異世界で足場屋始めました
「恐怖を忘れたやつが、足場から落ちるんだぞ」
俺がまだ見習いだった頃、親方が言ってくれた言葉だった。
思い出した時には遅く、足場から落ちた後だったが。
俺は、足場の解体作業中に転落事故を起こした。
____
「ここは?」
気が付けば、真っ暗で何もない空間で座り込んでいた。
「ここがあの世ってやつかな」
不思議と恐怖はなかった。
そのまま横になる、このまま待っていれば死神なり閻魔様なりがお迎えにくるんじゃないか。
目を閉じると、死の瞬間がフラッシュバックする。
落ちた瞬間が、スローモーションのように。
近付く地面、親方の声。
「わわ、寝ちゃダメです。」
可愛らしい声に現実に引き戻されうっすらと目を開けると、全身真っ白でワンピースを着た少女が、困り顔で覗きこんでいた。
「お迎えか?お嬢さんが死神か閻魔様かい?」
俺の言葉を聞いた少女は、ムッとして頬を膨らませながらいった。
「死神や閻魔様なんて、いないのです。私は貴方の世界でいう所の神様なのです」
神様ときたもんだ。
とにもかくにも俺の今後について聞いてみることにした。
「俺はどうなるんだ?」
「貴方は貴方のいた世界では既に死んでいるのです。ここは死後に魂が自分の行き先を決められる世界。私がそれを決める神様なのです。偉いんです!」
えっへんと胸を張る少女、聞けば聞くほど現実味を失う。
「それなら質問を変える、俺は今後どうなるんだ?天国にでもいけるのか?」
「天国なんてないのです、人として生まれたのであれば’例外’を覗いて子供から生まれ変わりをしなければダメなのです」
「例外?」
少女は頷くと。
「転生です、貴方が元いた世界には帰ることは出来ませんが現在の貴方のまま 別の世界に移されるのです」
生まれ変わりを望むか、転生を望むか。
人生の続きを環境を変えてするか、一度リセットするか。
意外と重要な選択かもしれない。
「転生を望んだ場合、急激な環境の変化への救済として’神の恩恵’を1つ与えることができるのです。」
「恩恵?なんだ恵まれた幸運でも貰えるのか?」
「もっと具体的なのです。例えば魔法についての才能や剣に対する才能。商売の才能。物理的なものならすべてを切り裂く名剣とかその世界で生きる上で貴方の力になる恩恵なのです」
剣に魔法?そんなファンタジーな所へ転生するのか?
それなら成る程、恩恵とやらも頷ける。
「そいつは凄いな、それを受け取ってどうすんだ?魔王でも倒すのか?」
「魔王なんていないのです、一定数魔物のような存在はいるみたいですが。それを先導するような立場の者は今まで居たことはないのです。」
成る程、大体理解が追い付いた。
暫く考えた結果俺が出した結論は
「転生させてくれ」
転生だった、理由は一つ。
「恩恵は何を望むのです?」
「俺の望みは1つだ、それは____」