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魔術師なのはヒミツで薬師になりました  作者: すみ 小桜
第四章 魔術師の国の王子

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第二十一話

 午前中、ティモシー達は、いつも通り苦臭素草くしゅうそそうの調合を行い、午後からは第一倉庫の手伝いだった。

 第一倉庫は、薬草を保管する倉庫で、特別な棚に入れてしおれない様にしている。どういう仕組みなのかは誰も知らず、十年ほど前からこの方法が取られていた。

 ティモシー達は、午前の仕事を終え倉庫に向かう為、王宮内を歩いていると声を掛けられる。

 「おや、ティモシーではありませんか」

 その声に聞き覚えがあり、恐る恐る振り向くと、そこにはレオナールとブラッドリーが立っていた。

 (やっぱりレオナール王子! って、なんでそんな恰好……)

 そんな恰好とは薬師の制服の事である。つまりは、ティモシー達と同じ制服を着て、バッチまで付けていた。

 「ティモシーの親戚か?」

 ダグが二人を見比べて言った。同じ色の髪、レオナールの整った顔つき。そう思っても不思議でない。

 「違う! ただの知り合いだ!」

 「ティモシーの言う通りです。私は、レオと申します。では、また後で」

 軽く会釈すると、二人は去っていく。それをアリックとダグは不思議そうに見送る。

 (後でってなんだよ……)

 「なあ、俺、あのレオって人、初めて見かけたんだけど……。ティモシーとは違った意味で目を引きそうなのに、噂も聞いた事ないな」

 ダグがそう感想を漏らすと、アリックも同じくと頷く。

 「マイスターでもないよ。僕、王宮内の全員の名前知ってるから。凄く気になるね」

 何故か二人共レオナールに興味を示し、どこで知り合ったという顔つきで、ティモシーを見た。

 「な、なんだよ……」

 「なんだよじゃなくて、お前レオさんとどういう知り合いだ?」

 (王子だっていう訳にもいかないよな。多分……。あ、そうだ!)

 「ブラッドリーさんを通して……」

 ブラッドリーと一緒だったのを思い出し、でまかせを言って誤魔化す。エイブが知っていた相手なのだから大丈夫だろうと思ったのだが……

 「お前、あのブラッドリーさんと知り合いだったのか?」

 と、ダグが驚いた。

 (ブラッドリーってもしかして凄い人なのか? あ、マイスターなんだっけ?)

 どう誤魔化せばいいか、ティモシーは思案する。どちらも魔術師関係で知り合った。説明が出来ないのである。

 「そっか! ブラッドリーさんって、倉庫総括してる人だったよね。じゃ、エイブさんの時に知り合ったんだ。……あ!」

 アリックはエイブの名を出したことで、傷口に触れてしまったと焦る。

 「そうそう。その時!」

 だが、ティモシーは、エイブの事よりブラッドリーとレオナールの事に気を取られ、大きく頷いた。

 「……本人はもう吹っ切れたみたいだぜ。アリック」

 ポンとダグは、アリックの肩を叩いた。

 「うん。よかった……」

 ちょっと拍子抜けの二人だった。



 三人は、第一倉庫に着くと大歓迎された。

 「待っていた! いやぁ、ブラッドリーさんが一気に買い付けたもんだから、凄い事になって。あ、一番手前の君は、俺の担当な」

 入って早々に挨拶もなしにそう言われ、一番最初に入ったダグがその男の元へと歩いて行く。

 倉庫の中には、二人の男がいた。

 ダグを呼びつけた男は、緑色の髪のメジドルクと言ってもう十年程管理を任せられているベテランだ。もう一人の方は、暗い紫の髪トンマーゾという男で、半分の五年程で彼より少し若い。

 「じゃ、俺の方はあんたな。ちっこいのは、これで今日の日付を書いてくれ」

 (ちっこいの……)

 ティモシーがしょげているのも気にせず、トンマーゾは説明をしていく。両手の人差し指と親指で輪を作った大きさぐらいの薬草の束に、ラベルが付いていた。そこには、薬草名が書いてある。そこに、今日の日付を書いて行くという簡単な仕事だ。

 だが、量が半端なかった。ティモシーがすっぽりと入れる麻の袋に、薬草がびっちりと入った袋が十個もあった。

 三人、いや五人は、買い過ぎだ! とため息をつく。

 メジドルクとダグのペアは、ティモシーが日付を書いた薬草のうち、あ行からな行までをあいうえお順に並べ、トンマーゾとアリックペアは、それ以降の薬草を同じ方法で並べていく。

 初めは、日付を書くのが追い付かないので、書きつつ整頓していった。

 日付を書き終えたら、棚の中にある薬草を一旦順番に出し、古い日付を前にして名前順に入れ直す。これを二組は行い、ティモシーは、遅れている方を手伝った。

 何とか六時過ぎに終わるも、普段使わない筋肉を使った為、腰と腕が三人共痛かった。流石慣れているせいか、メジドルクとトンマーゾは平気そうだ。

 「助かった。前に大量に買い付けられた時は、新人が一人だったから全然終わらなかったが、流石三人だと早いな。ご苦労さん!」

 メジドルクがそう言うと、トンマーゾも『ありがとう』と礼を言った。三人は、へろへろになって、倉庫からでた。

 「すげぇ疲れた。配達の方がマシだ」

 「僕もそう思う」

 ダグもアリックも壁に手を突き、ぐったりとして言った。

 「ランフレッドが迎えに来るまで、寝てるかな……」

 「お前、何言ってるんだ! ダメに決まってるだろう!」

 待合室で寝て待ってようかと呟くと、ダグと怒られてしまい、ティモシーはプクッとふくれた。

 不安が残るが疲れている二人は、念を押して帰宅する。だがそれは杞憂に終わった。今日は待合室に行ってすぐに、ティモシーをランフレッドが迎えに来たのである。

 「よかった。眠くて……」

 「あ、いや、帰るわけじゃないんだ。レオナール王子の部屋に行くぞ。ここで待つよりはいいだろう?」

 レオナール以降の台詞を小さくランフレッドが話すも、ティモシーはそれで目が覚めた。ランフレッドにすれば、彼は安全な人物なのだろうが、ティモシーにしては試す為とはいえ襲ってきた相手である。行きたくはないが、拒否出来ないのでトボトボとついて行った。

 部屋の前に行くとカミーユがドアの前に立っていた。

 「ランフレッドです。ティモシーをお連れしました」

 「入りなさい」

 声を掛けると許可され、二人は中に入るとそこには、レオナールの他にルーファスも居た。

 「では、レオ殿、私はこれで」

 他にも人がいたとティモシーが安堵するも、ルーファスはすぐにそう言ってランフレッドと一緒に部屋を出て行った。

 (結局二人っきりかよ)

 「立っていないで座って結構ですよ」

 ティモシーは、疲れている事もあり素直に座った。

 「そういえば、今日午後から薬草の整理を手伝ったそうですね。いかがでした?」

 (ブラッドリーに聞いたのか? 倉庫総括だって言っていたもんな)

 「つ、疲れました……」

 素直にそう言った。仕事の感想だと思ったからである。だが違った。

 「いえ、私が聞いているのは、薬草の質の話です。手土産で持ってきたのですが……」

 にっこりほほ笑んで、ティモシーを更に疲れさせた。

 (ブラッドリーさんが買い付けたんじゃなくて、レオナール王子が持って来たのかよ! 大迷惑だ。まったく……)

 「次は、半分でお願いします。……質は多分、よかったと思います」

 いちいちチェックする暇などなかった。ただ、全体的に質はいいと思っていた。ティモシーにしてみれば、『質より量』だった!

 「でしょう? 私の国で栽培した物です。私は、王宮専属薬師ですが王子なので、自分の国で薬師として仕事をする許可を頂いて、席はそのままで……」

 バンッ!

 「人が話していると言うのに、寝るとは何事ですか!」

 レオナールがテーブルを叩く音で、ハッとティモシーは目を覚ました。疲れていたティモシーは、ついウトウトしてしまったのである。

 「私の話は、つまらないと見えますね」

 そう言うと、スッとレオナールは立ち上がり、ティモシーはビクッと身構えるが、彼は後ろにある棚へ向かった。

 そして手をかざしてから棚を開ける。魔術でロックしてあったらしく、解除してそこから本を取り出し、ティモシーの前のテーブルの上に置く。

 「えっと……」

 「魔術の本です。あなた、魔術師なのに色々知らないようでしたので。それを読んでお勉強なさるといいでしょう」

 レオナールは、ティモシーをそう見立てたようで当たっていた。だが、ティモシーは、魔術には興味はなかった。薬師になるつもりだったし、使えなくとも特段不便に感じていない。逆に人に知られると困るので、なくていいものだった。

 「覚えても使わないと思いますが……」

 「何を言ってます。使えるのなら活用しなくてどうしますか」

 「……はい」

 レオナールに逆らっても無駄だし、疲れていて頭も回らないので、言われた通り本を読み始めた。初歩の本だと思うが、見た事のない字で書いてあった。

 「あの……読めません」

 「やはり読めませんか」

 ティモシーの言葉にそう返し、薄手の本をテーブルの上においた。

 「それを使って、読み解くといいでしょう。頭の体操になって目も覚めると思いますよ」

 にっこりほほ笑んでそう言われ、渋々読み始める。要は、自分で翻訳して読めということである。寝かせる気はないらしい。

 眠くて頭に入ってこないだろうと思いつつ、眠気と戦いティモシーは、本をめくっていた。

 「何、読んでいるんだ?」

 ティモシーは、ハッとして振り向くと、ランフレッドが本を覗き込んでいた。ボーっとしながら読んでいた為、彼が入って来た事を声を掛けられるまで気づかなかったのである。

 「どこの文字だよそれ……」

 「えっと……」

 「魔術の本ですよ。興味があるようでしたので、待っている間読ませておりました。明日も読みたいようですので、こちらにお連れして構いませんよ」

 「はい。かしこまりました」

 にっこりほほ笑むレオナールに、ランフレッドはそう言って頭を下げた。構わないと言ったが、連れてこいと言う事である。

 (有無を言わせず、魔術を学ばせるつもりだよ。俺、明日からここに通わされるのか?)

 そう思うと、げんなりするティモシーだった。

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