10 問答
前回のあらすじ
勇者は先代魔王だった
俺は剣をレオに向けつつ、周りの状況を確認する。
ここが魔王軍の陣地だったこともあってか、俺は敵に囲まれていた。
皆それぞれ武器を手にしており、いつでも攻撃を仕掛けられる体勢だった。
聖剣は未だに地面に突き刺さったままだった。アレも後で回収しないと。
俺は腕の中にいるステラを、安全地帯まで逃がすことを最優先事項に設定する。
そんな中、レオが俺に問い質してくる。
「なぜです!? なぜ、ジーク様が人類軍の味方などなさるのです!?」
「誤解のないように言っておく。俺は別に、人類軍の味方になったつもりはない」
「ならばなぜ!?」
「魔王を……ヴァンを倒すためだ。そのために勇者になった」
「……我らが主たる魔王様に牙を向くと仰るか」
「ああ、そうだ。それを阻む者は誰であろうと容赦はしない」
俺は改めてレオに剣を向ける。
レオも、何か覚悟を決めたような顔をする。
「……いいでしょう。それならばこちらも容赦はいたしませぬ。……皆の者!! そこにいる、勇者を討ち取れ!!」
レオの命令を受け、魔族達が一斉に俺に向かってくる。
俺はステラに小声で話す。
「ステラ、しっかり掴まっていろ」
「え……あ、は、はいっ!」
ステラが俺の首に両腕を回し、しっかりと掴まる。
俺もステラを抱いている腕に力を込め、そして翼をはためかせて飛翔する。
俺はステラを安全地帯まで逃がすために、一時離脱を試みる。
魔族達は武器での攻撃から魔法での攻撃に切り替えて、俺に向かって放ってくる。
俺は被弾しないようにしながら、ジグザグに飛行する。
聖剣が刺さっている場所の近くまできたので、俺は一旦魔剣をヘアピンに戻してから聖剣を回収する。
そしてそのまま高速で魔王軍の陣地を離脱した―――。
◇◇◇◇◇
陣地から十分に離れた場所にステラを降ろす。
そこはちょっとした森のようになっていて、森の前には小さな廃屋があった。あの中にいれば、しばらくは安全だろう。
追っ手がやって来ないとは限らないので、急いで陣地に戻らなきゃいけない。
俺は黒いヘアピンをまた魔剣の姿に戻して、右手に魔剣、左手に聖剣を携える。
「俺はまた奴らの陣地に向かう。ステラ、君はあの廃屋の中に隠れていろ」
「はい……」
ステラは力なく返事をする。いや……怯えているのか?
俺はその原因であろう己の翼に目をやり、彼女には聞こえないよう小さく溜め息をつく。
そして俺は魔剣を地面に突き刺して、右手を彼女の頭へと伸ばす。
彼女はビクッと身体を震わせ目を固く瞑るが、俺は安心させるようにポンポンと頭を撫でる。
彼女は恐る恐るといった様子で目を見開き、俺は優しい声音で彼女に語りかける。
「言いたいこと、聞きたいことがあるかもしれないけど……それは魔王軍を撃退してからだ。それまでは大人しく身を隠していてくれ、いいな?」
「……はい。ジークさんもお気をつけて」
ステラは真っ直ぐに俺の目を見て答えた。
俺は彼女の頭から手を離し、地面に突き刺していた魔剣を引き抜く。
そして魔王軍の陣地に向けて再び飛翔した―――。
◇◇◇◇◇
私はジークさんに言われた通り、森の前の廃屋の中に隠れる。
そして先程彼に言われたことを思い出す。
なぜジークさんは同じ魔族である魔王軍と敵対する道を選んだのか、どうして魔王の立場から勇者の立場に変わったのか、聞きたいことはたくさんある。
そう思いながら、私は彼に撫でられた場所に触れる。同時に、胸の鼓動が速くなるのを感じた。
……まさか、アレだけのことで私はジークさんのことを……。いやいや、それはない。さっきまで死を感じる程危険だったから、きっと吊り橋効果よ、吊り橋効果。
私はそう考えて気持ちを落ち着けようとする。
けれど、ジークさんのことを想うと胸が高鳴って、一向に落ち着かなかった。
私はこの胸の高鳴りが恋なのかそうでないのか、ジークさんが戻ってくるまで分からなかった―――。
◇◇◇◇◇
俺は魔王軍の陣地に向かって飛行している途中、奴らの追っ手と遭遇した。その追っ手は三人一組で行動していた。
追っ手達は俺を見つけるや否や、俺を撃ち落とそう魔法を放ってきた。
俺はそれをかわしながら、奴らに接近して両手の剣で追っ手達を斬り刻む。
追っ手達はドサリと地面に倒れ込み、誰一人として起き上がらないことを確認した俺は、陣地に向けて飛翔した―――。
言い訳にはピッタリですね、吊り橋効果。
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