第七十話
レオナールが近くにいると言って、トンマーゾとクレが出て行って数時間。ティモシーはベットの上で膝を抱え待っている。
ティモシーは、ため息を漏らす。
その原因は目の前にいる二人にもある。
「これ美味しいね」
「でしょう。私のお薦めのクッキーよ」
ベットの横に椅子を並べて二人で食べている。
いつの間にこんなに仲良くなったのだろうかと、ティモシーはエイブとザイダの二人を見つめる。いやもしかして最初から仲が良かったのかもしれない。
(まあ、どっちでもいいけど。ここでいちゃつかなくても……)
何故二人はここにいるのだろうかと、ジッと見つめていると、エイブがクッキーを持って手を伸ばしてきた。
「はい。あーん」
「え?!」
「欲しいんでしょ?」
「別に……食べるにしても自分で食べれるし!」
赤くなりながらティモシーはエイブに言う。
「それ私に頂戴」
と、ザイダは口を開けてエイブに催促する。
「じゃ、はい」
ポイッと、ザイダの口にクッキーを放り込む。そしてティモシーの手の上に新しいクッキーを乗せる。
「おいしいよ」
「……ありがとう」
ティモシーもクッキーを口にする。サクサクしてほんのり甘い。確かにおいしいクッキーだった。
「おいしい!」
「でしょう? もう一つ食べる?」
ザイダの言葉に素直に頷き、ティモシーはまたクッキーを口に運んだ。
「おーい。奥の部屋のドア開けておけ!」
一階から声が掛かる。
(帰って来た!)
トンマーゾ達が帰って来たと喜ぶティモシーだがエイブは違った。
「はあ……。帰ってきちゃったよ」
言われた通りティモシーの隣の部屋のドアを開ける。エイブの部屋の並びの一番奥だ。
トンマーゾは疲れ切った顔で階段を上って来た。肩にはブラッドリーが担がれている。その後ろにレオナール、クレと続いて上がって来た。
「え?! ブラッドリーさん?」
「その人とやり合ったの?」
対戦して負かして連れて来たのかと驚いてエイブは問うが、違うとクレが首を横に振った。
「襲われていたのよ。この国も物騒になったわね~」
「ごめんなさい……」
それを聞いたティモシーは、レオナールを向いて言った。襲ったのはハルフォード国。そう思い咄嗟に出た言葉だった。
「何故、あなたが謝るのです。何も悪くはないでしょう?」
「でも……。母さんのせいで……」
「違いますよ。彼女のせいではありません」
そう返したレオナールの顔は、とても悲しげだった。
「おい、誰か手伝え」
トンマーゾは、ブラッドリーをベットに寝かせると振り向きそう言った。
「傷を縫うんでしょ? 私は出来ないわよ」
「俺も実践ないけど……」
クレとエイブが返すと、トンマーゾはティモシーとザイダを見る。二人も首を横に振った。
ティモシーは、ミュアンが行っているのを見てはいるが、自分でやった事などない。
「っち。使えない薬師達だな」
「医者ではないのですから仕方がないでしょう。私が補佐に入ります。所であなたは医者の資格をお持ちなのですか?」
持っていたとは驚きだとレオナールは言うもトンマーゾはにやっとする。
「持ってねぇよ。俺が薬師になったのは、技術を盗む為だからな。そういう、おたくだって資格は持ってないだろう?」
「まあまだ資格は取得しておりませんが、出来ると思います」
「え? でも、持ってないのに医療行為は……」
驚いてティモシーは二人に言うもレオナールは何も返さない。いや、返せない。確かに二人には資格はない。だが、出来るのだ。それにそれを持ち出すと、ブラッドリーをこのままにしておかなくてはいけなくなる。病院には連れて行ってはくれないだろう。
「ティモシー。これからはそういう時代じゃなくなる」
そうトンマーゾは返した。
「じゃまだから、お前らは出て行け」
そしてトンマーゾに言われ、レオナール以外は部屋から出された。
ティモシーはトボトボと部屋に戻るとベットにごろんと横になる。
本当は自分でも出来たかもしれない。実践はした事はない。だが練習はした事はあった。本来は薬師でもない者がする行為ではない。でもミュアンは教えていたのである。
自分の事を棚に上げて言った言葉だった……。
「あらら。落ち込んじゃった?」
クレがからかう様に言うもティモシーは答えない。
「でも、トンマーゾが言った事は本当よ。資格がなくとも……いいえ薬師でなくとも出来る世界になるのよ。魔術の能力が優れた者が頂点に立つ。そんな時代になるのよ」
「それが組織が作ろうとしている世界?」
体を起こしつつティモシーはクレに言った。
「えぇ。魔術師の世界の到来よ。昔のようにね」
「昔……?」
ふと思い出す。魔術師の言い伝えの事を。二通りありその一つが最初から魔術師がいたという考え方だ。
本当にそんな事が可能なのだろうか? いやそれよりもそんな時代が来ては困る。ティモシーは、立派な医者を目指しているのだから――。
トントントン。
ドアがノックされる音でティモシーは目を覚ます。いつの間にかうたた寝をしてしまったようだった。
はいと返事をしてドアを開けるとレオナールが立っていた。
「あ、レオナール王子……」
「お話し宜しいですか?」
ティモシーは頷き招き入れる。そして椅子に腰を下ろした。
「ベットに横になっていても宜しいですよ」
「え? いえ、大丈夫です。具合が悪いわけじゃないので……」
どちらかと言うと、レオナールの方が顔色が悪い。
「そうですか……」
レオナールも椅子に腰を下ろした。
「あの……。ブラッドリーさんは?」
「はい。傷は浅く命に別状はありません。どうやらトンマーゾが言うように、痺れ薬のせいで眠っているようです」
「さっきはごめんなさい」
俯いたままティモシーは謝った。
「何故謝るのです?」
「俺もレオナール王子やエイブさんが倒れたら医療行為をすると思う。出来ると思うから……」
「あなた既に習っていたのですか?」
これにはレオナールは驚いた。ティモシーは薬師になったばかりだ。本当ならこれからそれを学ぶのだ。
「ごめんなさい。薬師でもないのに母さんに教わっていました。それなのにさっきあんな事言って……」
「いえ、それはもう宜しいです」
レオナールは小さくため息をついた。魔術だけではなく薬師としても勝てそうもないと自信をなくしそうだった。
「私もあなたに謝りにきたのですよ」
「え?」
ティモシーは驚いて顔を上げた。また悲しげな顔だ。
「あなたが命を狙われているのは、ミュアンさんのせいではなく、私のせいなのです」
ティモシーはハッとしてドアに目を向ける。
「ちょっと待って!」
そう言うとドアに向かいそっと開ける。そして通路の様子を伺うと戻って来る。
「トンマーゾさんが聞き耳立てているかもって思ったけど大丈夫だった」
ティモシーの行動に少しレオナールに笑顔が戻る。感情のまま素直に行動する。羨ましく思う事でもあった。
ティモシーが椅子に座り直すと、レオナールは続きを話し出す。
「どうやら私の命を狙う口実を作る為に、あなたたちに危害を加えようとしたようなのです……」
「え?」
意外なレオナールの言葉にティモシーはジッと彼を見た。
「逆だったのです。私があなた達を巻き込んだのです……」
そう言った後、レオナールは俯いた。




