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39.二年生なのじゃ


 親愛なる父上様、母上様。


 時の過ぎるのは早いものじゃ。あっという間に一年経ったわ。

 わしももう二年生じゃ。

 兄上もキャロルも順調に三年生になったしの。

 来年には二人とも卒業かの……。一緒に学校にいられるのはあと一年だけなのじゃ。そう考えるともっと二人にかかわっていたほうが楽しかったかもしれないの。

 わしもちょっとキャロルに冷たすぎたかもしれん。

 今度抱き着いてきたらあの乳でも揉んでみようかの。


 二年生になってもクラス替えは無しじゃ。クラスのメンバーも、班分けも変わらん。ちっとつまらんかもしれないのう。かわったのは教室だけじゃ。

 わしはクラブにも部活にも入っておらんのでの、先輩も後輩も無いからの。

 考えてみると惜しかったのかもしれないの。

 新入生も入ってきて、「先輩が――」とか、「後輩が――」とか言う友達の話を聞いてちっと羨ましく思うのじゃ。まあクラブや部活をやるのはボンボンだけじゃ。

 平民の子はバイトが忙しいからのう。


 新入生に見知った顔はおらなそうじゃの。

 わしをびっくりさせたかったと言ってこっそり魔族の新入生でも入ってくるかと思っとったが、そんなことはなかったの。

 好き好んで人間の学校などに入りたがるやつもおらんということかのう。


 三年生だった者は卒業じゃ。新設校なのでの、この学園初の卒業生ということになるのう。三年の知り合いはおらんのじゃが、貴族は実家に帰り、よいとこのご息女は花嫁修業、平民の子は家業や職人のもとで修行、城に召し抱えられるものも少しじゃの。「就職」というやつじゃ。

 わしはどうするかのう。

 卒業したら、とりあえず母上の手伝いじゃな。

 友人には、家業を手伝うと言っとけばいいのかの?

「家事手伝い」と言うそうじゃ。

 そう言ったら気の毒そうに見られたわ。

 嫁に行き遅れる確率が非常に高い職らしいのう。大きなお世話じゃ。


 わしの隣のトラスタンがの、真剣な顔して放課後「話がある」と言うのじゃ。

 これはあれかの。たぶんあれじゃの。


 体育館裏で待ち構えておったのう。

「やっと正体を言う気になったのかの?」と言ってやったら驚いてたの。

「何だというんだ?」と言うからの、「おぬしツェルト教会かなんかの回しもんで、わしを監視する係じゃろ」と言ったら愕然としとったわ。


「なぜわかった?」と言いよる。


 そりゃわかるわの。

「おぬし見た目は貴族じゃ。じゃが貴族じゃないなら騎士の家系じゃ。使う剣はツェルト教会の反りの無い片刃剣、教会騎士じゃ。わしが魔族料理を『わしの国の料理じゃ』いうても知らん顔じゃし、炊き出し実習でキャロルが来ても動ぜず、トーラスが来ても驚かず、同じ班なのにわしと全く口もきかんくせにいつもそばにおる。なにか目的あって命令でわしのそばにおるのだとしたら他の理由が考えられぬわ」


「まいったな……」

 苦笑いしよる。簡単な話じゃのにのう。


「誰の命令かの?」

「ツェルト教会騎士の父の命令だ。父の命令はすなわち教会の命令。正確に言うと監視じゃなくて護衛だが」

「わしに護衛の必要があるのかの?」

「それを試したい」

 そう言って、練習用の刃引き剣を抜いてちゃきりと刃を返すのじゃ。


「俺の名はトラスタン・ジョーンズ、俺の父は、ハウエル・ジョーンズという。お前の母に十八年前、武闘会の準々決勝で敗れた騎士だ」

「聞かなかったことにするの」

「結構」

「これでお相手させてもらうがいいかの?」

「十手か」

「参れ」


 剣を絡めて手首ひねってもぎ取ったわ。あっさりすぎじゃ。


「……確かに護衛はいらんな」と言って手を押さえておったのう。

「自信あったんだけど、こんなに差があるとは思わんかった」

「学園で準優勝程度じゃのう」

「まいった。父上にもそう言っておくよ。今日からただのクラスメイトだ」

「そうしてほしいのう。毎日隣であんな顔じゃかたっくるしくていかんわ」

 

 と、いうことがあったのじゃ。

 フツーの、クラスメイトの友達が、一人増えたのう。


   1029年4月1日 ナーリンより。



次回「生徒会会長選挙じゃ」

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