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26.炊き出し実習で牛丼を作るのじゃ


 親愛なる母上へ。


 わしの手紙のどこをどう読んだらそうなるのじゃ。

 わしは「劇で主役をやる」などと一言も書いておらんではないかの。

 勝手にがっかりされても困るわの。

 外交の国事行為をそんな私的な理由で日程決めることは厳に慎まねばならんであろう。父上が忙しくなるわ。

 はげてからでは遅いぞ。トーラスのようにな。



 ハンタークラブの連中からな、売上じゃいうて銀貨5枚をもらったのじゃ。

 まあそれについては何も言うまい。約束じゃからの。

「ハンタークラブに入ってくれ」としつこかったがの。

 面倒なので逃げたのじゃ。

 わしに追いつけるようになれば考え直してやってもいいがの。


 早いものでもう二回目の炊き出し実習じゃ。

 班長のDがなににするかなににするかとうるさいのじゃ。

「ナーリンさんがなにもしないならオートミールになっちゃいますよう」と言うのだがのう、先生が「他の班から抗議があって、他の班でもやろうと思えばマネできるような内容にしてくれませんか?」と言われてのう、肉を獲ってくるのはちと卑怯じゃったかの?


「じゃあ皆のものにもちと苦労してもらおうかの」ということで牛丼を作ることにしたのじゃ。

 ミルティーの店で使わない牛すじ肉と米を銀貨四十枚分でもらっての、ついでに一番でかい圧力鍋も借りてきたのじゃ。

 これを前の晩からしょうが汁で煮込むのじゃ。 

 ABCDには交代での、一晩中徹夜で火の番と水の継ぎ足しと灰汁すくいをやってもらったわ。これぐらいはやってもらわねばの。

 朝になって、煮あがった牛すじ肉を薄切りにして、醤油、砂糖、みりん、すりおろしたしょうが、にんにくで味付けして葡萄酒も一本入れての、フタをして本格的に圧力鍋で煮込むのじゃ。

 最初は凄い匂いだったのが、だんだんいい匂いにかわっていくのじゃ。

 うん、楽しみじゃのう。

 ABCDはの、「本当に食べられるものができるのか?」と不安そうじゃ。


 それから貧民街に移動して、今度は米じゃの。

 男どもにわっせわっせと米を研がせての、例のカーリン鍋で焚き上げるのじゃ。

 ふたをして重しを載せて、はじめちょろちょろ中パッパとわしがファイアボールで火力を調整じゃ。

 途中でトラスタンが銀貨十枚で市場から買って背負ってきた玉ねぎを大きくきざんで牛丼の鍋に追加しての、あとは出来上がりを待つだけじゃ。


「あー! ジャガイモのお姉ちゃん今日はなに――? 今日はなに――?」と子供たちが集まってきたのじゃ。

 いくらなんでもジャガイモのお姉ちゃんはないじゃろう……。

 もうすこし呼び方というものをじゃの……。


 圧力鍋がしゅるるるるると湯気を吹いておるのが面白いらしいのう。

 この圧力鍋も父上の発明じゃ。次から次へといろんなものを考えるのう父上は。

 今日は圧力鍋もご飯も、フタをして調理しておるから何を作っておるのか子供たちにはまったくわからん。


 他の班はの、この前のことで少しは工夫せんとわしらに勝てん、手を抜いておったら王室に覚えが悪くなると思ったようじゃの。肉無しの野菜の塩煮など作っておるわ。肉じゃがにはほど遠いがの。


 十二時の鐘が鳴って、配給開始じゃ。

 今日はわしらの鍋の前にならんどるやつは前ほど多くないのう。

 フタを取ると湯気がぶわっと出ての、匂いが周りに広がるのじゃ。

「さあっ、牛丼じゃ」

「ぎゅうどん――――?」


 子供らの椀に飯をよそっての、肉汁をかけて、牛丼じゃあ!


「うえー……」

「なにこれ……」

「えええ……」


 ……反応薄いの。

 確かに牛丼は見た目最悪じゃからの。どこからどうみても豚の餌じゃ。

 恐る恐る食いだしたがの。


「うめえ――――!」

「こんなの初めて食べた!!」

「すげえ――!」

 大好評じゃ。食えばわかるわ。

 ABCDもの、小皿にちょっと盛って食ってみておるが、「うまいよ! これ!」と言いおった。

 硬くて食えぬすじ肉も、一晩煮て圧力鍋でさらに煮ればとろっとろに柔らかくなるからの。手間はかかるが安くて栄養のあるおいしい飯じゃ。


 子供を取られたエーリスが怒り顔でつかつかと歩いてきての、牛丼を見るなり、「なによこれ! ブタの餌じゃないの!」と言いおった。

「馬の餌よりましじゃろうて」と言い返すとの、「オートミールは立派な主食よ! それしか食べられない人だって多いのよ! オートミールを馬鹿にすることは許さないわ!」

「ブタの餌は馬鹿にしてもいいのかの?」


「早くしてもらえるか?」


 ……今度はトーラスかの。


 薄汚い労働者の服を着て、もじゃもじゃのカツラをかぶった国王、トーラス陛下が浮浪児の列に並んでおった。

「……なにをしておる」

「ナーリンちゃんの料理が食べられると聞いて」

「よりによってこんな時にこんでもよかろうて……」

「米の飯は余も大好物だ。かの国に行った時しか食べられん。さ、頼む」

 ……飯をよそうトラスタンの手がさすがに震えておるわ。


「ちょっとそこのオジサン! 今日は浮浪児に施しの日よ! 大人はダメよ!」

 怒鳴るエーリスをなんか黒服が引きずっていったのう。

 トーラス、もしょもしょと立ったまま下品に食いおったわ。

「うーん、うまい! このとろっとろの肉がまた不思議だ。どうしてこんなふうにできるのか……。料理については余らはまったくかなわんのう」

 全部食って満足げに笑いおったわ。


「ご馳走様だ。ナーリンちゃん。次を楽しみにしておるぞ」

 また来る気かの!!

「もう来ないでほしいのう……」

「子供たちの数が増えておる」

 トーラスが見まわして言うのじゃ。

「配給と言ってもな、オートミールじゃバカにして寄り付かん浮浪児もいる。市内にどれぐらいの数の浮浪児がいるか今までわからなかった。だが美味い物を出すと評判になると一人残らず寄ってくる。今役人に数えさせておる。これで浮浪児対策の具体的な計画が立てられるというものだ。礼を申すぞナーリンちゃん」


 にやりと笑ってふらふら歩いていってしもうたわ。

 トーラスもほんと食えぬ男よの。


 牛丼を食う子供の椀を他の子がちょっとつまんで、にっこり笑ってわしらの鍋の前に並びなおしておる。

「うめえ――!」

「肉? これ肉?」

 あちこちで歓声が上がっておる。

 大好評じゃ。


 今回も、わしらの鍋が一番になくなったのう。

 米の飯はうまいのじゃ。この街の子供たちにも、ちゃんと伝わったぞ。

 しかし手間はちょっとかかりすぎたの。次はもうちょっとなんか別のやつにしたいのう。

 母上、なんかいいものがあったらレシピを送ってほしいのう。


   1028年10月16日   ナーリンより。



次回「冬物衣料を買うのじゃ」

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[一言] >いくらなんでもジャガイモのお姉ちゃんはないじゃろう……。 毎日顔を合わせるクラスメイトをABCD呼ばわりする奴に言われたくないな
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