16 中央大陸
前回のあらすじ
効率的な魔法の使い方を教えた
俺がステラとパーティーを組んでから、三ヶ月の時が過ぎた。
この間、ステラを徹底的に鍛え上げてDランクを飛び越し、Cランクまで昇格させることが出来た。
あまりにも厳しく指導し過ぎたので、彼女からは「鬼! 悪魔!! 人でなし!!!」とのお褒め(?)の言葉をいただいた。
失敬な。俺は元魔王な勇者なだけだぞ。
そんな悪鬼羅刹みたいな物言いは……まぁ、甘んじて受け止めよう。
俺も少〜しだけ厳しく指導し過ぎたかもしれない、そこは反省する。
俺達の変化はこのくらいで、世界では大きな変化が訪れていた。
それは、人類軍が中央大陸を奪還したことだ。
俺が魔王軍四天王の一人のレオを撃破した時期と時を同じくして、人類軍は中央大陸に大攻勢を仕掛けた。
約一ヶ月にも及ぶ戦闘の末に、人類軍は再び中央大陸を支配下に置いた。
中央大陸にいた魔王軍は、西や北の大陸に逃走したらしく、捕虜の数は一万人にも満たなかったと、後にハデスから中央大陸に関することを知らされた。
そんなこともあり、俺とステラは、その中央大陸にやって来ていた―――。
◇◇◇◇◇
汽車と船を乗り継いで中央大陸に渡り、俺達はグランセントリアを目指す。
その街はかつて、世界の中心とまで呼ばれるほどに栄えていた。
だが、度重なる戦乱に巻き込まれたせいで街のほとんどは廃墟と化し、そのかつての繁栄は見る影もないらしい。
俺達は降り立った港町から、徒歩でグランセントリアに向かう。
何故その街に向かうのかというと、ハデスに実地調査を頼まれたからだ。
アイツはこの街を前線基地にするつもりらしく、魔王軍の残党が残っていないかなどの調査を勇者に命令した。
勇者―つまり俺は、アイツの命令に従って中央大陸を訪れていた―――。
◇◇◇◇◇
グランセントリアに続く、森の中を突っ切る街道を歩いて行く。
街道と言っても、町中のようなレンガや石畳などで舗装された道とは違い、地面が剥き出しの未舗装な道だった。
だけど、未舗装なりに地面は均されていて、歩きにくさは感じなかった。
中央大陸は他の大陸に比べて強力な魔物は生息しておらず、魔物の数も少ないので、そんなに辺りを警戒しなくて済む。
隣を歩くステラを横目で見る。
彼女は幼い子供のように、辺りを物珍しそうにキョロキョロと見回していた。
すると俺と目が合い、彼女はすぐに目を逸らす。
「そんなに珍しいか、この森?」
俺がそう尋ねると、ステラはそっぽを向きつつも答える。
「……はい。南大陸では見かけない植物もあって、見ているだけで楽しいです。それに、中央大陸に来たのは初めてでしたから……」
「そうか。それくらいではしゃぐなんて、まだまだ子供だな」
俺がそう言うと、ステラは頬を膨らませながらこちらに向き直る。
「子供じゃないです! これでも一人前の淑女ですよ!」
「淑女は冒険者にならないと思うんだが」
俺がそう冷静にツッコむと、ステラはたじろぐ。
「うっ……。それは、えぇと……そう! それはそれ、これはこれです!」
「どういう理屈だ……」
ステラの訳が分からない言い訳に、俺は呆れ返る。
すると彼女は胸を張って答える。
「乙女の理屈です!」
……俺の厳しい訓練を受け過ぎて、とうとう頭がおかしくなったのか?
俺は一抹の不安を覚え、ステラに尋ねる。
「……頭大丈夫か? 俺の訓練を受け過ぎて、どこかおかしくなったんじゃないのか?」
「もうっ、ジークさんったら! 私はいたって正常ですよ!」
「そうか、ならいい。安心した」
……つまり元々おかしかった訳だ。
俺はその言葉を呑み込み、安堵に似た溜め息をこぼす。
そして俺達は街道を進んで行った―――。
◇◇◇◇◇
陽が沈み、辺りが暗くなってきたので、この辺りで野宿することにした。
俺は一日二日眠らなくても問題なく動けるので、寝ずの番をしてステラに休むように伝えた。
夜も更け、パチパチと木の枝が炎ではぜる音だけが聞こえる。
ステラはすでに眠っており、寝袋に入りすやすやと寝息を立てていた。
ステラの寝顔を見ていると、まだまだ子供だなという気持ちは拭えなかった。
だけど、普段のちょっとした仕草に大人びた雰囲気を感じる時もあり、ドキッとする場面も少なくなかった。
そんなことを思っていると、火の勢いが弱まっているのに気付き、木の枝を追加する。
再び火の勢いが強まり、なんとなく夜空を見上げたその時に、俺は背後から何かの気配を感じた。
俺は素早く立ち上がり、黒いヘアピンを魔剣に戻して臨戦体勢を整える。
ステラを起こさないように気を付けながら、闇に問い掛ける。
「そこにいるんだろう? 出てこい」
そう言うと、謎の気配は何の躊躇もなく俺の前に姿を現した。
その姿は、二十代前半のような見た目の女性のようで、間違ってもこんな夜更けに森の中にいるのはおかしかった。
だけどその女性は、俺がよく知る人だったので不思議と納得した。
いや、何故ここにいるかは分からないが……。
その女性が片手を上げて、俺に声をかける。
「やっ、久しぶり、ジーク」
その声を聞き、俺は警戒を解き魔剣を黒いヘアピンに戻す。
それを頭に付け直しつつ、その女性に返事をする。
「久しぶり、じゃない。なんでこんな所にいるんだ―母さん」
俺が呆れつつそう言うと、相手はイタズラが成功した子供のように微笑んだ。
その女性は、俺の母親であり先代勇者でもある、アリスその人だった―――。
何故先代がここに!?
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