表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/25

21 用心棒:アル

前回のあらすじ

アルは魔王の用心棒

 

 こんなところでまさかアイツの……ヴァンの名前を聞くとは思わなかった。


「なら尚更だ。その用心棒がどうしてこんなところにいる? 魔王の傍にいなくてもいいのか?」

「魔王の傍には側近がいるから大丈夫だよ。それも知ってて言ってるんだろう? 『双翼』の片割れ、ジーク・ドラグナー。いや……今は勇者だから、ジーク・グレイルか?」


 ……コイツは、アルと名乗ったこの男は、いったい何処まで知っているんだ?


 俺の中でのアルに対する警戒心が最大になる。

 そして俺が身構えていると――アルは予想外の行動に出た。


「まあ……ここでやるべきことはやったし、おいとまさせてもらうよ」


 アルはそう言うと、右手の剣を鞘に納めてしまった。


「なっ……!? ふざけているのか!?」

「僕はいたって真面目だよ。それに、キミと戦う理由もないしね」

「……アイツの近くにいる存在を、俺がそう易々と見逃すと思うか?」

「……なら、それ相応の代価を支払ってもらうよ」


 その言葉を切っ掛けに、アルの雰囲気が一変する。

 アルの身体から、それまでいったい何処にそんなのを隠していたんだって言うくらいに、圧倒的なプレッシャーが放たれる。


 そのプレッシャーはまるで――『魔王』そのものだった。


「……《ボルテクスバースト》」


 アルの変貌に驚いていると、ヤツは静かな声で()()()()()()()を放ってきた。

 アルの左手の杖から放たれた雷撃は、俺の顔のすぐ隣を通り抜けて行った。


 まったく反応が出来ず、ブワッと大量の冷や汗が湧き出る。

 ヤツがその気なら、俺は今の一撃で殺されていた。


 するとアルは左手を降ろし、プレッシャーも引っ込める。

 そして俺に背中を向ける。


「……それじゃあ今度こそ、お暇させてもらうよ」

「あ……ま、待て、アル!」


 俺は立ち去ろうとするアルを、慌てて呼び止める。

 アルは振り返ると、煩わしそうな表情を浮かべていた。


「……まだ何かあるの?」

「何故お前は……お前も《ボルテクスバースト》を使えるんだ!? 今の時代、ソレを使えるのは俺だけだろう!?」

「そんなのは至ってシンプルだよ。《ボルテクスバースト》を使えると公表してるのが、キミだけだからさ。非公表も含めると、この時代に《ボルテクスバースト》を使えるのは僕とキミ、それとゲーティアと名乗る謎の女魔法使いの三人だけだよ。それだけは保証する」


 どうやらアルも、ゲーティアとか言う輩のことは把握しているようだった。


 それと分かったこともある。

 目の前の男は、俺の知り得ない裏の情報まで知っているということだった。


「ああ……そうそう。《ボルテクスバースト》の使い手のよしみで教えてあげるよ。今度魔王軍が侵攻するのは、東大陸西部の国のアーシャル王国だから」


 再び俺に背を向けたアルの口から、とんでもない情報が発せられた。

 ここで敵であるハズの俺に情報漏洩するメリットなんて……あるわけがない。ブラフか?


「……敵のお前のその情報をそのまま鵜呑みにしろと? そこまで俺は馬鹿じゃないぞ」

「だったら魔王の座を簒奪されないとは思うけど……それは今は関係ないことだよね。一応断っておくと、僕は今の魔王に用心棒として仕えてはいるけど、忠誠までは誓ってないよ。僕が忠誠を誓う主は別にいる」

「……無駄だろうが聞いておく。その主とやらはいったい誰だ?」

「キミもよく知っている人物だよ。人類側ではなく、魔族側として、ね。それじゃあ今度こそお暇するよ」


 そう言い残すと、アルはこの場から飛び去って行った。

 ヤツの最後の言葉は少し謎だが、それよりもまずは……。


 地上に降り立ち、旧冒険者ギルド本部の建物の中へと戻る。

 そして未だに倒れ伏しているステラの身体を抱き起こす。


「おい、ステラ……ステラ! 無事か!?」


 名前を叫びながら軽く身体を揺すると、ステラはうっすらと目を開いた。


「うっ…………ジーク、さん……?」

「良かった……目を覚ましたか……」

「あの……私はいったい……?」


 頭に疑問符を浮かべているステラに、俺はさっきまでここで起きていた出来事についての説明を始めた―――。




 ◇◇◇◇◇




 央都の西に広がる森の中へと舞い戻ってくると、そこには僕の主と主の協力者達の姿があった。

 地上に降り立ち、半魔獣化を解除する。


「ただいま戻りました」

「お帰りなさい、アルさん」


 僕を出迎えてくれた主は、キツネのような耳とシッポを生やした妖族の金髪の少女で、メラスレ王家内では重要な意味合いを持つ紫色の瞳をしている。


 ワカバ・ブロッサム。

 メラスレ王家御三家の一つ、ブロッサム家から輩出された次期魔王候補だった。

 ただ、当の本人がまだ十四才の未成年だから、たとえ魔王に選出されたとしてもすぐにその座に就けるわけでもなかった。


 そして、僕が忠誠を誓う真の主でもあった。


「それで……目的のモノは見つかりましたか?」

「ええ。この通り」


 そう言って僕は、腰に吊るした魔法袋の中から、旧冒険者ギルド本部の地下に廃棄されていたとあるモノを取り出す。


 ソレは――錆び付いた枷と鎖だった。

 でもコレが、僕にとって何よりも勝る大事なモノだった。


 ソレを覗き込んだ主と協力者達は、揃って首を傾げる。


「コレが……アルさんの探してたモノ……?」

「ただの錆びた枷と鎖にしか見えないけど……」

「オレの目にもそう見えるな」


 僕の見つけたモノにダメ出しをしたのは、主の協力者達だった。


 フリッド・ドラグナーと、アリス・グレイル・ドラグナー。

 今代の勇者であるジークの実の両親にして、先々代魔王と先代勇者その人だった―――。






ちなみにメラスレ王家御三家は、ブロッサム、ヴァンプル、ドラグナーの三つです。

……サロモニス? 知らない子ですね(すっとぼけ)。




評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ