13 報告
前回のあらすじ
ジークがステラに色々打ち明けた
俺とステラは、廃屋から出る。
ここから王都まで戻るための手段を考える。
徒歩だと数日かかり、汽車で戻ろうにも車両が脱線していて運行できる状態じゃないハズだ。
……あまり採りたくない手段だけど、背に腹は変えられない。
「……ステラ、少し離れていてくれ」
「……? はい、分かりました」
ステラは首をかしげつつも、俺の忠告に従う。
彼女が離れたのを確認してから、俺は魔獣化をする。
魔獣化とは、魔族だけが使える特殊能力で、自らの姿を魔物のような姿に変化させる。
全身を変化させる魔獣化に対して、身体の一部分を変化させるのを半魔獣化と呼ぶ。
俺の姿は、漆黒の鱗を持つドラゴンに変化した。
ステラが俺の姿を見て、目を見開いている。
「ステラ。王都に戻るから、俺の背中に乗ってくれ」
「ふぇっ!? ……あ、は、はい!」
ステラはかなり動揺しながらも、大人しく俺の背中に乗る。
彼女にしっかり掴まっているように注意してから、翼をはためかせて上昇する。
一定の高さまで上昇した後、背中に乗るステラを振り落とさないように気をつけながら、王都に向かって飛翔した―――。
◇◇◇◇◇
王都の少し手前で、俺は着陸した。
さすがにドラゴンの姿で王都に入るわけにはいかない。
ステラを降ろしてから、俺は魔獣化を解除して軽く伸びをする。
久しぶりにドラゴンの姿になったけど、それほど疲労は感じなかった。
視線を感じて振り向くと、ステラがぼーっと俺のことを見つめていた。
「ステラ?」
「……ひゃっ!? ひゃい、なんでしょうか?」
「いや、俺のことを見てたから、気になって声をかけたんだが……」
「あ〜、え〜っと……それは、そのぅ……」
ステラがもじもじしながら俺から視線を外す。
何か言いにくいことなのだろうか?
「俺は気にしないから、言ってみろ」
「え〜……じゃあ、お言葉に甘えて……。ジークさんはやっぱり、魔族の血を引いてるんだなぁと思っただけです」
「……ん? それだけか?」
「そ、それだけです! 他意はありません!」
そう言うと、他意があるように聞こえるのは何でだろうな?
「そうか? ステラがそう言うならいいけど……」
俺はこの話題を終わらせ、ステラを伴って王都に向かって歩き出す。
ここからなら、一時間くらいで着くだろう―――。
◇◇◇◇◇
あ、危なかった……!!
私はジークさんの後ろを歩きながら、安堵の息を吐く。
彼のドラゴンの姿にも驚いたけど、やっぱり人型の方がカッコいいと思った。
それでついつい、彼のことをぼーっと見つめていた。
……そう考えると、やっぱり私はジークさんのことが好―――。
と、そこまで考えてから頭を振って、今思っていたことを忘れようとする。
吊り橋効果だって言ったでしょ、私っ!!
そう自分に言い聞かせるけど、視線は常にジークさんの姿を追っていた―――。
◇◇◇◇◇
一時間ちょっとで王都までたどり着いた。
空は茜色に染まっていた。
これからハデスと謁見して、魔王軍を撃退したことを報告したければならない。
俺達は足早に王城に向かう。
王城の正門を警備している衛兵に、王と謁見したい旨を伝えると、すぐに王の間へと案内された。
王の間に通された後、ハデスの前まで歩いていき、跪く。
今この場には俺とステラ、それとハデス以外にも人がいるので、そうした。
「王よ、ご報告申し上げます」
「おお、勇者よ。して、報告とは?」
俺は一拍置き、報告する。
「南大陸北部に侵攻してきた魔王軍と、それを率いていた魔王軍四天王の一人を撃退して参りました」
俺の報告に、周囲がどよめく。
ハデスがそれを手で制して静かにさせる。
「ご苦労であった、勇者よ。後で褒美を取らせよう」
「ハッ、ありがたき幸せ」
俺は恭しく頭を下げる。……見かけだけは。
「報告はそれだけか?」
「はい。用件も済みましたので、これにて失礼いたします」
俺は立ち上がり、ステラを連れて王の間を後にしようとした時に、ハデスに引き留められる。
「今日はもう遅い。我が城で休んでいくといい。部屋は用意させる」
「……では、お言葉に甘えて」
口ではそう言うが、正直なところ、俺は何故か嫌な予感がして断りたかった。
だけどそれだとハデスの面子を潰すことになりかねないので、俺は表情を顔に出さないよう努めながら了承した―――。
◇◇◇◇◇
結果的に言えば、俺の予感は的中した。
部屋の窓から王都の夜景を眺めながら、ある人物に向けて恨み言を吐く。
……あんのタヌキジジィ! 今度会ったらタダじゃおかねぇ! いや、今から闇討ちしに……。
「……あのぉ、ジークさん?」
同室者の声を聞いて、俺は意識を現実に戻し、窓からそちらに目を向ける。
同室者―ステラが、頬を赤く染めながらベッドの端にちょこんと座っていた。
そしてそのベッドはダブルベッドで、部屋にあるベッドはそれだけだった。
だからつまり……そういうことだろう。
あのクソジジィ、何かにつけて俺を誰かとくっつけようとするきらいがある。
その思惑には毎回乗らなかったが、今回もそうだ、とは言い切れなかった。
出逢って間もないが、俺はステラのことは嫌いではない。むしろ、少し好意を抱いている。
この好意が親愛なのか恋愛なのかまだ分からないが、何かの弾みで一線を越えるような事態にならないように気をつけたい。
ステラが俯きがちに尋ねてくる。
「……ベッドが一つしかないんですけど、どうしましょう?」
「ステラが使えばいい。俺はソファーで寝る」
俺がそう言うと、ステラが立ち上がった。
「それはダメです! ジークさんの方がお疲れなんですから、ジークさんが使ってください! 私がソファーで寝ます!」
俺はステラに近づいて反論する。
「いや、俺がソファーで寝る。ステラがベッドで寝ろ」
「いえ、私がソファーで」
「いや、俺がソファーで」
「いえ、私が」
「いや、俺が」
「いえ、私が……あっ」
押し問答をしていると、ステラが何かに足を取られたのか、ベッドに倒れ込む。
その拍子にステラが俺の服の袖を掴んだので、俺も巻き込まれる形で倒れ込む。
「…………」
「…………」
俺とステラは至近距離で見つめ合う。
互いの息がかかるほどに顔が近かった。
傍から見ると、俺がステラを押し倒す形になっていた。
ステラが何か言うより先に、彼女の上から身体をどかして、逃げるようにソファーに向かう。
「俺がソファーで寝るから。それじゃあおやすみ」
言うが早いか、俺はステラに背を向けソファーに横になった。
心臓は早鐘を打ち続け、なかなか睡魔が訪れて来なかった―――。
ステラはちょっとだけ期待してました。
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