乗ることを決めた。
そうなると、残っているのはワカバちゃんだけだった。
最初にワカバちゃんに接触したのは、フリッドさんとアリスさんだった。
二人は三十年前の大戦を治めた張本人だったから、この事態も見過ごせなかったに違いない。
そして大戦終結のための旗頭として、ワカバちゃんを担ぎ上げた。
ワカバちゃん本人も大戦を早くに終わらせたいと願っていたから、二人の提案に乗った。
僕がワカバちゃんと接点を持ったのは、ひょんなことからだった。
半年ほど前、魔物に襲われていた彼女を助けたところ、何故かなつかれてしまった。
そして自分に仕えるよう、熱烈なアピールを受けた。
当時Aランク冒険者として活動していた僕は、最初の内はワカバちゃんの話に耳を傾けなかった。
だけど何度も僕に接触してくる内に、話だけでも聞こうという気になった。
そしてワカバちゃんの話を聞き、僕は彼女に仕えることを決めた。
それが今から三ヶ月ほど前。
その時に、フリッドさんとアリスさんとも顔合わせをした。
先々代魔王と先代勇者が協力者というのは少し驚いたけど、その二人が協力してくれるというのは何よりも心強かった。
それと時を同じくして、僕の冒険者ランクがSランクに昇格し、ギルドからある二つ名を戴いた。
Sランクに昇格した冒険者は、ギルドから二つ名を与えられるという規則になっている。
この規則が出来たのは、第一次人魔大戦のあとらしい。
そしてその時に、僕達は互いの役割を決めた。
ワカバちゃんとフリッドさんは北・西大陸を巡り、一人でも多くの賛同者を得ること。
アリスさんは東・南大陸を巡って賛同者を募りつつ、人類側の情報をワカバちゃんにリークすること。
そして僕は、魔王の用心棒となり、魔族側の情報をワカバちゃんにリークする役目を請け負った。
たったの四人から始まった、第三勢力と呼ぶには烏滸がましい僕達の組織――『人魔同盟』が結成された瞬間だった―――。
◇◇◇◇◇
ワカバちゃん、フリッドさん、それとアリスさんの三人には、僕が持っている錆び付いた枷と鎖が何なのか分からないらしい。
でも僕は、コレがいったいナニを封じていたのか分かっていた。
ざわざわと、突然草木がざわつき始めた。
それと共に、息苦しいほどのプレッシャーがだんだんと近付いて来る。
だけどそのプレッシャーは、僕にとってはとても馴染みのある気配とも言えた。
「……ワカバちゃん」
「オレ達の傍から離れるなよ?」
プレッシャーの主を警戒してか、フリッドさんとアリスさんがワカバちゃんを守るように前に出る。
「大丈夫ですよ、二人共。彼女達は敵じゃありませんよ」
僕がそう言った途端、プレッシャーの主が空から姿を現した。
炎を纏ったトカゲに、緑色の鳥。
透き通った水のような体のウミヘビに、体の所々を鱗に覆われたモグラ。
彼女達は僕達の目の前に着地すると、その姿を変化させた。
炎を纏ったトカゲは、燃えるような赤髪をショートカットにした、額から二本の角を生やした褐色の美女に。
緑色の鳥は、新緑を思わせる髪を三つ編みにし、獣耳とシッポを生やした女性に。
ウミヘビは、ウェーブ掛かった長い青髪に、色白の肌をした淑女に。
モグラは、肩口で切り揃えた茶色い髪の前髪の一部で片目を隠し、肌の一部を鱗に覆われた深窓の令嬢に、それぞれ変化した。
四人は僕の前に跪き、頭を垂れる。
「また会えるとは夢にも思ってなかったぞ、主」
「本当ですよ、ご主人」
「姿形が以前と違えども、魂までは見間違えませんよ、ご主人様」
「こんなに嬉しいことはないよ、主様」
何の事情も知らなければ、彼女達が何を言っているのか理解出来ないだろう。
でも僕は、彼女達の言葉をきちんと理解している。
「僕もまた会えて嬉しいよ――サラマンダー、シルフィード、ウンディーネ、ノーミード」
『四聖獣』の四人と再会した僕は、ワカバちゃん達の方を振り向く。
「これで証明出来たでしょう? 僕が――『原初の魔王』ノヴァの生まれ変わりであることが」
まさかのアルの正体です。
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