01 勇者
新作です!
楽しんでいただけたら幸いです。
俺―ジークは、王城にある王の間でこの国の王と謁見していた。
俺が今いる国はアトラス魔法王国と呼ばれ、人間族最大の領土を誇り、大昔から存在する大国だ。
その国の国王はハデス王と言い、見る人に好好爺といった印象を与える。
しかし魔王軍と敵対している今、彼は人類軍の総司令官として活躍し、『賢王』という異名を取っている。
俺は跪き、頭を垂れる。
「ただいま帰還致しました、王よ」
「よい、面を上げよ。そなたに頭を下げられるとこちらが困るわい。なあ、勇者よ」
王の言葉に従い、俺は顔を上げる。
彼の言った通り、俺はとある事情で前職を追われ、紆余曲折を経て『勇者』を名乗ることになった。
「して、魔王軍の動きはどうであった?」
「は。奴等は中央大陸を足掛かりにして、東か南大陸に進軍する気配がありました。その為に、今は兵を集めている所です。しばらくは魔王軍の侵攻はないかと」
この世界には五つの大陸があり、北と西の大陸は魔王軍の領土、南と東が人類軍の領土となっている。
中央大陸は取り合いを繰り返し、今は魔王軍の領土となっている。
俺の報告に、王は頷く。
「あい分かった。魔王軍の動きには注意しておこう。ご苦労であった、下がってよいぞ」
「それではこれにて」
俺は一礼してから立ち上がり王の間を後にしようとすると、王が俺の背中に声をかけ引き留める。
「ジークよ。やはり魔王軍と争うのは辛いか?」
第三者が聞けば首を捻るしかない質問だが、俺には特別な意味があった。
俺は振り返り、普段通りの口調で答える。
「……とうの昔に覚悟は決めたんだ。辛くはない」
俺はそれだけ言うと、王の間から出ていった―――。
◇◇◇◇◇
俺が城内を歩いていると、この城に常駐している兵士達と出くわした。
相手に敬礼をされたので、俺も軽く会釈をして返しそのまま歩みを進める。
ベテランと新人のペアらしく、俺とすれ違った後に新人がベテランの兵士に質問していた。
「先輩、さっきの黒髪の青年っていったい誰なんですか?」
「バッ、お前!? さっきの方は勇者様だぞ!」
「えっ!? そうだったんですか!? あの方が『魔勇者』とか呼ばれている、あの!?」
『魔勇者』というのは俺の異名で、剣の腕だけでなく魔法の腕も一流なのでそう呼ばれるようになった。
それが表向きの理由。
本当の理由は、俺とハデス王、それとおそらく俺の両親しか知らない。
兵士達から距離が離れたので、それ以降彼らがどんな会話をしたのかは知らない。
俺もさして興味がないので、そのまま王城から出た―――。
◇◇◇◇◇
この世界では人類軍と魔王軍が敵対している。
人類軍は人間族と、亜人のエルフ族、ドワーフ族から構成されていて、世界平和という目標の為に戦っている。
それに対して魔王軍は魔族である竜人族、吸血族、獣人族と、人類軍の裏切者である魔人族、ダークエルフ族、ネガドワーフ族の六種族で構成されている。その目的は、世界征服だ。
魔族の妖族や一部の人々は、どちらの陣営にもつかずに中立を保っている。
世界が二分化されたのは、約二千年前に起きた第一次人魔大戦が原因だと言われている。
その戦争が何故発生したのかは多くの人は知るよしもないが、それを契機にして人類軍と魔王軍に分かれたのは明らかだった。
それからも、人類軍と魔王軍は度々対立し、今世界では八度目の大戦が勃発していた。
それとは別に魔物も存在しており、人類軍と魔王軍の双方から敵性体として認知されている。
その魔物を討伐する為に、人類軍には冒険者というジョブが存在する。
彼らは冒険者ギルドに登録後、冒険者として魔物を討伐し、その討伐報酬を得て生計を立てていた。
かくいう俺も、冒険者登録をしている。
これは昔親友と共に登録して、前職に就いた時に登録解除をしないままほったらかしにしていた。
勇者になった今でも期限は切れておらず、そのまま使っている―――。
◇◇◇◇◇
俺は王城から出た後、王城前の広場にある時計に目をやり、時刻を確認する。
まだ午前中だったので冒険者ギルドに向かい、手頃なクエストを受ける。
勇者と言っても今の俺は冒険者なので、他の冒険者と同じく討伐報酬で生計を立てていた。
勇者として資金の援助をしてもらえると思うかもしれないが、そんな事はない。
俺個人に金を使う位なら国の為に使ってくれと、俺自身が各国の国家元首にお願いしたからだ。
だから俺は勇者としてでなく、冒険者として生計を立てていた―――。
◇◇◇◇◇
目的地まで乗り物を使わずに、徒歩で向かった。
乗り物を使えば目的地まで早く着くが、今は歩きたい気分だった。
俺は目的地に向かいながら、先程のハデス王の言葉を思い出す。
彼に言った言葉に嘘はない。
俺は勇者になると決めた時に、魔王軍と争う覚悟を決心していた。
だがそれは、人類軍の為ではない。俺個人の願いを叶える為だ。
勇者として魔王を倒す事に変わりはないが、それは手段であって目的ではない。
俺の目的はただ一つ―――。
現魔王を倒し、俺が新たな魔王になる事だ―――。
魔王を目指す勇者というのは、なかなか珍しい気がします。
そんな主人公のジークですが、彼に野心はありません。
ちゃんとした理由があってその目的を立てたのです。
その理由は後程本編にて。
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