20 用心棒
前回のあらすじ
謎の男が現れた
「ステラ!」
俺がステラの名前を叫ぶと、彼女は僅かばかりに身動ぎをした。
どうやら、死んではいないようだった。
「テメエは誰だ! ステラに何をした!」
ヘアピンの姿を取っていた聖剣と魔剣を抜き放ち、茶髪の男に問い質す。
男は俺の方を振り向くと、紫色の冷たい眼差しで俺を見つめてくる。
……ん? 目の色が、紫色……?
何か引っ掛かりを覚えたが、その原因が分かるよりも早く男が口を開く。
「この女の子にはそんなにヒドイことはしてないよ。彼女が突っ掛かってきたから、少しの間静かにしてもらっただけ。ところで……この娘はキミの連れ?」
「そうだ……って言ったら、どうするんだ?」
「別にどうもしないよ。キミ達には、ここから早く立ち去ってもらいたいだけだからね」
「……断る、と言ったら?」
「実力行使に打って出る」
男はそう言うと、右手の剣の剣先を俺の方に向けてきた。
男の言葉に、嘘偽りはないようだ。
しかし……。
チラリ、とステラの方を見やる。
ここで戦ったら、ステラに被害、が―――。
突然、俺の視界が歪んだ。
そしてものすごい勢いで、旧冒険者ギルドの壁をぶち破って外へと躍り出た。
咳き込みつつ穴の方に目を向けると、両足が動物のモノになっており、獣耳とシッポを生やした男が俺の元いた場所に立っていた。
おそらく、俺は男に蹴り飛ばされたのだろう。そうとしか考えられない。
そして男は、ゆらりと俺の方に目を向ける。
ぞわり、とゲーティアとは別の得体の知れなさに、全身の毛が逆立つ。
すると男は、俺の方に向かってきた。
「チッ……! 《ギガサンダー》!」
俺は舌打ちしつつ、男に向かって雷撃を放つ。
しかし男は、俺の想像を上回る動きをした。
「《ブラッディスフィア》!」
吸血族の固有魔法であるハズの鮮血魔法で、俺の雷撃を防いだのだ。
そして男の身体にも変化があった。
獣耳とシッポが消え両足も人のモノへと戻り、代わりに背中からはコウモリのような翼が生えていた。
獣耳とシッポが生えた時点で男が魔族であるとアタリは付けていたけど、まさか二つの種族の血を引いているとは……。
おかしくはないけど、珍しいことではあった。
だけど男は、そんな俺の想像を嘲笑うかのような手を打ってきた。
「《付喪紙》、起動!」
男は剣を一旦鞘に納めると、空いた右手でズボンのポケットから幾何学模様の描かれた札を取り出す。
そして今度は、妖族の固有魔法である妖術魔法を発動した。
子供くらいの大きさの紙の剣が三本生み出され、俺に向かって飛んできた。
ちなみに男の身体からはコウモリのような翼は消え去っており、それと入れ替わるようにキツネのような耳とシッポが生えていた。
俺は飛んできた紙の剣を両手の剣で迎撃し、一旦体勢を立て直そうと半魔獣化して背中から竜の翼を生やし、上空へと飛び上がる。
そして俺は気付くべきだった。
獣人族のような身体能力の向上、吸血族と妖族の固有魔法を発動したのだから、残るとある魔族にも変化出来る可能性を―――。
男は剣を再び引き抜くと、背中から竜の翼を生やして俺に追い縋ってきた。
「何っ!?」
男の変化に度肝を抜かれていると、男は左手の杖の先端を俺に向ける。
「《マルチショット》!」
男から、全属性初級魔法が放たれた。
それらの攻撃を回避しつつ、俺は大きく息を吸い込む。
そして俺がソレを放つのと、男がソレを放つのはほぼ同時だった。
「「《ドラゴンブレス》!」」
竜人族の固有魔法である息吹魔法が、俺と男から放たれる。
二つのブレスはほぼ中間地点でぶつかり合い、そして対消滅した。
「……なんだそのデタラメな身体は? お前は本当に魔族なのか?」
「これでも僕は生粋の魔族だよ。もっとも……妖族、吸血族、竜人族、獣人族の血を引くクォーターとして、だけどね」
「デタラメ過ぎるだろう……その血は」
「キミも大概じゃないのか? 『魔王』と『勇者』の血を引く先代魔王にして、今代の勇者サマ?」
ピクリ、と眉が思わず動く。
俺の素性はとっくにバレているようだ。
しかし……解せない。
俺の素性を知っているのは、それほど多くはない。
何処かから情報を仕入れたのか?
「お前は……誰だ?」
最大限に警戒しつつ、男に尋ねる。
すると男は、俺の質問に律儀にも答えてくれた。
「僕の名前はアル。ある目的のために今代魔王のヴァンに仕えてる、冒険者崩れの用心棒さ」
魔族欲張りセットみたいなキャラが出て来ました。
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