68.クリスマスじゃ
もうすぐクリスマスなのじゃ。
この街でのクリスマスも二回目かのう。
あちらこちらで武神ツェルト様が祭られておるのじゃが、元がむさいおっさんじゃから町中がむさいのじゃ。
どういう風習だから知らんがの、そのむさいおっさんの像にクリスマスシーズンの間だけ赤い服とか赤い帽子をかぶせてあるのはなんでなのかの?
あんなのでむさくなくなると思ったら大間違いじゃぞ。人間のやることはわからんのう。
大使館前に立っとるホロウにも作って着せてやるかの。
わしら学生は毎日放課後、街に出て寄付集めじゃ。
孤児院のためにの。
慈善箱に古着とか、おもちゃとか、お金とか、市民に入れてもらうのじゃ。
孤児院の子供たちにやらせるという案もでていたのじゃが、さすがにそれはみじめすぎでかわいそうじゃ。
それで生徒会長のキャロラインの提案で学園で引き受けることになったのじゃ。
凄まじく偽善的じゃが、やらぬ偽善よりやる偽善じゃ。
有志でやっておるが、参加人数は……、四百五十人も生徒がいて、まあ二十人ぐらいじゃのう。
キャロル、はりきっておるのう。
文化祭の武闘会で、兄上がやっぱり魔族だと怖くなったそうだがの、まわりのおなごたちに急にモテだしたのを見て、メラメラと嫉妬が湧いたそうでの、修学旅行から帰ってきてみたらまた以前のデレデレに元通りじゃ。
旅行先でなにがあったのかのう。なんかあったんだろうのう。
周りのおなごもドン引いてしまってすっかり文化祭前とおんなじ状況になっておる。兄上自身は、武闘会に勝ったということ以外はなにもかわっておらぬからの。
ボコボコにされることは無くなったが、ま、兄上の実験は一応成功ということかの。兄上のキャロルへの態度もあいかわらずじゃ。少しはデレてやらんとキャロルに気の毒じゃのう。
キャロルがあんなに兄上にデレデレしておらねば、寄付集め、殿御がチャンスだとばかりにもっとたくさん参加してくれたと思うがのう……。惜しかったの。
わしはジョーウェルに頼んでハンターギルド名で孤児院に野牛を二頭寄付したわ。クリスマスの御馳走になるといいの。
母上も「魔王カーリン」の名で魔族産の文房具を大量に寄付してくれたの。
あれはありがたかったぞ。自分のノートと鉛筆が持てて勉強ができるなんて孤児たちには夢のようじゃて。
孤児院でトーラスと少し話した。普通のおっさんの格好をして様子を覗いておったな。わしが炊き出し実習でポトフを配ってからの、仕事斡旋所に来る浮浪者が少し増えたそうじゃ。ちいさなちいさな変化じゃがの、来た者はやる気が見られるそうじゃ。
「人手不足のところにただ押し込むのではなくてな、ちゃんと以前はどんな仕事をしていたのか聞き取りをして、手に職を持っておる者は適所で働いてもらうように改善した」と言っておった。
成功例が口コミで浮浪者に広がって、仕事斡旋所の利用が多くなることが期待できるそうじゃ。
「次の炊き出しもポトフをたのむ。うまいやつをな!」と言って上機嫌で馬車に乗っていったわ。
クリスマスの25日には総出で炊き出しを行うのじゃ。国王の頼みじゃし、またポトフにするしかないのう。
国王自らあちこちを観て回るのは、きっと母上のマネなのじゃな。
今はまだ王都だけにしか手が回らんだろうがの、アレが国王のうちは、この国はもうちっといい国になるかもしれんのう。
1029年12月18日 ナーリンより。
追伸
シルビスから手紙が来とった。27日に迎えに来るそうじゃの。
強制送還かの。
次回「二年目の三学期じゃ」




