50.家庭料理じゃ
父上様、母上様。
魔族でおふくろの味と言うとなにかのう? やっぱり、肉じゃがかの。
再来月に次の炊き出し実習があるのじゃ。夏休みが終わっての最初の週じゃが、 今から何を作るか計画するのじゃ。
他の班はもう考えるまでもなくオートミールで決まりでの、そんなことより期末テストじゃとなるのが当たり前なのじゃが、わしと一緒に真剣にどうするこうすると考えるABCDT(Tはトラスタンじゃ)も妙な男どもじゃて。
ご馳走でなくていいのじゃ。今の浮浪者たちが子供のころ普通に食っとった普通の家庭料理、要するにおぬしらのばーさんが作ってた料理を出すのはどうかのと言うとみんな「ほ――」と感心しておったの。確かにうまい手じゃと言いよる。
父上のアイデアなのじゃがな。
「ナーリンは浮浪者が何を食べたら喜ぶかだけを考えてるところがすげえと思うよ。俺ら成績がとか順位とか手間とか、どーしてもこう、なんちゅうの? ゲスっぽいとこ考えちゃうからな」と言うのだがの、あたりまえじゃ。
元々これは浮浪者に喜んでもらうためにやるのであろうて。
市内に家がありばーさんが同居しておるとなるとトラスタンだけなのじゃ。
なのでトラスタンの家に行ってばーさんに料理を習うことになったのじゃ。
騎士の家系というても、意外に、普通の平民の家じゃったのう。
平均的な教会騎士というのはこんなもんかの。今までボンボンと言うて悪かったわ。
そりゃあもうおおさわぎじゃの。
トラスタンの母上は息子が女の子を連れてきたと大喜びじゃし、父上は魔王様の姫様が我が家に行幸あそばすなど光栄の至りと恐縮しきりじゃが内緒なのじゃ黙れとひと悶着起こったのう。
ABCDがちと遅れてきてよかったわの。
ばーさんは孫が嫁を連れてきたとずっと勘違いしておったがの、面倒なのでもうそれでいいわの。料理はポトフじゃ。
人参、キャベツ、カブ、ソーセージをスープで煮込むのじゃ。
スープは玉ねぎ、鶏ガラ、セロリと月桂樹の葉と塩で煮込んでおくのじゃな。
なんちゅう粗末で貧乏くさいのじゃと思うのじゃが、ばーさんの世代はこれが普通だったのだろうのう。「こんなのお恥ずかしいわぁ」と言うとったがの、それでも、元々塩味だけしかなかったこの国で、少しでも美味しいものを作ろうと考えられたものであることはわしにもわかる。
なんで今更こんな料理をと言うのじゃがの、「炊き出し実習で浮浪者に出すのじゃ」と何回説明させたらわかるのじゃここの家族は。
それぐらい、炊き出しはオートミールと相場が決まっておるのだということじゃの。わしはそういう固定観念こそを払拭させたいのじゃ。
そのことは今ではABCDTも理解してくれておる。
今ではわしの一番の理解者になっておくれておるABCDTが頼もしい。
わしの教育の成果じゃの。
鶏ガラは生臭くてちといかん。
王都ではソーセージはちと高い。
これはわしが何か用意しようかの。
1029年7月15日 ナーリンより。
次回「二年生の夏休みの予定じゃ」




