第二十三話
ティモシーは氷の刃が来る! そう身構えるがその様子はない。そう思っていると突然、アリックが押し倒して来た! ティモシーは、受け身をとれぬまま地面に叩きつけられる。しかも思いっきりアリックは体重を掛けて覆い被っていた。
衝撃で息をのみ、やっと落ち着いたが、アリックはそのままだった。何をするでもない。兎に角どけようとした時に、頭の上から『すーすー』とまるで寝息の様な音が聞こえ、ティモシーはアリックの顔を見た。
彼は、目を瞑り気持ちよさそうに寝ていたのである。
(あれは攻撃ではなく、眠らせる魔術だったのか!)
ティモシーは、ペンダントでレジストしたがアリックは眠りの魔術にかかり、ティモシーの方へ倒れてきただけだった。
寝てしまったアリックは重く、半分ぐらい左側にずれた時、視界がクリアになったのか、驚いた男の声が聞こえる。
「貴様!」
ティモシーは、ビクッとして動きを止めた。
「なぜ、立っている!」
(立っている? ダグだ! レジストしたんだ!)
これでダグが魔術師だと確定になった。ティモシーの様にマジックアイテムなど、そうそう持っている者など今の時代にはいない。
ティモシーは、何となくアリックの方を向き、ダグに背を向けた。まだ自分の周りには、あの砂埃があり視界がはっきりとしていなかった。上を向ているよりは、起きていると感づかれづらいと、咄嗟に思ったのである。
「っち。面倒な事を……。何が目的だ? ティモシーか? それとも俺か?」
ダグはそう相手に聞いた。
ティモシーは寝たふりを決めようと思ったが、気になりそっと頭を上げ、相手を見る。振り返るのは、なんぼなんでもバレるだろう。
男の顔しか見えなかったが、彼らは少しずつティモシー達から顔を背ける感じで、視線がずれていく。ダグが自分達から遠ざかっているとティモシーはわかった。
(一人逃げるつもりか? それとも仕掛けるつもりなのか?)
前者だとして魔術を使わずに逃げるのは不可能な気がする。だた、ダグもティモシーと同じく攻撃の魔術を使えなければ、起きていた事で一人、標的になってしまった事になる。
「いや、三人共お持ち帰りのつもりだったんだが……」
「っち。まだ、持っていたのかよ!」
微かに呪文が聞こえていた。
ダグの台詞と同時に、一人の男が何か投げた素振りがあった。その直後ドンッと音と共に振動が伝わって来た! そして、さっきの様に辺りが砂埃に包まれる。
先ほどと違うのは、ティモシー達の上に土砂が降って来た事である。それは、硬い大小の石も含まれていた!
(痛い! ちょっと待て! これ、どういう攻撃だよ!)
慌ててティモシーは、首からペンダントを外す。その間にも降り注ぎ、ティモシーとアリックは、石に打ち付けられていた。それでもアリックは目を覚まさない。しっかりと術は効いているようだった。
何とかティモシーは、自分とアリックに薄く結界を張った。
暫くすると降り注ぐのは止んだが、二人の上には大量の土砂が被さっていた。取りあえず、結界を解除しペンダントを首に掛けた。ダグだけではなく、男たちにもバレたら大変だからだ。結界を解くと、ずっしりと土砂が重くのしかかる。
「まさか、魔術師が混ざってるなんてな……。やったか?」
魔術師だとわかっていたら殺されていたんだと、ティモシーはゾッとする。
(ダグは大丈夫なのか?)
ティモシーは、口は悪かったが彼は自分を気にかけてくれている。悪い奴ではない。今はそう思えるようにはなっていた。
「危なかった……」
(生きていた!)
ダグの声が聞こえ、ティモシーはホッとする。
「しぶとい奴だ」
「どうする?」
「俺が行く!」
三人が相談する声が聞こえ、走り出した音も一緒に聞こえた。男がダグに向かって走り出した。そうティモシーは予測する。そうなると、もう魔術は使えないという事だ。
(魔術師は二人だけ? って、本当に魔術師なのか?)
最初の攻撃の時、微かだが魔力を感じたが、直接ではなかった。何かを投げた様だった。あれはマジックアイテムなんだろうか? それとも呪文を唱えると魔力があのような形をとるのだろうか?
ティモシーは魔術師とはいえ、攻撃や結界などハッキリと見たのはエイブの時が初めてで、魔術が発動されたとしてもどんな術なのかは見ないと判断できなのである。
今回使った結界でさえ自信がなかったが、そんな事を言っていられる事態ではなく、成功して安堵していたのだ。
相手が魔術を使えないのならダグにバレてもいいから、加勢した方がいいのではないだろうか? そうティモシーは思案する。腕っぷしで勝負なら負けない気がした。
「離せ!」
考え込んでいたら、そう声が聞こえた。ダグの声ではない。
ティモシーは、そっと顔を上げるもタグの姿は視界に入らない。だが、二人の男の姿は目に入った。『離せ』と言った男が二人の仲間なのは間違いないが、二人は動こうとしない。何故加勢しないのかと思ったが、動けないのだとティモシーは気づく。
ダグが魔術を使い、三人の動きを塞いだのだろう。
(もしかして、普通に魔術を使えるのか?)
よく考えれば、試験の時に使っていたのだからティモシーよりは使えるのは間違いないだろう。
「お持ち帰りとはどういう事だ? どこに連れて行く気だった?」
「さあな」
ダグが質問するが、当たり前だが素直には答えない。
「仕方がない」
「な、何を……」
ドサッという音が聞こえた。見えはしないが男が倒れたのだろう。
二人の男を観察していると、二人は青ざめた顔をしている。そして二人の前にタグは立ちはだかる。その時に見えた。ダグの手が男の首元に添えられたのを!
(もしかして、首を絞めているのか?)
「さっきの男の様になりたくなかったら言え!」
ダグがそう言うも男たちは苦しみだす。彼が手を離すと二人共倒れ込んだ。ダグの頭も直ぐに視界から消える。屈んだのだろう。
「ぐわー」
「く、くるし……」
「おい!」
ダグが話しかけるも返事がないようだ。
(首を絞めて殺した! まじかよ!)
加勢して魔術師だとバレていたら自分も同じ目に……。ティモシーは、背中に寒気が走った。
「こっちだ!」
複数の足音と共にそう声が聞こえた。巡回兵が先ほどの音を聞きつけここに来たに違いない。ティモシーは、そう思い安堵する。
「人が倒れているぞ!」
「おい、しっかりしろ!」
「いたたた……」
「大丈夫か? 一体何があった?」
ダグが巡回兵に起こされたフリを後ろでしているのがわかった。不自然ではないように、彼も倒れたフリをしたのだ。
「班長! この二人息がないようです!」
巡回兵の一人が叫んだ。首を絞められた二人の男だろう。
「何!」
駆け寄る足音が聞こえる。皆が、二人の男の安否に注目しているのがわかった。
「ダメだな……」
そう呟きが聞こえ、本当に殺したのだとティモシーは愕然とした。
「王宮に連絡を! あと、応援と馬車を!」
「っは!」
巡回兵数名が遠ざかる足音が聞こえる。
班長がダグに近づき聞く。
「王宮専属薬師ですね。お名前は?」
「ダグです」
「あの者達は、知り合いですか?」
「いいえ。仲間とここでその木を見ていたら声を掛けられ……」
ダグがそう言うと、一瞬シーンとなった。仲間が見当たらないからだ。
「もしかしてあれか!」
ティモシーは、自分達に近づく複数の足音を聞き、やっと気が付いてくれたと安堵する。
結構土砂が積もっているのか、乱暴に払われる。
バシっと肩の辺りの払われ、痛みに声を上げてしまう。
「いた!」
「大丈夫ですか?」
目を開けると、巡回兵三人がティモシー達を覗き込む様に上から見ていた。
「………」
『はい』と答えようとした時、ダグも覗き込み、その声を飲み込んだ。
「アリック起きろ」
ダグが揺り起こす。その時、微かに魔力を感じる。掛けられた術を解除したのだろう。アリックは、目を覚ました。
「うん? え? あれ? いった!」
目を覚ましたアリックは、すぐさま顔をしかめた。
「大丈夫ですか? 今すぐ馬車がきますので」
「え? 馬車?」
痛みに耐えながらアリックは上半身を起こした。そして、驚いた顔をしてティモシーの後ろを凝視する。
「何あれ……」
その言葉に、ティモシーも体を起こし、痛みを我慢し後ろを振り向いた。ティモシーも驚き、目が見開く。
木の向こう側は、地面が深く抉られていた。ティモシー達に降り注いだ土砂は、その地面が吹き飛んだモノだったのだ。あまりの事に二人はボー然とその穴を眺めていた。




