36.シルビス無双じゃ
敬愛する父上様。
今日またシルビスが来たぞ。
いつもいきなり魔法陣と共に部屋に現れるのだからの、心臓に悪いわ。
要するにモーガン教会が勇者召喚をしようとしておるらしいということじゃの。
勇者召喚するには、魔石を集めて、教会特製の魔法陣描いて、術者が集団で儀式してやるそうじゃの。
落ち目じゃし、ここで一発逆転を狙っておるということかの。
今更勇者など召喚して、どうやって魔王を倒せと説得するのかのう?
教会や貴族はともかく、街の友好ムードというか市民がみんな和平を歓迎しとるのはちょっと街に出て話を聞けばわかることなのにのう。
父上に頼まれたというシルビスがモーガンの賢人会館に連れて行けと言うのだがの、あんな二本足で歩くアライグマ連れていったら目立ってしょうがないわ。
教会の連中が見たら魔族じゃ思うてなにしてくるかわからんしの。
二人で考えたんじゃが、わしのハンターのリュックに入ってもらって、背負って運ぶことにしたのじゃ。シルビスは不満そうじゃったがしょうがないのう。
首輪をつけてひもつけて裸で四本足で歩かせるよりいいじゃろて。
アライグマの散歩じゃいうてな。それも無理があるかもしれんの。
それで、街を歩いての、賢人会館の門の前で座って休むふりしての、リュックをおろして、そのすきにシルビスがリュックから頭を出して、魔法陣を見えないように展開するのじゃ。これを賢人会館の正門、裏門、西口にかけたのじゃ。
なにをやったのか聞くとの、「召喚された人が踏むと強制的に召喚解除する術式」というのじゃ。
つまり、賢人会館で召喚された勇者がの、一歩でも外に出るとびゅんっと元の世界に戻ってしまうのじゃ。
シルビスも容赦ないのう……。
せっかくなのでの、一日中シルビスと街を見て回ったぞ。
リュックの後ろからコッソリ顔を出しての、屋台を指さしてあれが食べたいこれが食べたいとうるさいのじゃ。リュックの中からわしの背中をばんばんつつくのじゃ。寮に帰るまでにリュックが1カロンは重くなったわ。
プルマールのベーカリーのケーキ、好評じゃったぞ。
寮に帰ってから二人でお茶して食べたのじゃ。
「甘いものは別腹」と言っておったがの、一日中甘いものしか食べてないわ。
あれは太ってきておるぞ。持ち上げてみれ。わかるから。
魔族にはいっぱい種族がいるからの。もう何年かすれば、この街も魔族が歩き回ってるのが普通になり、シルビスがいても誰も気にせんようになるじゃろうな。
そんな未来が来るといいのう。
1029年2月12日 ナーリンより。
次回「モーガン教会その後じゃ」




