93.炊き出し実習で家庭料理じゃ!
9月最初の週は恒例の炊き出し実習じゃ。
今回はの、シルベリアで奥さんに習ったトマトスープじゃ。
班の殿御はみんな、「うえー」と言うのじゃ。なんでもみんな母親によく作ってもらっていて食い飽きているそうじゃ。
「浮浪者になるとそういう物も食えんのじゃ!」と一喝しての、料理次第で美味くなるのじゃ心配いらんと取り掛かるわ。
わしの獲ってきたシシ肉を豚肉代わりにしての、朝早くからグツグツとお湯で煮て、大鍋で小麦を炒って取り出し、バターと玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジン、すりつぶしたトマトも入れて煮込み、月桂樹の葉やら胡椒やら塩やらの調味料で味を調え、キャベツも加えて柔らかくし、さらにトマトやにんにくまで入れて完成じゃ。
……ちっと銀貨五十枚をオーバーしたかの。まあそれはわしが出しておくわの。
班の殿御たちに味見させるとの、「違うよこれ――!」とか「いや美味いだろこれ」とか「母さんより上手ですよ」とか反応バラバラじゃ。
わかったのじゃ。この料理は家庭ごとにまるで味がちがうのじゃ。
うーん失敗だったかもしれん。これ美味いと思う奴もおればまずいと思うやつもおるだろうの。
周りを取り囲んどる浮浪者たちも、「うへっトマトスープかよ!」とか「浮浪者になってもこれを食わねばならんとは」と反応がいまいちじゃ……。
12時の鐘が鳴り、どういうわけかわしの班の鍋の前の列が一番長いのじゃ。
そしてこれを食わすとの、「しょっぱいよ」とか「塩気が足らん」とか、「ビーツが入ってないじゃないか」とか「いやうちのかーちゃんはこれだった」とか「ニンニク入れるのは邪道だろう!」とか「トマトはもっと大振りに」と言いたいことを言いまくって散々じゃ。
「うるさいわ――――っ!!」
わしが頭にきて怒鳴ってな、「殿御は料理にぐちぐち文句言わず出されたものを食えばよいのじゃ!」と一喝するとの、みんなゲラゲラ笑うのじゃ。
「俺のかーちゃんとおんなじことを言う」と言っての。
まずいまずいと言いながら残らず食べて笑うのじゃ。
「次から違うのにしたほうがいいのかの?」と聞くと、浮浪者はみんな、「いや、昔家族で暮らしていた頃を思い出してさ」
「こんなふうにかーちゃんや兄弟とケンカしながら食ってたのさ」
「いいもん食わしてもらったよ。うちのかーちゃんより上手だよ」
そう言うのじゃ。
みんな、どこか嬉しそうだったのう。
ま、今回もわしらの班が一番に鍋が無くなったのでの、これはこれでよかったかもしれぬのう。
あのどんよりして何も考えておらぬ幽霊のようだった浮浪者たちとは大違いじゃ。食い物に文句を言えるようになっただけ、なにかが変わってきたのかもしれないのう。
「次回はポトフに戻そう」とピカピカが言うのじゃが、他の班のメンバーは、「いやこれはこれで面白い。浮浪者たちの食いつきがまるで違う。現に鍋は一番に無くなった。もっと違う料理にも挑戦しよう!」とやる気じゃ。
わしもこちらの料理もっと勉強しないといけないのう。
1030年9月8日 ナーリン
次回「遠足じゃ」




