15 訓練中
前回のあらすじ
クエストが無かったから訓練することになった
私はテーブルに突っ伏していた。
魔力切れで、一歩も動けそうになかった。……いや、自分の足でなんとかここまで来たけど。とにかく、そんな気分だった。
あれから何度も、何度も何度も何度も何度もジークさんに向けて魔法を放ったけど、当たるどころか掠りもしなかった。
彼がとても強いということを差し引いても、私は自信を無くしそうだった。
……こんなんじゃ、ジークさんとパーティーを組んでいる意味がない。ダメダメだな、私……。
私は自己嫌悪に陥る。
するとジークさんが、私に声をかける。
「ステラ。とりあえず飯でも食って、魔力を回復させろ」
「はい……」
私はノロノロと身体を起こし、メニューを確認してから、近くを通りがかったウエイトレスさんに注文する。
私はサンドイッチとオレンジジュースを、ジークさんはカルボナーラを頼んだ。
私達は今、ギルドの隣にある食堂に休憩も兼ねて、お昼を食べに来ていた。
しばらくして注文した料理が運ばれて来て、私はもそもそとサンドイッチを食べる。
ジークさんはというと、顔をほころばせながらカルボナーラを食べていた。
私は不覚にも、カワイイと思ってしまった。
私の視線に気付いたのか、ジークさんは食べる手を止めて私を見てくる。
「……なんだ?」
「いえいえ、何でも。美味しそうに食べるなぁと思っただけです」
「……別にいいだろ。好物なんだから」
そう言ってジークさんはそっぽを向く。
そんな彼もカワイイと思った。
私は再びサンドイッチを食べ始めた―――。
◇◇◇◇◇
昼飯を食った後、俺達は再びギルドの訓練場にやって来た。
俺はステラと向き合う。
「それじゃあ、午前中の訓練を踏まえた上で指導していく」
「はい、お願いします!」
休憩したからなのか、ステラは少しだけ元気を取り戻していた。
午前の訓練を終えた後、彼女は魔力切れで疲労困憊という表情をしていたから、少し心配していた。
この分なら、午後の訓練もなんとかやり遂げられるだろう。
「まず、午前中の訓練を見てて思ったことを率直に言う。……覚悟はいいか?」
俺はわざと重々しい雰囲気でステラに尋ねる。
彼女はゴクリと喉を鳴らしてから、頷く。
「はい……どうぞ遠慮なく」
「それじゃあ言うぞ。…………ステラは魔法の使い方が下手だな」
先程の雰囲気とは違い、気軽な雰囲気でそう告げると、ステラは目をぱちくりとさせていた。
「……へ? それはどういう……?」
「言った通りの意味だ。毎度毎度、全力で魔法を発動させていれば、そりゃ午前中だけで魔力が切れるわな」
「うっ……。それはその、私がまだ駆け出しだから……」
「言い訳無用。だから午後は、効率的な魔法の発動の仕方を教える」
そう言って俺は、お手本として《ファイア》を発動させて、右手の上に火球を生み出す。
「さ、やってみろ」
「やってみろって……。何もコツとか言ってないじゃないですか」
「それは後で言うから、まずは《ファイア》を発動させてみろ」
「……分かりました。《ファイア》」
どこか納得していない表情を浮かべながらも、ステラも同じく右手に火球を生み出す。
俺はそれを見て、彼女に指導する。
「魔力を込め過ぎだ、もっと少なくていい。もう一度見本を見せるから、ちゃんと真似しろよ」
俺は一度火球を消してから、再度生み出す。
ステラも真似るが、今度は火球が出なかった。
「あれ?」
「今度は魔力を少なくし過ぎだ。もう少し魔力を込めないと発動しないぞ」
「……《ファイア》」
「少し魔力を込め過ぎ。あとちょっと少なくしても問題はない」
「《ファイア》っ」
「そう、それだ。その感覚を忘れないうちにもっと繰り返して」
「《ファイア》っ!」
「また魔力を込め過ぎだ。さっきの感覚を思い出せ」
「は、はいっ!」
それから、火球を生み出しては消し、生み出しては消しを繰り返していった。
ステラは俺が思った以上に飲み込みが早いので、すぐに魔法を効率的に発動させることができるようになるだろう。
この訓練の目的は、必要最低限の魔力で効率的に魔法を発動させることだ。
午前中の訓練を見てて、ステラは一発ごとに必要以上に魔力を注いでいたので、そこを矯正しようと思った。
この訓練は、日が暮れるまで続いた。
今度は、ステラの魔力が切れるようなことにはならなかった―――。
ジークは効率厨とかではないです。魔力が少ない状況でも戦える術を教えているだけです。
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