94.遠足じゃ
父上、母上、9月も終わりじゃ。
この学園にいられるのもとうとう残り半年を切ったのじゃ。
勉強もどんどん難しくなってきておるが、ちゃんとついていけているぞ。
勉強以外のことも、ちと忙しすぎなような気もするがの。
三年生は、少し行事を減らしてもらいたいのう。
9月の学校行事は遠足じゃ。
今年は川じゃ。べリア川の支流が王都に近くての、大きな河原が人気のピクニックスポットじゃな。三年生はあんまり遠くにいかんのじゃ。
班の殿御にの、なにが食べたいと聞くとの、前同じクラスだった殿御がの、「ナーリンの班でいつも作っていたあれが食べたい。うまそうでいつも見ていた。俺も食べたかった」と言うのじゃ。他の殿御は「任せるわー」という感じじゃな。
そうかそうかおにぎりかの。
手間かかる料理でなくてよかったわ。
河原で布を広げての、お茶を沸かしておにぎりを配ると、「これこれ、これが食べたかったんだ」と言って喜んで食っておる。
他の殿御も「うまいなこれ」と驚いておった。
「俺の班なんか貴族の女だったから市場から買ってきたパンそのまんまだったよ……」
「俺も俺も」
「僕は班の娘がおいしいサンドイッチ作ってくれましたけどね」
「俺、差つけられちゃったよ。イケメンのだけ豪華でさ」
「あるある――!!」
殿御も悲喜こもごもじゃの。
「最後の学年でナーリンと同じ班になれてよかった……」
しみじみ言われると嬉しいのう。
「ナーリンって本当に差別無いよな。貴族にも平気で文句言うし」
「いいと思ってる男とか、いるのかい?」
「もう嫁の行先決まってるから余裕あるのかも」
うーん、前とおんなじ話しないといけないのかの。
「ほらほら、ナーリン困ってるだろ」
ピカピカがまとめるのじゃ。そういえばコイツ班長だったの。
「俺たちがナーリンに相応しい男になるなんて百年早いよ。俺は最近つくづくそう思う」
……百年という年月に妙にリアリティを感じてしまうのう。
母上が父上と出会った時はもう百歳過ぎておったからの。
「ナーリンは卒業したら、たぶんこの国の人間だったら知らない人が誰もいないような、そんな人になると思う……。俺たちが、将来、ナーリンと同級生だったことを自慢できるような」
「それはいくらなんでも期待しすぎじゃの」
「いや、なるね。俺もそう思うぞ」
「俺も俺も」
「ほめてもこれ以上何も出んわの」
わしそんなもの目指しておらぬのだがの。少なくともこの学園では。
わしが魔王になったら、こいつらみんな驚くかの?
それとも、そんなときにはこいつら、みんなもう死んでおるかもしれないがの。
父上、言っておったな。
一期一会じゃと。
死んだらもう会えんのだと。
何回も死んでは生き返った父上が言うのだからの。
わしも残り半年、全力で事に当たるとしようかの。
何事にも手を抜かずに。
あとで後悔しないようにの。
1030年9月12日 ナーリン
次回「最後の文化祭じゃ」




