18 悠久の魔法使い
前回のあらすじ
謎の存在が現れた
俺達は突然目の前に現れた存在に、目を奪われた。
その存在はフード付きのマントを羽織り、フードも目深に被っており、フードの隙間からピンク色の髪が見えていた。
そしてその手には、杖が握られていた。
母さんが警戒心を露にしながら、その存在に尋ねる。
「あなたは、誰?」
「わたし? わたしは……何者にもなれなかったナニカ、かしら?」
謎の存在は冗談めかした口調でそう答える。
声音から、その存在が女だと判明する。
だけど明らかになったのは性別だけだった。
母さんは苛立たし気に、彼女に再び問いかける。
「ふざけてないで、ちゃんと答えて。答えないと……斬るわ」
母さんが本気だと察したのか、謎の女は素直に答えた。
「はぁ……分かったわ。ちゃんと答えるわよ」
そう言うと彼女は、マントによって隠されていたロングスカートの裾を軽くつまみ上げ、俺達に向かって会釈をする。
「お初にお目にかかります。わたしの名前はゲーティア。『悠久の魔法使い』、ゲーティアと申します。以後お見知りおきを」
「悠久の魔法使い……?」
その異名には聞き覚えがなかった。
超級魔法が使えるともなればどこかで噂になっているハズだが、一度も聞いたことなどなかった。
とそこまで考えた時、さっきの出来事に違和感を覚えた。
ゲーティアと名乗った謎の女は、俺しか使えないハズの《ボルテクスバースト》を使っていた。
そのことが引っ掛かって、俺はゲーティアに尋ねる。
「ゲーティア、と言ったか? お前に聞きたいことがある」
「なぁに? 魔王の末裔くん?」
母さんの時とはうって変わって、気さくな雰囲気で聞き返してきた。
俺が魔王の血を引くことも知っているらしい。
どこでそのことを知ったのか聞きたい気持ちもあるが、それは後回しにする。
「何故お前も《ボルテクスバースト》を使える? あの魔法の使い手は俺しかいないハズだ」
「ええ、そうよ。この時代では、キミしかあの魔法を使えないわ」
「この時代、では……?」
含みのある言い方だった。
それではまるで、自分はこの時代の存在ではないとでも言うような……。
とその時、バンという破裂音と共に、ゲーティアが倒れた。
音がした方に目を向けると、そこには魔族の生き残りが銃を構えながら立っていた。
ゲーティアは頭を撃ち抜かれたらしく、地面に血の池を作りながらピクリともしなかった。どうやら即死のようだ。
母さんはすぐさまその魔族に接近すると、一太刀で斬り伏せた。
これで本当に、魔族は全て倒されたようだ。
「なんだったのかしら、この人?」
母さんはそう呟き、それに釣られるようにゲーティアの死体に目を向けた時、自分の目を疑った。
頭を撃ち抜かれて死んだハズのゲーティアの身体がもぞもぞと動き、あろうことか何事もなかったかのように起き上がったのだ。
俺はステラを自分の背後に庇い、聖剣と魔剣を構えてより一層警戒心を露にする。
母さんも今までに見たことがないほど、険しい顔をしていた。
そんな俺達を気にせずに、ゲーティアは頭を左右に振りながら立ち上がる。
「いったぁ……久しぶりに死んだわ……」
「お前は、不死……なのか?」
俺が恐る恐る尋ねると、ゲーティアは首を横に振る。
「少し違うわね。わたしは不老不死なの。……正確に言えば、不老不死の呪いを受けた者、かしら?」
「不老不死が、呪い……?」
俺の後ろにいるステラが、そう呟く。
彼女の呟きが聞こえたのか、ゲーティアは頷く。
「ええ、そうよ。親しい人は死んでいくのに、自分は死ねない。愛する人と人生を添い遂げようとも、自分は老いることはない。愛する人の後を追おうとも、不死だから死ぬことは出来ない。これを呪いと言わずに、何と言うの?」
ゲーティアが自嘲気味にそう言う。
そう言う彼女の声音には、どこか悲しみを帯びている気がした。
だけどそれも一瞬のことで、彼女は告げる。
「……長居しちゃったけど、わたしはこれで失礼するわ。また会う機会が……ないといいわね」
ゲーティアが踵を返そうとしたその時、母さんが彼女を呼び止める。
「ゲーティア、最後に聞かせて。貴女は人類軍と魔王軍、どちらの味方なの?」
ゲーティアは足を止め、母さんの質問に律儀にも答える。
「どちらでもないわ。でも……強いて言えば、わたしは『原初の魔王』の血を引く者には敵対しないわ」
「それは、どういう……?」
母さんが聞き返すけど、ゲーティアは首を横に振る。
「それ以上はわたしの口からは言えないわ。知りたかったら、自分で調べることね。この先にはお誂え向きに、旧冒険者ギルド本部があるのだから」
ゲーティアはそれだけ言い残すと、俺達の前から去って行った―――。
ピンク髪の魔法使い。どこかで聞いたような……?
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