54.アーリャンからの手紙じゃぞ
タスランの隣町のアーリャンは近いからのう。
乗合馬車は使わずに、歩いていったら、途中でガラの悪い奴に絡まれたのう。
野盗? 強盗だのう。
剣をぶんぶん振り回して金と荷物を置いていけというのじゃ。
物語とかでもよく出てくる場面じゃの。
さてどうするかの。これをどうするかでわしの器が知れるというものじゃ。
わしはこういうのを物語で読むたびに思うのじゃが、主人公はどうしてまず闘おうとするのかが不思議じゃな。そうしなきゃならん決まりでもあるのかの?
と、いうわけでわしはさっさと逃げたのじゃ。
「まて――!」と言うて四人で追いかけてくるから不思議じゃの。
狩りだったら逃げられた時点で勝負はついておるじゃろう。わからんのう。
いつも自分を鍛えておってわしを捕まえられるほどの甲斐性があるのなら野盗などやっておらんわの。逃げたほうが断然いいじゃろ。
ヘトヘトになるまで追いかけさせたあとでのう、わしが荷物から弁当を取り出して食っとるとまた追いかけてくるのじゃ。飯ぐらいゆっくり食わしてほしいわ。
また逃げての、それで何人か倒れてのう。
もう諦めそうになったのでの、ふところから金袋を取り出して、じゃらららと金貨を手のひらに落として見せると、これが死に物狂いでまた追いかけてくるのじゃ。
それでも諦めそうになるたびに、わしがわざとコケて見せて痛がったりするとまた追ってくるし、野盗などやるだけあってホントおばかじゃのう。
そんなわけでの、林の中を突きっ切ったりしていきなり次の街のアーリャン城塞門前に飛び出しての、そこの衛兵に、「こいつら盗賊じゃ!」と言って捕まえさせたのじゃ。全員、抜き身の剣を振りまわしておったから弁解の余地が無いのう。ヘロヘロになっておったし簡単に捕まったわ。
ハンターカードを見せて、「剣を振りまわして金と荷物を置いていけと脅されたので逃げてきたのじゃ」と説明するとまあそれだけで十分じゃったの。
「お手柄だよお嬢ちゃん」言うて衛兵みんなゲラゲラ大笑いしとったわ。
わしは逃げてきただけなので賞金もギルド貢献値も入らんがの。別にいいわの。
アーリャンは畜産が盛んじゃ。
チーズとバター、ヨーグルトが特産じゃの。市場で買えるぞ。
チーズというのはいろいろ種類があるのだの。
魔族に入ってくるものより実際は五倍以上種類があるのじゃ。
固いもの、柔らかいもの、いい匂いの物、クサいもの。カビが生えとるもの……。
カビじゃぞ? びっしり白いカビが生えとるのじゃ。
信じられんわ。
まあお国によっていろいろあるのはしょうがないわの。
わしらの国にも、最悪としか言いようない「納豆」があるからの。
あんなもん喜んで食う父上の気が知れんわ。
ヨーグルトはの、これ、甘くすればいいと思うのじゃがのう。
すっぱいわ。腐ってるのかと思ったわ。
我慢して食えば胃腸の調子も良くなるそうな。
ホントかのう?
この日の晩は木の上で寝ようとしたのじゃが、クマが来たので電撃で気絶させてやったのじゃ。
木の下にクマがへたばっておるので他の動物や魔物も近寄らんから安心して眠れたのう。
1029年8月8日 ナーリンより。
次回「シルベリアからじゃ」




