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28.読書の秋じゃ


 敬愛する父上様、母上様。

 勉強の話が最近サボり気味じゃったのう。ちゃんとしておるぞ。安心せい。


 秋の間はの、ちとヒマじゃ。

 農民は収穫に大忙しなのじゃがのう。学生という奴は行事も無くテストも無く一息つける時期なのじゃ。毎日本ばかり読んでおる。


 先生に勧められたもので読んで面白いと思う物はあんまりないのう。

 長いのを我慢して最後まで読んでみると登場人物全員死んでしまって「なんじゃこりゃー!」と本を投げ出したくなるようなものが多いのじゃ。

 こんなもん読んで何が面白いのかのう。


 人間はの、悲劇が好きなのじゃ。

 悲恋の話が大好きなのじゃ。

 これはなかなかわしにはわからん。

 人の不幸話など読んで何が面白いのかの。


 「ロメロとジュリエッタ」など主人公が二人とも自殺してしまうのじゃぞ?

 信じられるかの? なにがあろうと生きとったほうがずっとましじゃと魔族なら思うじゃろ。連れ合いが死んだら愛する者の分まで生きるのが役目と思うのが魔族じゃろ? どうなっておるのじゃ人間は。

 「フランタースの犬」など保護者の爺さんが死んだ主人公がの、誰も面倒見てくれんくて犬といっしょに凍死するのじゃ。そんな子供をなんで放っておくんじゃ。村人はみんな悪鬼かの。

 魔族だったらすぐに誰かが養子にしてしまうじゃろ。ありえんわ。


 主人公がちゃんと最後に幸せになるような話は無いのかのとプラルにも聞いて教えてもらったのが「ちいさなプリンセス」なのじゃ。

 金持ちの親を持つ娘がいい学園に入ってお姫様扱いされとっての、その金持ちの親が死んで学園でメイドにまで落ちぶれて毎日いじめられてたのに、その親の友人の金持ちが現れてまた金持ちになってみんなを見返すという話じゃ。

 金、金、金じゃ。貧乏人は不幸せで金持ちは幸せなのじゃ。

「不幸にも我慢して耐えた主人公が、幸せを掴むのが素敵」とプラルは言うがの。幸せってそういうことかのう?

 魔界にいたときはあまり気にもしておらんかったがの、人間の世界は貧富の差というやつが極端じゃ。宝石で着飾る貴族がおる一方でその日の食い物にも困る浮浪者がいるぐらい差があるのじゃ。わしは母上が宝石だの金銀財宝だので着飾っておるところなど見たこと無いわ。そんな金があったら水汲み風車の一つも建てるじゃろ母上は。人間は金の使い方がおかしいのう。


 勇者の物語はの、まだ読んでおらん。

 魔族がみんな悪者にされとるに決まっとるからの。読めば腹立つに間違いないからの。読む気にならんわ。


 わしはのう人間だったら誰でも知ってるような話を知らん。

 みなの話に入っていけぬことが多々あるのじゃ。

 だから教養としての、最低読んでおかなければならん名作というのがいっぱいあるのじゃ。つまらなくても我慢してそれを読むのじゃ。

 それも人間を学ぶということなのかもしれないのう。 


 不幸な話を読んで自分よりまだ下がおると安心し、金持ちになる話を読んでいつか自分もそうなりたいと夢見る。それが人間なのかのう?

 普通に家族と一緒に暮らせて幸せ、なんて話はないのかの?


 ……それはそれで、つまらなそうじゃの。

 面白おかしい笑い話でも探してみるかの。


   1028年11月25日   夜更かし気味で眠いナーリンより。



次回「期末テストじゃ」

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