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第1話「髙木 有馬」(2)

「そんな…真面目そうに言うなよ、笑い飛ばせねーだろ」

西野の方は見ずに、何かを誤魔化す様に後頭部を掻きながら俺が答える。


「うん、笑い事なら良かったんだけど、ちょっと深刻そうだから一応、ね?」

普段は明るくふざけている事も多い彼女だからこそ、印象と噛み合わない真面目な表情はどこか歯痒く、しかし言い知れない力があった。


「そうは言っても曖昧過ぎてなんのこっちゃわかんねーし、どうしようもねぇよ」

複雑な笑みでこちらを見つめる彼女にむず痒さを抑えられず目を逸らす。

しかし実際はその通りだ。西野の言葉を信じる信じないは別として対処の仕様がない。


「まあね、言っておくのとおかないので変わったら嬉しいなと思って言っただけ。とにかく明日はなまらヤバそうな物にはできるだけ近づかないこと!」


そう言って西野は普段の明るい調子に戻り笑った。

彼女に言った事はないし今後言うつもりも毛頭ないが、彼女の屈託無く笑った顔が、俺はほんのちょっと好きだった。

今更、ここまでの腐れ縁を何か別なものに発展させようなどという気は更々ないが。


彼女の普段通りのトーンに俺もふぅと気を抜いて冗談交じりの会話に戻った。


「なまらヤバそうな物ってなんだよ」


「怒った柴田先生とか。」


「なまらヤバそうな物には近づかない!!」


怒れる筋肉系体育教師を想像し冷や汗を流しながら答えた。と、どちらからでもなく笑いがこみあげて声を上げて笑い合う。


「やっぱりいいな、お前と喋ってると気が抜けて元気になるわ」


本心からそう思った。

俺はそもそも友達が多い方ではない。家庭の事情でやさぐれていた中学一年の頃、何でも話せる西野のような友達がどれほど有り難かったことか。

俺とは比べ物にならない位友達の多そうな彼女がどうして俺と仲良くしてくれるのかだけが唯一の謎ではあったが。


「最近話せてなかったもんね、君、元気にしてる?」


「普通は超能力の話より前にそれだと、俺は思うんだけどな。」


他愛もない、しかし大事な話が弾み出す頃にはすっかり日も暮れて自分の家に到着していた。


「寄ってくか?うちの叔母さん、西野に会いたがってたけど」

養母である叔母さんは所謂(いわゆる)"おばはん気質"で、どこで聞いたのか分からないが西野が高校に上がりどえらい美人になったという話をよく持ち出しては「いつ嫁にくんのよ」と冗談を(半ば本気だと俺は思うが)飛ばしてくる。

そういうのじゃないと何度説明しても聞く耳を持たない、あのお節介(せっかい)の妖怪、老婆心の化け物め。


「うん、寄って行きたいけど今日はいいや、お父さんが単身赴任から帰ってるみたいだから」

さらっと伸びた黒髪の先を指で巻き取って(いじ)りながら、少し嬉しそうに西野が答える。


「そか、じゃあ遅くなっちゃ悪いよな、おっちゃんに宜しくな」


「うん、イケメンでウェイウェイしてるって伝えとく!」


「喧嘩売ってんのか」


「ごめん売ってみた」

テンポのいいやり取りにクスリとしながら自転車にまたがって家の方に漕ぎ出す高宮を見送る。


これからはもうちょっと西野のクラスまで話しに行こうかな、とそう思いながら家のドアを叩いた。



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