草と共に眠る
2019.9
企画用作品だったが、上手く纏まらずボツ。
笠を深くし口元が僅かに覗くだけの侍が一人足早に農道を歩いていた。
―――ドン
「失礼……」
前が見えていないのか、時折通行人とぶつかるが狼狽えること無く兎に角その姿勢を貫いた。
「いらっしゃいまし! 早いお着きで―――」
―――ジャラジャラ!
素泊まり宿へと辿り着いた侍は懐から財布を取り出すと乱暴に小銭を手渡した。
「一泊だけ厄介になる」
銭を受け取った小僧は笑顔で部屋に案内すると、そそくさと持ち場へと戻った。
そして薄い煎餅布団に入ると、落ち着き無く辺りを気にし眠りに入るのだった。
―――ガラッ!
「改めだ!!」
『手の綺麗な怪しい侍が居る』と聞いた宿主人はこっそり火付盗賊改めに密告。どうやら手配中の人物で間違いないとのこと。
しかし改めが侍の泊まった部屋へと押し入ると既にもぬけの殻となっており、部屋を探すが何も出て来なかった……。
その頃侍は月夜だけが照らす獣道を突き進んでいた。妙な胸騒ぎで目が覚め宿を抜け出したのだ。
笠を外し、月の光に照らされたその顔は美しい女の顔だった。
「今日も野宿か……」
茶碗で川の水を汲み、日本刀で木の実や果実を割り食べる侍。久しく肉や米は食べていない。
彼女は歩き続ける。江戸を離れ自らを知らぬ土地へ……そして追っ手の掛からぬ遠い世界へと…………




