12 夢
前回のあらすじ
四天王の一人を撃破
ステラが待っている廃屋までたどり着き、地面に降り立つ。
そして半魔獣化を解除してから中に入る。
「ステラ、いるか? 俺だ、ジークだ」
「……ジークさん? 無事でよかったです」
ステラが安堵の表情を浮かべながら、奥から姿を現した。
俺の下まで駆け寄ってくるが、ふとその足が止まる。
先程の安堵した表情とは違い、俺のことを警戒しているような、恐怖しているような……そんな顔をしていた。
「……ジークさん。これだけは正直に答えてください」
「……なんだ?」
「ジークさんは……何者なんですか?」
俺ははぐらかそうと思ったが、ステラには全てを打ち明けてもいいと思い、包み隠さず彼女に伝える。
「俺は……今の魔王にその座を奪われた、間抜けな先代魔王だった男だ」
俺は自嘲気味に笑いながら、そう言った―――。
◇◇◇◇◇
私はジークさんの言葉に衝撃を受ける。
彼が魔族の血を引いているのは分かっていたけど、まさか先代魔王だったなんて……。
私はこの際、彼に聞きたいことを全て聞こうと思った。
「先代魔王が、何故魔王軍と敵対する道を選んだんですか? それも、勇者になってまで……」
「端的に言えば、利害の一致だ」
「利害の、一致……?」
私が首を傾げると、ジークさんは頷く。
「ああ。俺は魔王を倒したい、人類軍は魔王を倒して世界を平和にしたい。だから俺は勇者になったんだ」
「でも、勇者になるには……」
「勇者の血を引いてなきゃいけない、か?」
私が言いたかったことを先に彼が口にした。
「そうです! 魔王だった……いや、魔族のジークさんに勇者の血は……あ」
流れてない、と言いかけたところで、彼の母親が誰だったかを思い出す。
彼の母親は、先代勇者であらせられるアリス様だった。
汽車の中で聞いたことを忘れてたなんて、自分の思った以上に気が動転しているのかもしれない。
と、そこまで考えた時に、先代勇者にまつわる一つの伝承があるのを思い出した。
ちょうど目の前に彼女の関係者がいるので、それも聞いてみる。
「ジークさん。アリス様は当時の魔王と結ばれたと聞きましたけど、それは本当ですか?」
「ああ、本当だ」
ジークさんが頷く。
と言うことは、彼は―――。
「俺は、竜人族で先代……いや、先々代魔王と、人間族で先代勇者を親に持つ、魔族と人間族のハーフだ。だから魔王にも、そして勇者にもなれた」
ジークさんが、己の正体を包み隠さずに私に告げた―――。
◇◇◇◇◇
今から三十年程前にも、人魔大戦は起きていた。
その戦争で、魔王だった父と勇者だった母は出逢ったらしい。
らしい、というのは、二人が頑なに詳細を教えてくれないからだ。
何をどうしたら敵対していた二人が結ばれるのか大変興味があるが、今の今まで教えてくれなかった。
たぶん、真実を墓場まで持っていくつもりだろう。そこまで恥ずかしい出来事なのか、二人の馴れ初めは……。
閑話休題。
ステラは、驚きで目を見開いている。
無理もない。突然、魔族と人間族のハーフだなんて正体を明かされたら誰だってそうなる。
だが、ステラは驚きつつも、俺にまた質問してくる。
「……それじゃあ、『魔勇者』の本当の意味は……」
「そこまで考えが及ぶとは、ステラは賢いな」
俺は率直な感想を述べ、ステラに先を促す。
それを受けステラも、己の考えを述べる。
「私の考えの通りなら、魔法の腕も一流だから『魔勇者』と呼ばれるようになったのではなく……魔王が勇者だからそう名乗ったんじゃないんですか?」
「……そうだ」
ステラの言ったことはだいたい合っている。
元魔王が勇者だから『魔勇者』だと、自分から名乗り始めた。
だけど、勇者が魔王だったとは万が一にも民衆に知られるわけにはいかないとハデスが言ったので、表向きは魔法の腕が一流だからという理由にしている。
「最後に一つだけ教えてください。ジークさんは何故魔王を倒したいんですか?」
ステラが核心を突くようなことを聞いてきた。
ここまできたら、俺の目標も彼女に伝えることにした。
「俺がまた、魔王の座に返り咲くためだ」
「……それは、世界を征服するために?」
ステラの言葉に、俺は首を横に振る。
「いいや、俺の目標はそんなものじゃない。俺の目標は――魔族と人間族の共存だ」
「魔族と人間族の共存、ですか?」
「ああ。そのために、戦禍を世界中に広げている今の魔王を倒して、俺がまた魔王になる」
「でも、魔王になったからといって、共存出来るとは……」
「それは百も承知だ。だけど困難だからといって、俺はその目標を……夢を諦めるような真似はしたくない」
それに、それは実現不可能な夢ではないと俺は思っている。
かつて敵対していた者同士でも手を取り合えることを俺は知っているし、身近にいたからだ。
ステラが何か覚悟を決めたような顔をする。
「その夢、私にも手伝わせてください」
「……なんだって?」
俺は思わず聞き返した。
「その夢を手伝わせてくださいって言いました。ジークさんの夢が叶うってことは、世界が平和になるってことですよね?」
「……まぁ、そうなる……か?」
「だからその夢が叶うように、私も微力ながらお手伝い出来ればと思ったんですけど……。ダメ、ですか?」
ステラが上目遣いで俺を見てきて、思わずドキッとする。
場違いにも、可愛いと思ってしまった。不覚。
俺は内心を悟られないように冷静に努めながら、右手を差し出す。
「よろしく、ステラ。一緒にこの夢を叶えよう」
「!? ……はい、はいっ! こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
ステラが両手で俺の右手を握り返す。
こうして俺とステラは、小さな、だけど大きな一歩を踏み出した―――。
困難な道を歩みだした主人公とヒロイン。
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