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魔術師なのはヒミツで薬師になりました  作者: すみ 小桜
第十三章 嘘に紛れた思惑

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第七十一話

 レオナールは、自分の考えを語り始めた――。



 ミュアンは、何かを隠す為に嘘をついた。その嘘が偶然事実になってしまった。それはレオナールが、ミュアンの事を調べて欲しいと国のある人物に頼んだからだった。

 その者は、ミュアンが亡命した王女だと気が付いた。そしてそれを利用しようと企む。ハミッシュを刺客として送り、レオナールを殺す理由を作り上げる。もしあの時、体調を崩さず国に戻っていたならば、作戦は成功し殺されていただろうとレオナールは語る。

 信じたくはないが、そう考えればつじつまがあう。

 その者は、レオナールのよき理解者だった。いや、そう思わされていた。ヴィルターヌ帝国を出る前にレオナールは、何故ブラッドリーが王宮専属薬師になったか聞いた。その答えを聞いて確信したのだ。

 ブラッドリーは、コーデリアに勧められてなっていた。レオナールの病気の改善の為、医者になる事を勧められ王宮専属薬師になるのが手っ取り早いと、言われるまま従ったのだ。彼もまた彼女を信じ切っていた。

 コーデリアは、薬草作りにも手を貸してくれていた。その時、ヴィルターヌ帝国に使った結界と同じ方法でトライアングルを使った。レオナール、ブラッドリーそしてコーデリアの三人でそれぞれ魔法陣を描き、コーデリアがトライアングルを行った。レオナールは、その存在を知り彼女に頼み込んで教えて貰ったのである。

 そしてそれをきっかけにグッと、仲良くなった。何でも相談し彼女に頼るようになっていく。薬師になる時も力添えしてもらっていた。

 そしてレオナールも彼女に、ブラッドリーと一緒に王宮専属薬師になるように勧められる。レオナールは、これにはかなり悩んだ。それはギデオンが絶対に反対するとわかっていたからである。

 まずは受けてみて受かったらお伺いを立てたらという、彼女の助言でレオナールは試験を受ける。

 ギデオンは、王宮専属の話を聞いた時かなり激怒した。今考えればレオナールの為にと薬師にしたブラッドリーは、自国を捨てエクランド国に行ってしまい、そのレオナール自身もそうすると言い出したのだ。ギデオンにすれば、本人達にはそのつもりは全くなくともエクランド国に奪われた様に感じたのだろう。

 その時は、グスターファスが上手くまとめてくれた。一年間だけ通常通り王宮務めをする事で話はまとまったのである。

 だが一年後戻ってみると、自分の居場所がなくなっていた。許してくれたはずのギデオンは、自分には笑顔を見せなくなっていた。

 どうしたらと悩みつつ過ごしていた。その悩みも彼女に話していたのである。その相談をしている中で、魔術師を集めるなどの話も上がっていた。そして、レオナールは彼女の策略にはまってしまったのである。

 彼女は知っていた。魔術師を集めればギデオンの逆鱗に触れる事を――。

 そして、レオナールは自分がある事に利用された事も気が付いた。彼女は、魔術師を集める事を口実に、国の武装の強化を図った。彼女の目的は魔術師を集める事ではなく、魔術師を簡単に入り込めなくする事だった。

 コーデリアは、ミュアンと同じトライアングルを知っていた。自国の誰も知らない。そしてヴィルターヌ帝国の者も知らなかった。

 そうなれば、ミュアンの国に伝わる魔術。つまり彼女もミュアンと同じ国の出身。コーデリアが、ハルフォード国に来たのは十八年前。ミュアンの国が滅亡した年である。

 コーデリアは、いつの間にか国の実権を握っていた。

 レオナールは、彼女を慕い信頼をしていたので別に構わなった。ハミッシュが国を継ぐ事も異論はなかった。

 だが彼女は違ったようだった。レオナールにいつかこうやってバレる事が訪れると危惧していたからだと思われる。

 そして、コーデリアにチャンスが訪れた。ミュアンも彼女にとっては邪魔な存在だったに違いない。もしかしたら彼女を知っているかも知れないからだ。いっぺんに邪魔な者を排除できる。

 ハミッシュも殺す気だと聞いていた為、噂が流れるまではコーデリアの存在は浮上しなかった。だが、ここまで出来る人物は彼女を除いて他にはいない。ギデオンが戻ってこいと言っていると手紙をよこしたのは彼女だった――。




 語りの最後は声が震えていた。

 レオナールがまた倒れるのではと思う程、顔色も悪くなっていた。

 「情けないですが、彼女が裏で糸を引いたと確信したはずなのに、どこかで否定している自分がいるのです。彼女が私を殺そうとするはずがないと……。自分の父親になら仕方がないと思ったのに……」

 そう聞かされてもティモシーには、何も声を掛ける事が出来なかった。そしてどうして、ここまで詳しく話してくれたのかもわからなかった。

 「あの、えーと。何故そんなに詳しくというか……話してくれたんですか? 俺に話しても何も出来ないのに。話すなら陛下とか……」

 レオナールは弱弱しく首を横に振る。

 「別にどうこうしようと考えて話した訳ではありません。ただ、私が死んだとして事実を知っている者がいてほしかったのです。私の我が儘です」

 「え? もしかして死ぬ気なんですか?」

 レオナールは泣きそうな顔でほほ笑んだ。

 「いえ。私では彼女には勝てないのです。魔術は彼女には到底及ばす、切り札になるモノもない。彼女が魔術師の組織と繋がっていない事を願うばかりです」

 ティモシーは驚いた。レオナールは、既に諦めている様子だからだ。今までは、色々と考えを巡らせ、自分では到底思いつかない事を読み取っていた。そして最善だと思う策を立てていた。

 それだけ相手は凄い人物なのかも知れない。いや、彼の心を折ったのだ。きっと何も思いつかず、そして考えたくもない。そういう状況なのだろう。

 コーデリアの事は、もしかしたらミュアンに聞けば少しわかるかも知れない。やはりミュアンを探さなければとティモシーは思う。

 レオナールは立ち上がった。

 「私は与えられた部屋に戻ります。一つだけお願いがあります」

 「何ですか?」

 「ブラッドリーの事をお願いします。もしかしたら私達はもう魔術師には戻れないかもしれません……」

 驚いていると、軽く頭を下げレオナールは出て行った。

 最後に言われた意味がティモシーにはわからなかった。

 「一体、どういう意味?」

 ティモシーはポツリと呟く。

 『なんか様子が変だと思ったらそういう事。ミュアンさんの国の人ねぇ……』

 そしてもう一人呟く人物がいた。精神体になってレオナールの話をこっそり聞いていたエイブだ。

 前にトンマーゾにお願いした、音も聞こえる様にという願いを聞き入れられ、二人の会話を聞いていたのである。

 彼もスッと部屋から出て行った。

 (母さんに会う方法を考えないと……)

 ミュアンに連絡をとる方法が全く思いつかない。それどころか森から抜けないといけない事を思い出す。

 「う~ん。エイブさんに頼んだら外に連れ出してもらえるかな?」

 都合のいい考えを巡らせるティモシーだった。

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