87.タスラン到着じゃ
父上、母上、二人で旅した時、母上は棍を使っておったそうじゃのう。
ノルワールに到着したときに考えたのだがの、武器が馬に乗ったままでは十手はちと長さが足りん。武器屋で棍を買ってきたぞ。鞍に縛り付けておる。
タスランに到着したところでの、ハンターギルドに寄って、手配書を見るのじゃ。
ここから先は去年野盗に絡まれたからの。用心が肝要じゃ。
盗賊団がおるらしくて、注意書きされておった。
この街でちょっと高そうなローブを買っての、これを羽織っていくことにしたのじゃ。
タスランからアーリャンまでメビウスに乗って、てくてく歩いていくとの、バラバラバラと道に強盗団が現れての、ぶんぶん剣を振りまわして「馬と荷物と金を置いてゆけ」と申すのじゃ。
手配書にあったタスティール盗賊団じゃの。まったくあこぎな連中じゃ。
馬に乗っているというのは野盗相手にはけっこう有効での。
野盗にとって馬は高額で貴重品での、なんとしても生かしてぶんどりたいものなのじゃ。おかげでいきなり攻撃されることがまずないんじゃのう。
全員その場で叩き伏せての、縛り上げ、メビウスと一緒に盗賊団ごと、タスランのハンターギルドまで送召喚じゃ。十二人と馬一頭を丸ごと送召喚できるようになったのだからわしの召喚術もたいしたものであろう!
ま、タスランからアーリャンまでは距離も近いからのう。
あまりのことに盗賊団全員ほうけておったな。
ギルド玄関前でまとめておいての、「野盗を捕まえてきた」というと職員も驚いておったのう。
盗賊団の頭はな、疾風のタスティールと申しての、脱走の名人なのじゃ。今までも何度も捕まっては逃げているという厄介者での、「どうして殺してこなかったんですか」とギルド職員も迷惑顔じゃ。
こんなに大量の重犯罪者連れてこられても困るということかの。
「わしみたいなおなごに今からこいつら全員の首を刎ねろというのかの?」と言うとさすがにそれはということになったのう。
全員ホールに運び込ませてからの、わしはタスティールの後ろに回っての、髪の毛を掴んでむしったのじゃ。「なにしやがる!」っと怒るタスティールにの、「(いまから縄を解くから、逃げるのじゃ)」と小声でささやいての、縄をばらっと解いたのじゃ。
そりゃあもう見事な逃げっぷりじゃったのう! さすがは疾風のタスティールじゃ。
脱兎のごとくとはあれのことじゃの。
あっという間にギルドの入り口を走り抜けていなくなったわ。
慌てる職員に「追うな!」と言っての、「なんで逃がすんです!!」と怒られたのじゃが、「まあ任せておくのじゃ」と言ってしばらく待つのじゃ。
いいころになったところでの、タスティールからむしった毛を握ったまま右手を上に上げて召喚をかけるとの、ギルドのホールの上にふわっとタスティールが現れてどすんと床に落ちるのじゃ。あっはっは。
召喚術をいろいろ教えてくれたシルビスに感謝じゃ。
腰を強打したタスティールをまた縛り上げての、「わしは一度捕まえた者はいつでも召喚して呼び戻すことができる。わかったかの?」というと盗賊全員真っ青になって頷いたのう。
「逃げようなどと考えぬことじゃ。次に逃げたら滝の上とか、火の山の上とかに落とすからの。いや、上空200カーリン上から落とすほうが面倒が無くていいかの。まあいいわ、とにかく裁きが下るまでおとなしくしておるのじゃぞ」と言って、職員に全員の毛をむしって、小瓶に名札を付けて張り付けて厳重に保管しておくように言ったのじゃ。
「こいつはどうしましょう?」
一人つるっぱげじゃったな。
「ちんげをむしれ」
……失敗じゃったな。
体の一部ならなんでもいいのじゃから、別に爪を切ってもよかったのじゃ。
こいつが逃げたら、わし、こいつのちんげを握って召喚せねばならんくなるわ。
1030年8月7日 タスランより。ナーリン
次回「アーリャンに到着じゃ」




