第十九話
「これをどうにかして見せて下さい!」
有無を言わせず、レオナールは火の玉をティモシー目掛けて投げつけた!
(どうにかって! これ本当に試す為なのか!)
ティモシーは、このまま当たれば大やけどするのは間違いない。退けようかとも思ったが、退ければソファーが燃える。そうなればレオナールなら、皆にティモシーが魔術師だと思ったと平然と言いそうだし、結界を張って跳ね返しでもすれば同じ事だ。と思い悩む。
ふとティモシーは、ブラッドリーが使った結界を思い出す。
(吸収なんて出来るかどうかわからないけど……)
ティモシーは、火の玉が飛んでくるわずかな時間にそれらを思いを巡らし、手を突きだした。
手の前にうっすらと結界が張られ、それに衝突した火の玉は消え去った!
思ったより簡単に出き、ティモシー自身驚いた。
「お見事です」
(お見事じゃない!)
へなへなとティモシーは、その場に座り込む。
「殺されるかと思った……」
そう呟くティモシーの前にレオナールが片膝をついたかと思うと、クイッとティモシーの顎を持ち上げた。
レオナールは真剣な顔つきをしており、何を言われるのかとティモシーは内心ビクビクだった。
「あなた、ランフレッドに魔術師なのを秘密にしておいでなのでしょう? 私は優しいので、この秘密は胸の内にしまっておいてあげましょう」
ティモシーは、なぜそんな事を言うのかわからず、目を見開く。
「協力をして差し上げますと、言っているのです。ですので、あなたも私に協力をなさいなさい。いいですね」
それは、取引とは言えない一方的なモノで、ティモシーからすれば脅しだった。別にランフレッドに知れたからといって殺されはしないが、今更知れれば今の関係が崩れるのではないか。そう思うとティモシーは頷くしかない。だがその前に拒否をする事は許されないだろう。
ティモシーは、おずおずと頷く。それを見たレオナールは、満足げにニッコリと微笑み手を離した。
(なんだこの王子! ほんと何がしたいんだ! って、何をさせる気だ……)
ティモシーは、さっきのは試験だったのではと思った。彼のお眼鏡にかなってしまったのである。
「そちらへお座りなさい」
どうしようかと考え込んでいると、いつのまにソファーに座ったレオナールが、向かい側のソファーに手のひらを出し座るよう勧める。いや、命令された。
はい、と返事をし、ティモシーはペンダントを置いたテーブルの前の席に腰を下ろした。
「あなたのそのペンダント、ご両親のどちらかがお造りになった物でしょう? 凄くよくできています。あなたの魔力を押え、カモフラージュするレジストの付与。中々の腕前です。あのブラッドリーさえも見抜けておりません」
褒めてもらっても今の状況では嬉しくもなんともなかった。そして、更にレオナールとブラッドリーの関係も気になったが、聞く勇気はなかった。
「あなたは、その血を継いでおります。是非、私に力を貸して頂きたいのです。勿論、他の者に知られぬよう配慮致します」
(俺、厄介な奴に知られたんじゃないか……)
レオナールは、魔術師の前に王族である。普通、命令に背く事など出来ないし、しない。彼は頼んでいる言い回しだが、先ほどから態度を見ると決定事項である。つまり命令と一緒だ。
「あの、一つだけいい……でしょうか? 俺、薬師として生きていきたいんです!」
「勿論、構いませんよ。ブラッドリーも私も薬師です。いずれ私もブラッドリーのようにマイスターを取得するつもりです。ご一緒に目指しましょう」
にっこり頷いてそう言われ、自分で逃げ道を塞いでしまったようだ。
「え? レオナール王子も薬師なのか……じゃなくて、ですか?」
眉をピクッとされ、慌ててティモシーは言い直す。
「そうです。勿論、私もブラッドリーも実力で王宮専属薬師になりました。あなたと一緒ですね」
(は? 王子なのに王宮専属って何だよ! って、もう逃げ場ないんだけど……)
ティモシーはもう断りようがないと諦める事にした。とにかくバラさない様に今一度お願いする事にする。
「わかりました。魔術師である事を隠して頂けるのなら協力します」
「それはよかった。共に協力しあい、マイスターをめざしましょう」
「は? マイスター?」
魔術師としての協力じゃなかったのかと驚いて、ティモシーは声を裏返させる。
「いいですか? 私でも治癒魔術は使えません。完ぺきではないのです。ですが、マイスターになれば、医療ができそれを補えるのです。まずは魔術の力を磨きつつマイスターを目指しましょう」
「……はい」
(なんかよくわかんないけど、どうせマイスターは取得するつもりだったしいいか……)
無理難題を言われるのではないかと思っていたティモシーは、マイスター取得という簡単な願いでよかったと胸を撫で下ろした。
「では、刻印を見せて頂きましょうか」
「え? あ、はい……」
レオナールがティモシーの横に移動してくる間に、前ボタンを外しておく。
左胸についた刻印の痕は、魔術師の二人には古くなった傷跡のように見えた。それをレオナールは、そっと右手の指でなぞる。
「初めてはっきりと拝見できました。……少し魔力で触れてみて宜しいですか?」
拒否はできないのだから、ティモシーはこくんと頷いた。
「では……」
「いた!」
刻印を刻まれてた時ほど痛くないが、ついレオナールの腕を掴み押えてしまった。
「何をするのです!」
「す、すみません!」
慌ててティモシーは、手を離した。
「まあ、いいでしょう。その痕はこれから調べさせて頂きます。宜しいですね」
「え……。あ、あの、これって消さないとダメなものなのでしょうか……」
このままでは実験台にされそうで、なんとか逃れられないかと思い聞いたのである。
「ですから、それを含め調べるのではありませんか。今のところ、刻印を施された者で生き証人といいますか、そういう者はあなただけなのです」
(マジかよ。それって俺が魔術師なの関係ないだろう……)
ティモシーは、青ざめる。実験台確定だったからである。




