25.文化祭じゃ
母上、何を考えておるんじゃ?
朝、先生に言われたわ。
「今日は、明日行われる主席会議に出席する魔族の魔王様がこの学園にも視察で参られます。クラス一同わが国の名誉にかけて全力を尽くしますようお願いします」と。
わざわざ日程まで合わせてそんなに観たいものがあるのかの?
文化祭の出し物じゃがの、王女役のエーリスがの、トラスタンにダメ出ししおって役がかわっての、別の貴族男がやることになったわ。エーリスが自分で兵士役に指名しとったくせにそれはないであろうのう。まああのだんまり男がまたセリフが全部棒読みじゃしさすがにアレはダメということになったのじゃがな。
わしは王女付きのメイド役をおしつけられたのだがの、用事が出来たのでプラルに代ってもらったわ。
ま、セリフが「おやすみなさいませ王女様」の一言じゃから誰がやってもおんなじじゃ。プラルも劇とはいえ何が悲しくてメイド役などとぶつくさ言ってメイド服に着替えておったがいつも宿題を見てやってるのだからたまには恩を返せと言ってやったの。
気位の高いエーリスのことじゃ。どうせわしをメイドにしてあれこれ命令してみたかったのじゃろうのう。そんなことは願い下げじゃ。
用事と言うのはの、ハンタークラブという実際にハンター仕事をしておるクラブがあるのじゃが、そこの上級生に土下座されて「イノシシを一頭獲ってきてください!」と頼まれたのじゃ。
なんでも文化祭にな、獲ってきたイノシシの解体ショーをやって焼肉屋をやる予定がの、どうしてもシシが獲れんくての、ハンターギルドに相談したら「そちらには毎週イノシシを一頭持ってきてくれる生徒さんがいますよ」と言われて半信半疑でわしのところに来たそうじゃ。
あまりにも情けない話での、わしもちとむかっ腹が立っての、「わしはプロのハンターじゃ。タダでは仕事はせん。おぬしらいくら出す?」と言うと文化祭の収益の半分を出すそうじゃ。期待できんの。
それで、夜明け前からイノシシを獲ってきての、召喚術でハンタークラブの部室前に飛んでそこの木に逆さに吊るして血を抜いておいたわ。あとは知らん。
用事を口実に抜け出せたので、けっこう一日楽しめたのう。
生徒会主催の武闘会が一番盛り上がっておったかのう。
全身鎧の槍使いの三年が優勝じゃったが、準優勝はあのだんまり男のトラスタンじゃ。劇の役をクビになってよかったのう。
一年生が準優勝じゃからたいしたものかもしれんがの、わしが飛び入りで出場しておったらどうなっておったかわからんぞ? つまらんのう。
兄上はここでも裏方じゃ。対戦表の塗りつぶしをやっておった。
つくづく地味な男じゃの。
一応ハンタークラブの焼肉屋の出店、見に行ったがのう、最悪じゃ。
吊るしたシシをの、腹裂いて内臓ドバドバで見ていた人から悲鳴が上がったわ。
ザクザク雑に皮剥ぎしての、客の食欲はドン底じゃ。
だいいち獲ってきたばかりの肉を焼こうが煮ろうが肉が硬くなって噛み切ることもできんじゃろう。わしだって炊き出し実習で獲ってきた肉は三日前のものでちゃんと熟成させたものを使ったわ。そんなことも知らんのかのう。
つまりの、ハンタークラブというのは名ばかりのド素人集団じゃ。
神聖なる山の恵みをだいなしにしおってなんというヘタレ揃いじゃ。
あれでは売り上げはさんざんであったろうのう。
母上はもう帰った後だったみたいだがのう、文化祭の最後にやっとった演劇部の劇はなかなか良かったの。なんで辛抱して最後まで見ていかん。
ヘタレ勇者がハーレムパーティーを作ろうとしてことごとく失敗しては恥をさらすという喜劇じゃ。勇者というのも大変じゃのう。いつも邪魔しに来る悪魔仮面というやつがまた悪いやつでの、パーティーにおなごを入れるたびにそいつが現れて勇者をボコボコにしていくのだからのう。気の毒じゃが笑えたわ。
キャロラインがのうーわしを一日中探しとったみたいでのう――。
「どこいってたのよう!」とメイド服姿でぷんすかしとった。
キャロルのクラスはメイド喫茶をやっておったそうじゃ。
大繁盛だったそうじゃ。
そりゃあ、本物の国王の第三王女がメイド服着て「おかえりなさいませご主人様!」とやるのだから学園の殿御はみんな行くじゃろ。
「どうこれ?」と言ってメイド服をヒラヒラさせて乳をぶるんぶるんさせてわしに見せてくれたがの。
メイド服など着て喜ぶおなごなどキャロルぐらいじゃ……。
要するに使用人じゃからのう……。底辺職じゃぞ?
ちゃんと楽しめたから、放っておいてもらってよかったのじゃがの。
来年も楽しみじゃ。来年こそ、わしもちゃんとなにかやってみるかの。
1028年10月1日 ナーリンより。
次回「炊き出し実習で牛丼を作るのじゃ」




