黒い森に暮らす少女は笑う
久しぶりの投稿ですなぁ。
4話か5話で完結する予定の話ですので、お気楽にお読みくださいな。
臆病でありながら強欲で傲慢、そして誰よりも怠惰な国王が統治する王国の西には黒い木々からなる樹海が広がっていた。その樹海は方位磁針が使えず、一度足を踏み入れれば、全ての者を迷わせる。王国の人々はその樹海を「暗黒樹海」と恐れた。
しかし、暗黒樹海が恐れられるのは単に迷うというだけではない。人々が最も恐れる理由、それは暗黒樹海に巣食う魔物達の圧倒的強大さにある。どんな強者ですら、迷うことで身体的にも精神的にも疲弊しているところを襲われれば抵抗のしようがないのである。よって、暗黒樹海に踏み入れた者の生還率は極めて低い。が、重要なのは生還者がいることである。それもたった1人。
その生還者は語った。
「暗黒樹海の最果てには純白の美女がいる。私は彼女に助けられた」
王国の人々はその話を真実とは思わなかったが、夢物語として国中に広められた。
ーー・ーーー・ーー・ーーー
「姫様、そんなところにおられたのですか」
黒い葉を散らす樹海にある小さな泉、その水際に立っていた少女は背にかけられた声に驚くことなく、悠然と振り向いて柔和な笑顔を見せる。その時、着ていた白いワンピースだけが彼女の気持ちを表すように風に靡いた。
「これは将軍、私を探しに?」
少女の笑顔は10歳という年齢にあまりに似合わない大人びた雰囲気が備わっていた。
「当然です。貴方は我らが魔王様の愛娘なのですから」
少女の視線の先に立っていたのは屈強な魔物だった。その魔物が片膝をつき、頭を下げると、少女はそれでも自分より高い位置にある魔物の頭を見上げた。
「お父様もどうして有能な将軍である貴方を私の子守などにしてしまったのでしょう」
少女は魔物に近づき、腕をピンと伸ばして魔物の頬に触れる。すると魔物は無理をさせまいと頭をさらに下げ、少女と目線を合わせる。
「貴方が望むのであれば、私がお父様に文を出しましょう。昨今、争いが絶えぬと聞きましたし、貴方も己が武勇を誇りたいのではないですか?」
少女の父親は魔物の王として王国と敵対していた。少女はその王から将軍の地位を授けられた目の前の魔物の待遇を憂いていた。
しかし、その魔物…将軍は少女を一口で食せるほどの大きな口でニヤリと笑う。
「姫様にそこまで心配されるとは私も配下一の幸せ者ですな。しかし姫様。私が護衛では不満ですか?」
少女は手を引き、年相応に驚いた表情を見せる。
「そんなことありません!むしろ私は将軍に感謝しているのです。感謝しているからこそ、子守に縛られた将軍に恩返しをしたいのです」
一方の将軍は溜息をつくと、その場で腰を下ろし胡座をかいた。そして両の手を両膝に乗せて、真剣な顔で少女を見返す。
「私は姫様を好いております。だから私は貴女にお仕えしたいのです。だからどうか私の心配などせず、私を頼ってください。私は姫様の我慢なされる姿を見たくはありません」
将軍の脳裏に浮かんだのは愛娘を自分に託した魔王の優しい顔だった。
「将軍……やはり貴方は変な方ですね」
少女は無邪気に笑う。
「は…?」
一方の将軍は呆気に取られていた。
「ふふふ…さ、屋敷に戻りましょう。お母様が待っているのでしょう?」
少女は軽い足取りで将軍の横を通り過ぎて泉を後にした。
「え、あ…はい。いえしかしあの…今のはどういう…」
将軍も慌てて立ち上がって振り返る。
「将軍」
そこには少女が将軍の方を向いて待っていた。そして少女は立てた右手の人差し指を口につけ、将軍に片目を閉じて笑う。
「内緒です」
「なっ…………」
「行きますよ」
将軍は離れ行く少女の背中をしばらく見つめた後、大きな左手で自分の目を覆い隠す。
「敵わんな…あの笑顔には。きっと姫様はこれからもっと美しくなられる。是非とも魔王様に見せたいものですな」
将軍は無意識に瞼の裏に少女の笑顔を貼り付けると、頰が緩んで情けない笑顔をしてしまう。
しかしそんな平和を許さない者がいた。
「将軍!」
緩んだ将軍の元に駆け込んできたのは将軍の部下だった。将軍は恥じらいや焦りを表に出すことなく、瞬時に部下を鋭い目で見下ろす。
「何事か」
将軍の部下は真っ青な顔をして将軍の前に崩れる。
「魔王様が勇者に敗北いたしました…!」
魔物の平和を決して許さない者がいた。その者は勇者を名乗る人間の青年だった。
魔物の王ってめちゃくちゃ強いけど、RPGとかで出てくる人間の王って戦うイメージがあまりない(たまに豪傑な王はいるけどね)。
だったらいっそ、めちゃくちゃ私利私欲に走るクズな魔王と人間の王がそれぞれ勇者を選出した方が公平な気がするよね。精鋭同士の一騎討ち…的な?つまらない話か。