表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/92

欲望

2019.4

 小さな村の小さな家、自然に囲まれ晴耕雨読の日々を送っている家族がいた。


 季節の野菜に新鮮な魚や肉、そして果物。それらを荷車に載せ村の中央へと運び出す…………



「22-6528。お願い致します……」


 白いローブに身を包み、神聖さを纏いし司祭が荷車の検品に当たる。その間に父は無言で祈りを捧げ続けている。

 司祭の後ろには多くの荷車が置かれており、同じく白装束に身を包んだ人達がより大きな荷車に食べ物を積み替えている。


「神より授かりし命の実だ。大切に扱うように……」

 父は献上した食べ物の代わりに、『命の実』と呼ばれる白い固形の食物を貰い、袋へと入れた。父の顔は無表情で、何を考えているのか全く読めない。そんな父を見て、自分は――――



 帰り道、これから中央へ向かう荷車とすれ違った。


  コロ……


 小さなパンが自分の目の前へと転げ落ちた。慌てて拾い、汚れを払って荷車へと戻す。


「何をしている、早く帰るぞ」

「ごめん、いま行く」

 手に残ったパンの匂い。正直その時は何も思わなかった。



 夕方になり、父は今日頂いた命の実を家族に1つずつ手渡した。

 家族の食事は一日にこれ1つ。それで十分な栄養が賄えた。

 眼を閉じ、祈りを捧げながら食べ始める家族に続き自分も眼を閉じた――――


 ―――コロッ


 !!


 命の実を手から落とし、慌てて手を伸ばすが、その手は空を切るのみ。命の実はタンスの隙間に消えてしまった……。


「どうした?お祈りは済んだか?」

 父の声に、動揺を隠せない自分。どうやら実を落としたのは見られていないようだ。


「あ、ああ……」

 ……自分は咄嗟に嘘をついた。恐らくは初めてだろう……

「今日はもう寝るよ、おやすみ」

 そそくさと逃げる様に自分の部屋へと戻る。何も無い部屋にベッドが1つ。素早くベッドへ潜ると眼を閉じて朝を待った……。





 朝起きると、何だか具合が良くない。


 眠り足りない気分と、お腹が変な感じと、何か変な感じで、言葉に表せない不快感だ…………。


 家族への挨拶もそこそこに気分転換に外へ出ようと決めた。


「今日は礼拝車が来るからお昼までには帰りなさいね」

 母が自分の背中に声を掛ける。

「はい」

 とりあえず複雑な顔で返事をしたが、自分でもどんな顔をしているのか分からない。



 野菜を収穫する者、魚を釣る者。道を歩くと様々な人を見掛けるが、どれも献上用だ。ある家からは、パンの匂いがする。


<旨そうだな……>


 ??

 今誰かの声がしたような気が……?


 今朝から続く眠気に耐えきれず、どこかの影で少し俯いていると、いつの間にか寝てしまっていた……。


「……はっ! いけない。寝てしまった!」

(こんな所父親に見付かったら殴られるだろうな……)


 慌てて時間を確認するとお昼前だ。急げば家まで間に合う。

 と、進む足取りを遮るように焼きたてのパンが目の前を通り過ぎる。

 荷車に乗せられたパンはどれも色鮮やかで思わず唾を飲み込んでしまった……。


<喰いてぇなぁ!>


 また誰かの声がした。……と、自分の横から真っ黒い猫が素早く現れると、荷車からパンを1つ咥え、自分の肩へと飛び乗った!


「あっ!泥棒!!」

 荷車を引いていたオヤジがこちらを指さして大声を上げる。


「えっ!?」

 肩に居た筈の猫はもう何処にもおらず、猫が咥えていたパンは何故か自分の手に握られている。どう考えても自分が盗ったと思われるに違いない!!


 気が付いたら一心不乱に走っている自分が居た。


 もう言い逃れも言い訳も弁明の余地も残されていない。

 自分は後ろから追いかけてくるオヤジを振り払うかの様に入り組んだ林の中を駆け抜けた。


「いたぞ!!」

 白いローブを纏いし男達が数人がかりで周りを包囲しだした。


「何で!?」

 もう走る気力も残っていない自分は、石に躓くとそのまま起き上がること適わず男達に取り押さえられてしまった!


「イレギャラー確保!」

 男達は暴れる自分を抑えつけ、縄で縛ると肩に担いで歩き出す。

(ああもう!!一体何なんだ!?)


 男達が辿り着いた先はタンクが着いた荷車だった。

 白い清楚の塊の様なタンクからは、太いホースが出ている。


「吸い出すぞ!そこに置け!」

 男達は乱雑に自分を放り投げると、ホースを此方へと向けた。


「!?」

 手を縛られてはいるが、慌てて何とか立ち上がる。

<死にたくない!!>

 幻聴の間に手の縄が解けるのが分かった。

 再び現れた黒猫は、ローブの男達へと向かっていく!


()が出たぞ!!」

 男の1人がホースを構え、もう1人がタンクに繋がっているレバーを引こうとした。


「うおぉぉぉぉ!!!!」

 こんな大声を出したのは生まれて初めてだ。

 訳も分からず飛び出すと、男が引こうとしたレバーを押さえ、逆に目一杯押し込んだ!!


 ――ガチッ!――――ブシャァァァァァァ!!!!


「うおぉ!?」

 ホースから漆黒の粘度の高い液体が突如吹き出し、自分の体にぶちまけられた!


「逃げろ!!汚染されるぞ!!」

 ローブの男達は全員逃げ惑い、そこには漆黒の液体で身動きが取れなくなった自分だけが残された……………………

欲望の黒い影が動物や妖怪を形取り戦う話を各予定でしたが……なーんかイマイチだったのでボツ作品となりました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ