63.文化祭じゃ!
父上、母上、今年は見に来たりはせんかったろうのう?
見かけなかったからのう。まあいいのじゃ。
そのかわりトーラスがウロウロしとったというウワサがあるがの、どうでもいいかの。
わしのクラスは普通の喫茶店じゃがの、エーリスが「パンが無いならケーキを用意すればいいじゃないの!」と言ってキレておった。あれは多分失敗したかもしれんのう。準備が間に合っておらんかったかもしれんわ。
わしは科学部に顔を出さねばならんでの。後は知らん。
気球、一人乗りじゃがの、男どもが大汗かいてファンをぐるぐるハンドルで回して風を送り込んで膨らませてから、わしがファイアボールを中央の魔道ランプの芯に点火して、ふわりと持ち上がったときは歓声が上がったのう。
そのままどんどん火力を上げての、わしが乗り込んで、バラストを放すと、ぷかりと浮き上がったわ!
大成功じゃ!
そのままふわふわと上空に上がっての、時計塔より高く上がったぞ。
男どもは大喜びじゃし、見てたお客も大歓声で大盛り上がりじゃ!
そこまではよかったんじゃがのう――――。
失敗だったのう。
退屈じゃ。
午前中三時間、なーんもせんと、狭い籠の中でただひたすらファイアボールの維持じゃ。下で「ぱふぱふ」とラッパを鳴らすたびに身を乗り出して手を振って、人が乗っておるというアピールもせねばならん。眺めはいいのじゃが、これじゃ肝心の文化祭が何一つ見て回れんのじゃ。
おそろしく損な役じゃの。
空からの眺めなど、別にドラミちゃんからいつも見ておるしのう……。
昼も近くなったところでの、気抜き穴のロープを引っ張って、降りてきたのじゃ。
科学部の男どもがロープを手繰りながら、「なんで降りてきちゃうんだよう」と不満げだったがの。
ファイアボールを消して、「わしにも都合があるわの」と言っといたわ。
「あっそうかトイレ……」
否定はせんがの、ぶん殴っておいたわの。
クラスに近寄るとエーリスにキレられたわ。「なんで手伝わないの!」ってな。
「手伝い禁止と言うたはおぬしじゃろう。わしはよそで仕事があったのじゃ」と言うとの、「なんて協調性のない人なの!」とのたまうのじゃ。
「わしはおぬしが誰かと協調しておる所など見たこと無いがの……」
クラス大爆笑でエーリスが赤くなっとった。
まあABCDが行っていいよと笑うので、他のクラスの食い物屋でハンバーガーだけ食って大急ぎで校内の闘技場に行ったのじゃ。
一回戦目から兄上での。
剣術部、槍術部、魔法部、ハンタークラブという強面の面々に対して制服に素手というナメ切ったかっこうじゃの。
ちなみに所属は「生徒会」じゃ。
どういう出場枠じゃ……。
生徒会長のキャロルが対戦表の前でキャーキャー言って応援しておるのでもう会場の殿御全員を敵に回しておる感じじゃの。
兄上、いつもボコボコにされておるからの、学校で一番弱いと思われているんじゃないかのう? 剣術部のやんちゃ坊主がニヤニヤしながら対戦しおって、いきなり斬りかかってきたのを問答無用で場外に吹っ飛ばしておったわ。
相手気絶しての、担架で運ばれていきおった。
二回戦も三回戦もずーっとそんな感じじゃ。相手必ず一撃で気絶させられるのじゃ。何の技も無し。相手が強くても弱くても差別なく全員ただ叩き伏せるだけ。
魔法部が相手の時は撃たれたファイアボールを素手で跳ね返して相手の顔面に叩き込むのじゃ。容赦ないのう……。
会場もう静まりかえってしまっての、選手紹介の時も、勝負がついたときも、誰も声を上げず拍手も無く声援も無く、ただ観ておるのじゃ。キャロルももう蒼い顔して黙っておったわ。どの選手も同じ部活の者とかクラスの友人とかファンとかいるはずなのに、兄上と対戦すると、みんなもう医者に「今夜が山です」と言われた家族みたいな顔して見守るのじゃ。
決勝戦はトラスタンでの。用心深く距離をとっておったがやっぱり一瞬で叩き伏せられてしまって、気絶じゃの。わしはあんなにビビるトラスタン初めて見たわ。
キャロルから優勝カップを受け取っておったがの、拍手の無い表彰式って初めて見たわの。キャロルも「おめでとうございました……」とドン引きじゃ。
兄上の意図はわからんが、わざとそうしたことだけは確かじゃし、ま、なんか考えあってのことじゃろうて。
そうそう! 今年の文化祭の出し物、科学部の「熱気球」が優勝じゃ!
一番票を集めとったな。ていうか出し物に順位が付くなんて知らんかったわ。今年からキャロルが始めたのかのう?
「来年は二人乗りを作って、お客に乗ってもらいましょう! 俺たちも乗ってみたいし!」と言うとったがのうもう御免じゃ。
ヒマすぎるわ。
1029年10月1日 ナーリンより。
次回「兄上近況じゃ」




