38.ハンターカード更新じゃ
父上、母上、ハンターカードの更新をしておるかの?
とっくに忘れておるであろう。まあ、父上にも母上にももう不要であろうがの。
わしがハンターになったのは去年の4月じゃからの、今月中に更新をしなければならんのじゃ。学生枠だからの、更新手数料はいらんのじゃが、わしは去年3級に昇格しておるので講習を受けねばならんのじゃ。
ひよっこもいいとこで、まだまだド素人扱いされておるということだのう。
3級はの、仕事で護衛とか犯罪者の確保とかができるようになる。犯罪者と向き合うことになるのじゃ。
なので、この国の法を学ばねばならんのじゃ。
驚いたのはの、野盗、強盗の類はその場で殺して良い、ということじゃの。たとえば馬車を護衛していて野盗十人に絡まれたとする。これを叩きのめして縛り上げても、連行しようがないわけじゃ。
馬車隊など別に野盗強盗の分まで水や食料を持っておるわけないし、もちろん座席など無い。歩かせれば馬の脚が落ちるし、相手も死に物狂いでいつでも逃げ出そうとしているし、隠れておった仲間がおればとり返そうと付け狙うわけじゃから護衛の負担も重くなる。一晩中見張らねばならぬし気を抜けば逆襲される。なので捕まえるとより危険が増すだけじゃということじゃの。
これはハンターと護衛対象の安全のための決まり事じゃ。
なので、ハンターギルドでは生きてとらえた場合と死体で持ってきた場合で賞金が違う犯罪者の取り締まりは引き受けておらぬ。生きてても死んでても賞金は同じじゃ。同じなら、誰でも殺したほうが良いから、そりゃあ殺すわの。
つまり野盗強盗指名手配犯はハンターに負けた時点で死刑確定じゃ。
十数年前のこのハンターギルドの果断な決定により、野盗強盗に逆襲されて命を落とすハンターも、野盗強盗そのものも激減したそうじゃ。
生かして連れて行こうなどと一切考えてはいかん。それは自らの身を危うくし、護衛対象や地域住民の命さえも危うくする、としっかり注意されたのじゃ。
野盗強盗は、人食いグマやオオカミや魔物と、同じ扱いじゃの。
大昔は、犯罪者を犯罪奴隷に落としてコキ使う、ということもやっておったのだが、元が犯罪者じゃし、親方を殺して集団で脱走したり、刑期を終えて解放された犯罪者が自分を逮捕した関係者や通報した被害者に復讐したりとより犯罪が増える結果にしかならなかったので奴隷制度そのものがこの国にはないのじゃ。
刑務所というやつも作ってはみたが、盗みかっぱらい詐欺汚職だけで満員になってしまい、とても維持できぬ。
なので重犯罪者はその場でぶっ殺すほうが良い、ということになっておる。
うーん……、まあ郷に入っては郷に従えとなるのかの。
魔族では先々代魔王の時だったか、奴隷を撤廃したのう。
もう三~四百年前になるか。
先々代魔王も先代魔王のじじ様も、魔界統一を掲げておった。
戦争に勝って奴隷を手に入れる、負けたら奴隷にされる。
これでは戦争がいつまでたっても決着せん。
「わしに負けても奴隷にはせん」と宣言しないと、相手がいつまでたっても降参しないからの。魔族の数が減るだけじゃ。
じじ様が負かした魔族を酒とご馳走でもてなして、戦争なんてやめたほうが良いと説いたのは有名じゃ。魔界で食い物がうまい理由のひとつじゃの。
魔族は世界がちっちゃいからかの。村のみんなならもう顔見知りじゃし、盗みもかっぱらいもやらんからのう。そういうことをするのは「卑怯」であり、卑怯なことは「恥」じゃ。魔族はみんなそういうことが大嫌いじゃからの。人間で言う「犯罪」というやつが少ないのう。
まあ、悪い奴がおったら、みんな母上がぶん殴って説教して終わりじゃ。
そこは、魔族のほうが、よくやっておるとこかもしれんな。
人間はの、人が多すぎるのじゃ。
わしから見て人間のうまくいっとらんところの理由はほとんどそれじゃの。
犯罪者も、浮浪児も、浮浪者も、
威張り腐っておる貴族どもも、
人が多いせいで、なにごとでもてっぺんと、底とで差がありすぎるのじゃの。
底のやつはいてもいなくてもいいやつなのじゃ。命の価値が軽いのじゃ。
どうにかならんかの。
1029年3月28日 ナーリンより。
次回「二年生なのじゃ」




