第八十五話
「で、俺は話したけどどうするんだ? ミュアン」
ジッとトンマーゾはミュアンを見つめるもフッと顔を上げた。そして遠くを見つめる。
「レオ殿!」
皆その声に振り返った。ルーファス達がこちらに向かって来ていた。
「何故、ここに……」
「っち。ミュアン、兎に角封印は解くな! 行くぞクレ!」
「お待ちなさい!」
その場から去ろうとするトンマーゾの腕をガシッとレオナールは掴む。
「あなたは証人です! 一緒に来てもらいます!」
「悪いが大人しく捕まるつもりはない。手を離さないと魔術で吹っ飛ばすぞ」
「彼を殺した件なら、私がちゃんと説明します。ですから……」
「組織の頭をやったんだ。組織の連中がだまっちゃいないさ。魔術の世界の復活を邪魔されたんだからな。連中からすれば個人的な恨みで殺されて、志半ばにして俺に裏切られた形だ。まあそれで俺が死ぬのはいいさ。だがこのままだとクレも狙われるんでな」
「それはわかりますがこのまま逃げれば、我々と組織の連中に追われる事になりますが?」
「ではこうしませんか?」
そう言ってミュアンは立ち上がった。彼女はレオナールの方ではなく、こちらに向かって来る者達の方を見ていた。
「四カ国協定をまた結ぶのです」
レオナール達は、ミュアンからこちらに向かって来る――ルーファス、ランフレッドそしてピルッガに目をやった。
「まさか四カ国とは、ハルフォードとエクランド国、ヴィルターヌ帝国そしてサラスチニ国でという事でしょうか?」
レオナールの問いにミュアンは頷いた。
「彼らにとっても避けたい事だと思いますよ。私達の国が昔に行った事は」
「そうでしょうか? 大昔の事です。今は薬師が一般的です。魔術師ではなかったと嘆く者は少ないかと……」
「そうじゃないわ。あれを巡って戦争が起きるかもって話をしているのよ」
ミュアンは足場が組まれた石――封印の場所を指差した。
「まずは彼らに意見を聞きましょうか」
「……わかりました。トンマーゾ、あなたも宜しいですね?」
「ホント、王族ってどうしてそうなのかしら……」
クレがやれやれちため息をつく。
「わかったから手を離せや」
レオナールはトンマーゾの手を離した。彼らは逃げる様子はない。
「レオ殿!」
息を切らしながら砂場を走り、ルーファス達はミュアン達の場所にたどり着く。
「ランフレッド。あなたはどうしてルーファスをこんな所に連れてくるのですか」
「俺だって止めました! でもピルッガ皇太子も行くと言い出し止められませんでした!」
レオナールに咎められたランフレッドは、そう返した。
「もしかしてオズマンドがそちらに伺いましたか?」
ミュアンが聞くと三人は頷いた。
「ブラッドリーが来てレオ殿をお助け下さいと」
「って言うか三人共、それぞれ助けて欲しいって懇願してきました。……あの、ティモシーは大丈夫なんですか?」
ランフレッドは横になっているティモシーに気づき聞く。
どうやらオズマンド達は、魔術師の国であるヴィルターヌ帝国に助けを求めたようだった。そこにまだルーファス達もいて、一緒に来たのだった。
「もう大丈夫です。彼のお蔭でね」
そう言ってミュアンは、トンマーゾに振り向いた。
「レオ殿で……」
「私ではなく、トンマーゾです」
「え?」
「取りあえず順を追ってお話します」
「ここでか?」
ピルッガがそう聞くと、ミュアンが頷く。
「あなたがたの未来と私達の身の安全の為に今すぐ決めた方が宜しいと思いますよ」
「我々の未来だと?」
ピルッガの言葉にミュアンは頷く。ピルッガは横になっているティモシーをチラッと見た。
「俺は構わないが、彼女はいいのか?」
「……息子ですか? 命に別状がないので構いません」
「む、息子!?」
この場にいるピルッガだけが、ティモシーが男だと知らないかったので驚く。
「私も構わない」
ルーファスも異存はないと言うと、ミュアンは頷き話始めた――。
ミュアンは文献に書かれていた『魔力を練れなくする魔力』をめぐる話を聞かせ、サラスチニ国とラミアズア国の争い、それによってコーデリアがハルフォード国に逃げた事、魔術師の組織が結成された事、そしてミュアンがしようとしていた事などを三人に話して聞かせた。
「なるほど。それで父上を捕らえ文献をよこせと言ってきたわけか」
ピルッガそう言うと、チラッとトンマーゾとクレを見た。
「で、本当にその二人の言っている事は信用できるのか?」
「おそらく。情けない話ですが、私は二度も彼らに助けられています」
レオナールがそう言うと、うむっとピルッガは頷く。
「一つコーデリア殿にお聞きしたいのだが、ヒースはあなたに命令されてティモシーを襲ったような事言っておりましたが?」
ハミッシュを助けた時に、ヒースがティモシーを殺そうとした事を言っていた。
「申し訳ありません。彼は本当の事を知りません。失敗した時に戻ってこないように、彼にはハミッシュが戻れば殺されると言っておきました。真実味を持たせる為に、マジックアイテムを持たせたのです。彼女なら防げるだろうと……。申し訳ありません」
コーデリアは、深々とルーファスに頭を下げた。彼女はハミッシュが国に戻れば殺される言っておき保険を掛けていたのだ。
「彼女が言っている事は本当だと思います。私も謝ります。ご迷惑を掛け申し訳ありません。コーデリアさんをどうか許して頂けないでしょうか?」
レオナールも慌てて弁解し頭を下げた。
「いや襲われたのは、ティモシーだからな。謝るなら彼に……」
「え? 俺? あ、いや別に謝らなくても……。別に怒ってもいないし恨んでもいません」
「ありがとう。ティモシー」
「悪の根源はサラスチニ国って事か?」
ミュアンはピルッガの言葉に頷く。
「ですが先ほども話した通り、国王も組織の頭のサンチナドも亡くなりました。今回の騒動を起こした者は既にいないのです。そこでどうでしょう? 勝利者が歴史を作って見るというのは」
「歴史を作るとは?」
「このまま全て本当の事を公開すれば、あなたの国もハルフォード国も昔の責任を取らされる事は免れないと思われます。それが魔術師の組織を作り上げたと言えなくもないからです。そしてこの封印の岩が露見します。これが一番の問題でしょう」
「なるほど。話をする上でこの場所は避けて通れないって事か」
「えぇ、そうです。この岩があの黒い石だと知れれば取り合いになるのは目に見えています。何せ魔法陣を描けば魔術を使えない者でも魔術を扱えるようになるのですから。そこで提案があるのですが?」
「提案? 一応聞こうか?」
「よかったわ」
ミュアンはニッコリ微笑んだ。ピルッガとミュアンで話は進んでいたが、誰の反対もないようなので彼女の提案を聞く事になった――。
ミュアンの提案は、驚くストーリーだった。
――十八年前魔術師の復活を企むサラスチニ国は、それに気付いた隣国ラミアズア国を滅びし翌年、その謀略を決行する為に魔術師の組織を結成する。組織は各国に刺客を送り込む。そして薬師の国エクランド国を貶めようと計画を立て着々と準備進めていた。
サラスチニ国の第二王女のステラミリスは、サラスチニ国で唯一その企みに反対する人物だった。そしてその彼女の婚約者トンマーゾもその企みを知り、阻止する機会を伺っていた。
トンマーゾは疑われないように組織に協力をするフリをして、エクランド国に潜伏していたが、ステラミリスは策略により命を落とす。そんな時、十八年前に亡命したミュアンと出会う。彼女はステラミリスとは知り合いだった。話を聞いて協力する事になる。
組織はこっそりと魔術師を集め準備を進めていた。それを阻止する為、ハルフォード国に協力を仰ぐ。サラスチニ国が魔術師の国で、世界征服を企んでいるかもしれないと知ったレオナールは自ら魔術師だと名乗り、更にサラスチニ国の謀略を阻止する為、魔術師を集め保護する事にした。
ただ確証がないので真の目的は言えずにいたが、エクランド国から魔術師の組織を調べる為の依頼を受け調査に乗り出す。そして確証を得た時、エクランド国とハルフォード国の戦争の噂が流れる。組織が流したとわかった。
魔術師の組織、いやサラスチニ国が動き出したと悟ったレオナールは、トンマーゾを使い組織の頭、サンチナドを誘い出す事に成功し方を付けたのだった――。




