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55.シルベリアからじゃ


 アーリャンからシルベリアまで乗合馬車はないのじゃがの、ちょうど街を出る商人夫婦がおったので、乗せてもらうことにしたのじゃ。

 わしが3級ハンターなので護衛じゃの。安い乗車賃じゃて。

 道中荷馬車の上で奥さんと二人でいろんな話をしたぞ。

 特に家庭料理をいろいろとな、勉強になったわ。

 二人、ささやかな幸せを楽しんでおるようじゃの。

 早く子供ができるとよいの。


 橋を渡るときに盗賊にとりかこまれての。

 前後をふさぐのじゃ、なかなかいい手じゃの。

 どうしようかのうとのんきに考えておると、奥さんが「なんでも言うことを聞くからこの子は助けてあげて!」と言うのじゃ。

 その時、盗賊が全員、いやらしくにやけおっての……。一瞬で全員この場で殺したほうが良いと判断したわ。全員で奥さんを辱めることなど考えた時点でもう野獣以下じゃ。

 死体は八人分、全部橋から川に投げた。


 わしが全員捕まえたら?

 引き渡した後何か手違いがあって一人でも世に放たれたら?

 その恨みはわしにではなく、この若夫婦に行く。

 また待ち伏せされてこの夫婦殺されるじゃろう。


 人間ってそうなんじゃ。強い者にかなわんときは弱い者に恨みが行くのじゃ。

 だから、全員殺さんとわしが安心できんのじゃ。

 なんか、切ないのう。人間って弱すぎるわ……。


 御夫婦はびっくりしておったが、「まあ、子供に見えてもわしは3級ハンターじゃ。仕事なのでお二人は見んかったことにしとくのじゃ」

 と、言って笑ってみせたがの。


 シルベリアは大きいだけで平凡な街じゃ。

 市場の街じゃの。作物の種類は王都以上かもしれん。小売じゃがの。

 さっき渡った橋、べリア川というのじゃが、そこで魚が獲れるのでの、魚市があるのが他の市場とは違うところかの。

 食べるのじゃから大きな魚しかないのじゃが、これ小魚取って煮干しにすると出汁にできるから特産にできると思うがのう。


 人間の食事情はの、腹をいかに膨らますか、食料をどのように保存するかが重要での、味付けにしか使わぬ作物を作るなど思いもよらぬという感じじゃの。

 魔族はそういうのに熱心じゃからのう。

 ショウガとかカラシとかワサビとか甘キビとかネギとか、ああいう「美味いから作る作物」というのはまだまだこちらでは贅沢じゃ。

 そんなもん作るぐらいなら小麦を作れという領主が多いのかの?

 農民に好きなものを好きなように作らせてやれば勝手に栄えるのに、理不尽な事よのう。


 この日は荷馬車に乗せてもらった夫婦の家にそのまま泊めてもらったのじゃ。

 一緒に市場も見て回れて有意義だったの。ほんと助かったわ。


 夜奥さんといっしょに料理をしたのじゃ。

 ポトフに使う鶏ガラがいいものを使っておる。

 生臭くなくてうまいのじゃ。ここの農村の鶏は放し飼いでの、健康なのじゃの。

 とっても上品な味になるのじゃ。覚えておこうかの。


 明日一日仕入れをしての、あさってはパルタリスに行くそうでの、また乗って行ってくれないかと頼まれたので、同乗させてもらうことにしたのじゃ。

 いろいろ手伝いなどもする予定じゃ。楽しみじゃの。


   1029年8月10日 ナーリンより。



次回「パルタリスにてじゃ」

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