5.初めての授業なのじゃ
父上様、母上様、いよいよ今日から授業が始まるのじゃ。
遊びに来ているのではないのだからの。しょうがないの。
初めての授業。1時間目は数学じゃ。
先生がみんなの学習レベルが知りたいというので全員で一問ずつ黒板の前に出て問題を解かされた。
四則演算は全員できるのう。
平民の子は九九表、貴族のボンボンは計算尺も使う。どっちも父上の発明じゃがの。魔族では九九など子供のうちに丸暗記させられるがの、こちらではそれはやらずに表を見ながら解いても良いのじゃ。ぬるいのう。
面積、体積の計算。このあたりになるとあやしくなってくるのう。
幾何学は平民より貴族が得意じゃ。畑の面積など測って税を取るのに必要な知識じゃからかのう。
わしはどちらも得意じゃし、暗算でできるので普通に答えだけ書くとみんな驚いとったな。
ピタラコスに「やりすぎですナーリン様」とそっとささやかれたわ。
数学の先生のピタラコス、わざわざ魔界まで来て父上に学んだ人間の弟子のひとりじゃな。
わしが子供のころに机を並べて一緒に父上の授業を受けた間柄じゃからのう。共に数学を学んだ仲じゃ。
ピタラコスは確か円周率を自力で3.14159265まで計算してみせて父上を感心させておったのう。
数学・理科の授業はわしには退屈なものになりそうじゃ。
そうそう、ピタラコス、わしのクラスの担任じゃ。
文学は興味深いが難しいの。
文法もスペルもちと違うのだが、そもそも人間の物の考え方という奴が魔族とはいろいろ違うようじゃ。これは真面目に取り組まねばの。
歴史はツェルト教会の司祭が来てやってくれるぞ。
話を聞けば魔族も人間もお互い様なところがだいぶあるの。
愚かな歴史じゃ。わしらの世代でこういうことはもうやめねばならないのう。
理科は面白いのう! 実験が中心じゃ。
父上が発明した温度計が大活躍じゃ!
とは言っても、最初じゃから氷水が0度、沸騰水が100度、という程度じゃがの。
つまり氷水はどれだけ氷を継ぎ足しても0度、沸騰しているお湯は火力を上げても100度で変わらないということが知られておらんでの、そのことに驚く子供もおる。そこから教えるのかと心配になるほどじゃが、おいおいいろいろ学んでいくことになると思うぞ。
天文学も興味深いの。
これから毎日係を決めて、日時計に印をつけて太陽の位置を測るのじゃ。
そこから太陽と月の周期を導き出して、実際に自転と公転を学ぶらしいの。
生徒の半分は、まだ大地が丸いのだとか太陽が中心で大地のほうが回っているのだとかを信じておらん。
自分で測定してみるのが一番ということかの。
それにしても日時計、曇りや雨の日はどうするのじゃ。
そうそう、ホールにある、「フーコーの振り子」、バカな学生がぶら下がって遊んだせいでちぎれて落ちたわ。
せっかく父上が大地の自転を説明するのに作ったのに、だいなしじゃ。
母上はわしが学校の授業についていけるか心配しとったが、別にたいしたことはないぞ。安心してドーンと構えておれ。
午後の最後、魔法と剣術の授業があったわ。
こんなものまで授業でやるのかのう。まあ希望者だけなんで、わしは高みの見物じゃ。
兄上にも「目立つな」と言われていたんで、わしは魔法が使えないということにしておいたわ。魔法が使えるのは十人に一人程度。平民にはまずいないの。
魔法の先生、「あー、そういうことですか」と言って知らん顔してくれたの。
貴族のボンボンが偉そうに長ったらしい呪文唱えて魔法使っておったがの。あんなファイアボールではタヌキのヒゲがチリチリになるのがせいぜいだの。
剣術はの、おなごはやらん。
殿御だけじゃ。
つまらんのう。
この学園にはの、クラブ活動がある。
新入生の勧誘がうるさいの。
まあせっかくだからなにかに入ってみるかのう。
体育会系はいろいろ問題ありそうだし、文系にしてみようかの。
父上は、何がお勧めじゃ?
わしはのう、体育系ならハンタークラブ、文系なら演劇部とかやりたいのう!
1028年4月3日 ナーリンより
次回「クラブ活動じゃ」