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43.炊き出し実習でモツ煮込みじゃ


 親愛なる父上、母上。わしはちょっと困ったことになっておる。


 二年生になっての初めての炊き出し実習があったのじゃ。

 トーラスが孤児院をつくったおかげでの、街から浮浪児が激減したからの、今回から配給の列に大人も並んでよいことになったのじゃ。


 浮浪児ならぬ浮浪者だの。

 いい大人が働きもせずに日々怠惰に過ごしておる、というようにわしには見えるが、人間社会では一度落ちぶれると這い上がるのが難しい。汚い身なりではそもそも職業に就くのが大変じゃ、と、いうのは先生の受け売りじゃがの。


 大人向けじゃからのう、なににするかと考えたのじゃが、前にブタ汁の作り方を作文にしたこともあるからの。それにしようかと思ったのじゃが、ちと予算オーバーじゃ。


 二年にもなると班のメンバーもわしには協力的なのじゃ。

 わしの言うとおりにしておればいい点もらえるということがわかったであろうからの。まあトラスタンのように、「ナーリンの料理はうまいからな」と言ってもらえると少しはやる気も出るというものじゃ。


 というわけでモツ煮込みじゃ。

 トラスタンと一緒に肉屋に行ってモツを買いに行くとの、わしがいつもギルドにイノシシを卸しとるハンターだということを知っておってな、「あんたがナーリンなのか」と驚いとったわ。こんなちんまいお嬢ちゃんだとはしらんかったというてのう。

 渋いものを食うのうと言われての、炊き出し実習じゃと言うと二頭分まるまるタダでくれたのじゃ。縁があるというのは嬉しいのう。

 おかげで野菜だの他の材料にかなり金を回すことができたのじゃ。


 モツを調理するのはモツを洗うのが一番大変な仕事じゃな。

 ぐちゃぐちゃの内臓じゃからのう平民の子らはぎゃーと悲鳴を上げるのじゃが、トラスタンは顔を蒼くしても作業は淡々とちゃんとするのじゃ。

 助かるわ。

 前の晩から水煮しての、朝からいよいよ調理じゃ。野菜を買ってきて刻むのはABCDの仕事じゃの。なんでもやるようになってきたのう。


 仕上げに味噌を入れるとき、「それって魔物のウンコだろ!!」とABCDが大騒ぎじゃ。

「魔族大使のチャプティルティーラスさんがあれはデマだと説明していただろ」とトラスタンが言うのじゃ。よう覚えとったの、あんな長くて舌を噛みそうな名前……。というかABCDは講演の間寝ておったのかの?

 Bが「ナーリンってホントは魔族じゃねーの?」と言ってゲラゲラ笑っておったがの、そういえばここまで全部魔族料理しか作っておらぬの。

 次回は違うのも作ってみるかの。


 身なりが汚くていい大人、年寄りがずらりと並ぶ様子は異様じゃ。

 どうしてここまで落ちぶれてしまったのかの。

 子供相手の時は、それでも喜ぶ子供たちの相手をするのが楽しかった。

 相手がわしより年上の大人に施しをするというのは胸が苦しくなるわ。


 目がどんよりしておる。

 腹を膨らませられれば良いとばかりに列の短い所にさっさと並ぶ奴が多いのじゃ。せっかくわしらでモツ煮込み作って旨そうな匂いさせておるのに、オートミールの鍋の前と列の長さが変わらんのじゃ。


 結果、今回は炊き出し実習をやって初めて一番になれなかったのじゃ。

 食ったこと無いものなど食いたくない。いつものオートミールでよい。今よりちょっといいものを食べるために働いたり、身を立てたり、這い上がろうとする気力さえももうないのじゃ。

 食い物の列、隣のほうがうまそうなのに、並びなおすのが面倒と考える。

 それが浮浪者じゃ。


 終わってから班のみんなで考えたわ。

「これうまいのにさ……」

「匂いもいいし、野菜もいっぱい入っていて見た目もうまそうだよな?」

「俺だったらどんなに列が長くても喜んで並ぶけどな……」

 実際、子供の浮浪児はみんなわしらの鍋に並んどったのじゃ。

 役人が来て、一人ひとり名前を聞いておったからあれも孤児院に入れるよう後で手配しておっただろうがの。


 そんなわけでの、クラスでは、浮浪者はオートミールでよい。凝った料理は必要ない、ということになり、次回からみんなオートーミールに戻ってしまいそうな雰囲気なのじゃ。あまりいいこととは思えないのう。


 浮浪児対策はなんとかなるのじゃ。相手は子供だからの。

 浮浪者対策はどうしたらいいかわからんわ。相手は大人なのだからのう。


「がっかりすんなナーリン、次回は頑張ろうぜ」とBが言うのじゃ。

 あの口の悪いBがのう。

 ACDもそう言って笑うのじゃ。


 ちょっと、いい班になってきたかもしれんのう。



 落ちぶれた大人がやる気になるような、なにか美味い料理はないかのう?

 父上も、母上も、そんな料理、何か知らんかの?


   1029年4月25日 ナーリンより。



次回「父上、襲来」

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