3.入学式じゃ
入学式じゃ!
父上も母上も、娘の晴れ姿見たいであったろうの。
しかし、母上が学園に来たらおおさわぎじゃ。しょうがないの。
入学式でのトーラスの挨拶、ふるっておったぞ。
「ここでは貴族と平民の区別はせぬ、誰もが同じ環境で同じ学問を学ぶのだ。君たちは一生のうちでこのような機会を得られることはまずないであろう。貴族は平民の友を作れ、平民は貴族の友を作れ。共に学び、共に遊び、共に成長せい。願わくば卒業後も、ずっと友であれ。身分を越えてお互いの視野を広げよ。それがいつかは国のためになる」と言いおった。
国王がそんなこと言っていいのかのう?
まあ、いいんじゃろう。トーラスもずいぶん父上にかぶれてきたの。
トーラスはいつもわしを見ると駆け寄ってきて抱き上げて髪の毛をくしゃくしゃになるまでなでまわしてくるのが苦手な男じゃが、この学園では特別扱いは無しじゃ。
あれは我慢をしておったの。
わしのほうをチラチラ見ておったわ。笑えるの。
教室は一年A組じゃ。ハイスクールというやつかの? 十五歳じゃからの。
1クラス三十人もおるのじゃが、こんなクラスがE組まで五つもある。1年生から三年生までじゃから四百五十人も生徒がおるのじゃ。
こんなにたくさんおんなじ齢の子供がおるというのはやっぱり人間ならではというか異様な光景じゃの。
魔族の学校というと種族も年もごちゃごちゃで自分が習いたいものを習いにくという感じで分けとったからの。人間の人口が魔族の8倍もあるというのはやっぱりすごいのう。
自己紹介では「公平に」ということで家名を名乗るのは厳禁じゃ。
一目で貴族とわかるボンボンがフルネーム名乗りそうになって先生に注意されとった。
まあ名乗られなくても一目見ればわかるがの。貴族という奴は見ればわかるの。
みんな、背が高く美男美女じゃ。
いい暮らしをし、いい血筋だけで結婚をしておれば子供もそうなる。
この中ではわしはチビじゃし、髪は黒くてもじゃもじゃじゃし、そう美人というわけでもないからの。フツーの平民じゃ。
「ナーリンと申しますじゃ。三年間よろしく頼むのじゃ」と言ったらクラス中に爆笑されてしまったの。どんなド田舎から来たんだよとか言われたのう。
まあ魔界はこちらから見れば田舎じゃろうな。別にいいがの。
右隣の席はプラルという女の子じゃ。「平民どうしなかよくしましょっ!」とか言われたわ。さっそく身分をバラしてよいのかの?
左隣はトラスタンという金髪碧眼の美男子じゃ。
挨拶しても口もきかん。気位の高い男じゃの。まあ貴族じゃの。
平民ごときとは話もせんというわけかの。父上も言うとったが、まあこの国じゃあ貴族という奴はこれが普通かのう。
一通り説明が終わってから、学園内を見学ということになったわ。
やっぱり、なんだかんだ言って学生が貴族と平民にグループが分かれてしまうのはしかたないかの。貴族どうし、さっそく貴族風に優雅に挨拶し合ってお互い腹の探り合いじゃ。元々知り合いの者も多いようじゃ。
国王肝入りのこの学園を優秀な成績で卒業して国王の覚えめでたく、将来安泰、というのが貴族爵子の目標になるのかの。
体育館で兄上を見かけたぞ。
ちょうどバスケットボールやっておったわ。
「貴之のことを見かけたらどうしておるか報告せい、あいつは手紙など書かぬからの」と母上が言っておったから報告すると、まあうまくやっておるかの。
バスケット役をしておってうろうろしてたわ。
……こっちのバスケットボールはちょっと間違って伝わっておるのう。
かごを背負ったゴール役が敵から逃げ回るのじゃ。
狙いが外れると敵からボールをぶつけられるので損な役じゃな。
兄上も、敵チームにさんざんボールをぶつけられては笑われておったの。
妹として情けなく思うのじゃが、しかたないかの。
バスケットボールごとき兄上にかかれば体育館もろとも吹き飛ばすこともできようが、それをしとったら学園が亡ぶからの。
まあ、上手に人間のふりをしておると言っておけばよいのかのう。
わしのほうをチラと見て笑いおった。
兄上のほうは心配無しじゃな。
学食じゃが、魔族料理の味付けはずいぶんこちらでも普及しておる。
見た目は人間の料理なのじゃが、調味料に魔族風がだいぶ入っておる。
わしでも違和感なく食べられるわ。
それでも、おいしい!おいしい!とびっくりしておった子が多い。
普段どんなものを食べてるんじゃ。
貴族のやつでさえそうなのじゃ。
この国の食い物はまずいとは聞いておったが、学園に関してはそうでもないの。
ここで味を覚えた生徒たちが、あれは実は魔族料理、と聞いて広く広めてもらえるのが期待できるのう。醤油の売り上げも伸びそうじゃ。
隣の席のプラルも喜んでおった。首都を離れるとまだまだ口にできぬ味かもしれぬの。
午後、教科書を山ほどもらったぞ。
これを全部学ぶのかと思ったらうんざりだの。活版印刷を広めた父上に少し恨み言じゃ。
パラパラとめくってみた感じでは、数学、理科はまだまだレベルが低いのう。
父上の数学、物理のレベルには程遠いわ。
語学については充実しておる。教科書に採用されるような物語、やはり読めば面白い。母上が芝居好きだからわかるのじゃが、人間の作り出す物語というやつは実に多種多様で豊富じゃ。
これだから読み書きができるというのは素晴らしいことだと教えていかねばならぬのじゃ。学園には図書館もある。目もくらむような本の山じゃ。
これがあれば一生退屈しないのう。
魔族に伝わっておる言語とは少し違うが、元は同じ古代文字からじゃ。まあわしにも不自由なく読めるのう。紙が本格的に普及する前の羊皮紙が半分じゃの。
科学については父上のおかげで魔族のほうが少し進んでおるが、文学、芸術に関しては圧倒的に人間のほうが上じゃ。これは認めねばならぬのう。
夜になって寮でプラルが友達を連れてきてわしの部屋で話したぞ。
同じ平民同士で仲良くなったらしいの。プラルと同じ村の子供もおるようじゃ。
村の学校で成績優秀な子らを推薦でここに入れてもらえるとのことでの、いっぱい勉強したらしい。
「どの村から来たの?」と聞かれて答えに困ったわ。
明日は休みじゃからの、みんなで一緒に街に出かけることになったわ。
楽しみじゃの。
1028年4月1日 ナーリンより父上、母上に敬愛を込めて。
追伸
夜、兄上が部屋に来たぞ。
と言っても女子寮は男子禁制じゃからな、この手紙を書いておったら窓に張り付いておったわ。
ここ三階なのじゃが。
「目立つなよ?絶対目立つなよ?」とくどいほど念を押して帰っていったわ。
目立たないコツでもあるのかと聞いたら、わしには「腹を立てずに、穏便に」と言うとった。そんなにわしいつも暴れておるのかのう?
わしは兄上とケンカして負けたことが無いが、本当は兄上のほうが強いことはちゃんと知っておる。そりゃあもうケタが違うぐらいにの。
兄妹というのも、しばらくは内緒かのう。
ちと、さびしいのう。
次回「買い出しじゃ」