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第1話「髙木 有馬」(15)

終業のチャイムが軽快に鳴る中「今日から一週間期末テスト前で部活も休みだから勉強に専念するように」と残して担任が教室を出る。

終礼が済んだ教室に泡が弾けた様に騒がしさが戻った。


さて何から勉強したものかと頭を軽く掻きながら鞄を肩にかける。普段は学校に置きっ放しの教科書でいつもより重くなった鞄である。

僕たちを使って勉強しなよ!とでも言いたげな鈍い重みがずしりと右肩に響いた、ずしり。


ふと廊下側の席でなんとも渋い顔をしてうぬうぬ(うめ)き声を上げる坊主の友人が目に入り思わず苦笑いを浮かべながら近づいた。


「なあ有馬(ゆうま)よう、期末テストに逆転ホームランってあると思わないか」


「意味わからんけどそういう話すんならお前は現在5回裏10ー0のツーアウトだけどな。」

つまりコールド直前って事な。


「ふふふ甘いな、ピッチャーの俺にそんな大事な場面で打席は回ってこない!」


「局面を否定してくれよ有村…」


誇らしげに投球の真似をする友人がはっと気付いて確かに…と再び虚ろな表情に戻る、どうやら少ない脳容量の(ほとん)どを野球に使っている彼にとって定期テストは(まさ)に天敵である様だった。誇張でも何でもなく。


無い知恵でも掻き集めているのだろう、仏頂面で唸る友人に手を振って教室を出る。


そういえば、とふと英語の抜き打ちテストの件を思い出して廊下を西側へ進んだ。

西野の野郎に一言文句を言う予定だった。


学校の北側に位置する第二校舎三階、三年生の教室フロアには西から東にかけて八クラス分の教室があり、そのど真ん中に本階段が位置する。

つまり東の端、三年八組に在籍する俺は階段より西側には基本立ち入らないのだが、同じように並ぶクラスの中から容易に三組の表記を見つけてドアから中を覗いてみる。


「西野…は帰ったみたいだな」

教室に残る十人程度の中に西野の姿は無かった。

「うへへ、捕まるもんですかー!」と、鬼ごっこ中にこちらを煽ってきた中学の頃の西野を思い出し額に青筋が浮く。落ち着け俺。


「…何してんの?」


「ひょっ!!?」

前側のドアから教室を覗き込む俺は背中から掛けられた声に思わず飛び上がる。


「西野、お前心臓に悪いわ。」


「何よう、呼びに行ったのに教室にいないから探してたのにこんな所にいたんだ」

左胸を抑えながら振り向いた所に立っていたのは珍しく黒髪を後ろで三つ編みに纏めた西野だった。

どうやら俺の教室まで呼びに来ていた所を偶々(たまたま)入れ違いになったらしい。

しかし何の用事だったのかと思い付きあぐねていると急に西野が胡麻を()るあからさまなジェスチャーをした。ああなるほど、そういう事か。


「て、テストの事でね、相談なんだけど今回もやばいなーって…」


「スタバの新作」


「手を打った!」

俺が条件と共に差し出した右の(てのひら)を西野がパシッと軽快に握った。


「ありがとうう今回は本当にやばいからね、やばいからねえ見捨てないでねえ」

そのまま握った俺の手をブンブン振り回しながら泣きそうな表情を浮かべて西野が懇願する。オーバージェスチャーに巻き込まれる俺の右腕は今にも根元から()げそうであった。

はいはいわかったわかったと軽く彼女を(あし)らう俺は不意に右手を握る西野の掌を意識してしまった。

ぷにぷにと柔らかくそれでいて(ほの)かに暖かい少女らしい掌の感触を覚えながら、今朝の有村の話を思い出して思わずカーッと顔を紅潮させる。

『脈アリだと思うけどね、咲ちゃん。』

続いて思い出される叔母の一言が余計に頭に響いた。そんなんじゃないそんなんじゃないそんなんじゃない。


「わかったから離せってば」

平然を装って西野の小さな手を振りほどくが、どうも落ち着かない。やはり有村が余計な話をしたからではないだろうか、あの野郎、明日おぼえてろよ。


手を離しても依然どきどきと少し速い鼓動はきっとさっき後ろから驚かされた余韻に違いない。

まだ掌に残る感触を(こそ)ぎ落とす様に俺はわしゃわしゃと頭を掻いた。




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