11 激突
前回のあらすじ
ステラを避難させた
俺は魔王軍の陣地まで戻って来ていた。
ずっと飛行しっぱなしだったので地面に降り立ち、両手の剣を構えてレオ達と対峙する。
「またここに戻ってくるとは……。そのまま逃げおおせればよかったのでは?」
レオが煽るように言ってくる。
「お前達を放っておくと、いつまた襲われるか分からないからな。潰せる内に潰すに限る」
「そうですか。……皆の者! 今度こそ、勇者の首を討ち取れ!!」
レオがそう言うと、部下の魔族達は雄叫びを上げ、俺に攻撃を仕掛けてくる。
俺も、今度はステラがいないので、最初から全力でいく。
「《ボルテクスバースト》!」
今は俺しか使い手がいない雷属性超級魔法を発動し、魔王軍の七割ほどを雷撃の餌食にして戦闘不能にさせる。
残りの三割ほどは、各個撃破していく。
レオ以外の魔族達を倒した後、彼に話しかける。
「部下はいなくなったぞ。後はお前だけだ。ここで引くというなら追撃はしない」
「部下を失っておめおめと逃げ帰れるか! なんとしてでも勇者を倒す!」
レオはそう言って、俺に急速に接近してくる。
そして両手に装備していたクローで、俺を八つ裂きにしようと斬戟を繰り出す。
俺はそれを両手の剣で防ぎ、翼をはためかせて前進する力を利用してクローを弾き返す。
レオの体勢が崩れたところに追撃を加えようとしたが、それより早くレオがバックステップで俺と距離を取る。
俺は翼を羽ばたかせて急速接近し、右手の魔剣を振り下ろす。
レオはそれをクローを交差させて防ぐ。
がら空きになった胴目掛けて俺は左手の聖剣で突きを繰り出すが、レオは身を捻ってその攻撃をかわす。
その時に、クローで器用に魔剣を掴み、身を捻った勢いを利用して、背負い投げの要領で魔剣を掴んだままの俺ごと投げ飛ばす
俺は咄嗟に魔剣から手を離し、地面にぶつかる前に翼を羽ばたかせて、レオから距離を取りつつ足から着地する。
俺は聖剣を両手で握り、再びレオに接近して聖剣を斬り上げる。
レオは掴んでいた魔剣から手を離し、俺の攻撃を回避する。
聖剣を斬り上げ隙が出来た俺に向かって、レオはクローで左右になぎ払う。
俺は翼を羽ばたかせてレオの頭上に回ってその攻撃を回避し、そのまま彼の背後に着地する。
レオが振り向くより先に、俺は聖剣を彼の背中に突き刺す。
ゴポッ、と口から血が吹き出る音と共に、レオの両腕がダラリと下がる。
「お見事……」
レオの最後の言葉を聞き、俺は聖剣を引き抜く。
支えを失ったレオの身体は、前のめりに地面に倒れ込んだ。
俺は魔剣を回収して、二本ともヘアピンの姿に戻し頭に着ける。
そして翼をはためかせて、ステラの下に向かって飛翔する。
……魔王軍四天王の一人を撃破したという喜びは、湧かなかった―――。
◇◇◇◇◇
西大陸にある、魔王軍の本拠地である魔王城。
そこに一つの報せが舞い込んできて、城内は混乱に陥っていた。
その報せとは、四天王の一人のレオが、南大陸で勇者に敗れたというものだった。
その報せを受けた魔王の側近は、それを直接魔王に報告するために王の間に向かった。
そして魔王と謁見し、先の報せを報告した。
「そうか、レオが敗れたか」
「はい。重傷を負いましたが、命に別状はないそうです。彼の部下も同様の状態だと、医療班から報告がありました」
玉座の手すりに肘を付けながら報告を聞いていた魔王に、側近は頷く。
「それで、勇者の正体は分かっているのか?」
「はい。ですが、その……」
側近は言葉に詰まる。
当たり前だ。つい最近まで魔族の王として活躍していた人物が、今度は自分たちと敵対する立場である勇者として現れたのだから。
「どうした? 報告してみろ」
魔王に続きを促され、側近は決心して報告する。
「はい、では……。その勇者はジーク……先代魔王だそうです」
「……クッ、ククククッ。クハハハハハハッ!!」
側近の報告を受けて、魔王は思わず笑ってしまった。
「クッハハハハハッ……。そうか、先代か! どこかで野垂れ死んだかと思ったら、まさか勇者になっているとはな!」
「…………」
魔王のどこか嬉しそうな表情とは対照的に、側近は沈痛な面持ちだった。
「どうした? お前も少しは喜んだらどうだ? なぁ……『双翼』の片割れさんよぉ?」
魔王にそう言われ、側近―ガルムが顔を上げる。
その顔には先程とは違い、憤怒の表情を浮かべていた。
「……誰が喜べるか。ジークからその座を奪っておいてよく言う」
ガルムは魔王に対して不敬を働いているにもかかわらず、魔王はそれを咎めることなく嗤っていた。
そう、この魔王―ヴァンこそが、ジークから王位を簒奪し、人類軍との八度目となる戦争を引き起こした張本人だった―――。
ラスボス&親友が登場しました。
ガルムが何故ジークと敵対しているかは、いつか明かされます。
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